第四百十五話 教導大隊vs邪神ロロネー(二)
トゥルムは、自分の腹部に食い込んだロロネーの半斧槍を引き抜くと、傷の具合を確かめる。
(・・・出血しているが、傷は浅い。だが、手当無しで長時間は戦えまい)
トゥルムが再び三叉槍を構えると、起き上がったドミトリーはトゥルムに駆け寄り、トゥルムの腹部に両手を向けて回復魔法を掛ける。
「トゥルム! 大丈夫か!? 魔法を掛けるぞ! ・・・治癒!」
トゥルムの傷口は塞がり、出血は止まる。
「すまない」
回復魔法を掛けたドミトリーが拳を構えてトゥルムの隣に並び、両手剣を構えたエルザもトゥルムの隣に並ぶ。
ナディアは三人の後ろで身構える。
戦闘態勢を取った四人をロロネーがあざ笑う。
「アヒャヒャヒャヒャ! 雑魚が群れようが、無駄な事だ!」
「ウォオオオオ!!」
トゥルムは雄叫びを上げながら踏み込むと、一気にロロネーとの間合いを詰め、鋭い三叉槍の突きを放つ。
「ヒャッハーーー!!」
ロロネーは高く飛び上がってトゥルムの三叉槍の突きを躱すと、右手に持った半斧槍を振り下ろす。
ロロネーの半斧槍がトゥルムの鱗鎧の肩当を砕き、肩口に食い込む。
「グウァアァァ!!」
ドミトリーは、樽のような身体で軽快な動きを見せ、トゥルムの尾から背中へと駆け上がり、空中に飛び上がったロロネーに向かって飛び蹴りを放つ。
「そりゃああああ!!」
一瞬、ロロネーの胴体にドミトリーの飛び蹴りが炸裂したかのように見えた。
「おぉっ!? ・・・ナ~ンチャッテ!」
次の瞬間、ロロネーは、左腕の肘と左の膝で飛び蹴りを放つドミトリーの右脚を挟むように打撃する。
ドミトリーの右脚があらぬ方向へと曲がり、ドミトリーは絶叫しながら両手で右足を抑えて落下する。
「ドワーフ! 脚が折れたな?」
「オァアアアーー!?」
ロロネーは着地すると、折れた脚を抑えながら地面に落ちたドミトリーをあざ笑う。
「アヒャヒャヒャヒャ!!」
エルザは、両手剣を振り上げて着地したロロネーに大上段から斬り掛かる。
「おんどりゃあああ!!」
ロロネーは、エルザの両手剣の斬撃を身を反らして躱す。
エルザは、両手剣を振り下ろした勢いに乗って身を翻すと、ロロネーの頭部を狙って、後ろ回し蹴りを放つ。
「おりゃあああ!!」
ロロネーは、身体を捻りながら屈んでエルザの後ろ回し蹴りを避けると、地面すれすれの回し蹴りを放って、後ろ回し蹴りを放つエルザの軸足を払う。
「って、・・・えっ!?」
ロロネーに軸足を払われたエルザは、転倒して背中を打つ。
「きゃん!!」
「アヒャヒャヒャヒャ!!」
ナディアは前に出て、転倒したエルザを背に庇うように召喚魔法を唱える。
「戦乙女の戦槍!!」
ナディアの前に三つの光の玉が召喚され、それらは光の矢となってロロネーに向かって飛んで行く。
ロロネーの道化服に薄い緑色の光を放つ無数の東洋文字が浮かび上がると、ロロネーの周囲に球状の魔力の防壁が現れてナディアの魔法を弾き、三つの光の矢は、あらぬ方向へと飛んで行く。
ナディアは魔法が無効化され驚いて目を見開く。
「そんなことって!?」
「アヒャヒャヒャヒャ!!」
トゥルムは、出血している左肩の傷をそのままに、歯を食いしばりながら右腕一本で三叉槍を構えてロロネーに対峙する。
「ぐぅうう・・・」
ロロネーは、トゥルムの姿を見て感心する。
「ほう? あの一撃を受けて、まだ立ち上がるか? 蜥蜴人」
ロロネーは右腕で肩に半斧槍を担ぐと、掌を上になるように左手をトゥルムに向けて伸ばしてポーズを取りながら、トゥルムに告げる。
「見上げた意気だ。蜥蜴人。・・・その意気に免じて、そこの女二人を神である我に捧げるなら、お前は見逃してやる」
トゥルムは、ロロネーを睨みながら答える。
「断る!」
ロロネーは、続ける。
「・・・お前が命懸けで女達を守ったところで、そこのエルフと獣人の女は蜥蜴人である、お前の仔は孕めんのだぞ?」
ロロネーからの悪魔の囁きに、トゥルムは怒りの咆哮の如く答える。
「ふざけるな! 我が名はトゥルム・ドルジ! 戦士の一族だ! 自らの命を惜しんで、仲間の女を敵に差し出し、命乞いをするとでも思ったかぁ!」
「ならば、死ね。蜥蜴人」
ロロネーは、凶悪な笑みを満面に浮かべながら、半斧槍を振り上げる。
その瞬間、二本の投げナイフがロロネーの元に飛んで来る。
ロロネーは、半斧槍で飛んで来たナイフを撃ち落とすと、ナイフが飛んで来た方向に目を向ける。
ロロネーに向けてナイフを投げたのは、アルであった。
アルは、小隊の仲間達の元に駆け寄ると仲間に向けて軽口を叩く。
「待たせたな! 『真打ち登場』ってヤツさ!」
トゥルム、ドミトリー、ナディア、エルザは、叫ぶ。
「アル!!」
アルは、仲間達の前に出てロロネーと対峙すると、斧槍を大きく二回振り回して正眼に構え名乗りを上げる。
「我こそは『黒い剣士』こと帝国無宿人ジカイラが一子、アルフォンス・オブストラクト・ジカイラ・ジュニア!! いざ!!」
ロロネーは、目を細めてアルを睨むと高笑いする。
「アヒャヒャヒャヒャ! 面白れぇぞ、クソガキが! 遊んでやらぁ!」