第四百十一話 邪神ロロネー復活
--総督府の地下室
アルベルト・ラーセン達が見守る中、地下室に人の姿に形を変えた肉塊が降り立つ。
オカッパ頭、瓶底眼鏡、出っ歯でネズミのような顔をした小男。
外観は、まさにキャスパーそのものであったが、緑色の道化服を着ていた。
アルベルト・ラーセン達四人は、開いたままの鉄格子の扉から中に入ると、現れた男が口を開く。
「・・・我が名は、ロロネー。人が造りし神」
アルベルト・ラーセンは口を開く。
「おぉ! 無事に現れたな!・・・ロロネーとやら。早速、総督の私がお前に命令する! 外の反乱軍を蹴散らしてこい!」
ロロネーは、無視するようにアルベルト・ラーセンからの言葉には答えず、宙に向かって手をかざす。
ロロネーがかざした手の先の空間に穴のようなものが開き、ロロネーが穴に手を入れて中から武器を取り出すと、穴は閉じて再び何も無い空間に戻る。
ロロネーの身長と同じ位の長さの武器は、半斧槍といった形をしており、ロロネーは手にした武器を両手で確かめる。
無視されたアルベルト・ラーセンは、いきり立つ。
「おい! お前! 聞こえているのか!? 早くしろ!」
ロロネーは、睨み付けるようにジロリとアルベルト・ラーセンを見る。
「・・・お前。さっき、オレを蹴ったな?」
ロロネーの中では、キャスパーとロロネーの意識と記憶が混在していた。
アルベルト・ラーセンは答える。
「そうだ! また、蹴られたいか!? 早くしろ!」
次の瞬間、ロロネーが横殴りに振った半斧槍がアルベルト・ラーセンの頭を叩き割る。
アルベルト・ラーセンは、即死であった。
その場に崩れ落ちるアルベルト・ラーセンの死体を見下ろしながら、ロロネーは高らかにあざ笑う。
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
ロロネーの甲高い笑い声が地下室に響き渡る。
「キサマァ!!」
「野郎!!」
総督を殺されたカスパニア兵達は一斉に剣を抜き、ロロネーに斬り掛る。
ロロネーは、斬り掛ってきたカスパニア兵の一人の剣を身を反らして避けると、半斧槍でその首を跳ねる。
更にもう一人のカスパニア兵の胸に半斧槍を突き立て殺害すると再び高らかに笑う。
「アヒャヒャヒャヒャ! 雑魚が!」
「クソッ!!」
一人残った女士官はレイピアでロロネーに斬り掛かるが、ロロネーは振り下ろされたレイピアの一撃、その刃をピタッと左手の指先で掴んで止める。
「なっ!?」
「アヒャヒャヒャヒャ! 遅いんだよ。お前」
女士官が驚愕していると、ロロネーは左手で掴んだレイピアを力づくで女士官から奪い取り、その切先を床に突き立てて足で踏み付け、ヘシ折って見せる。
「アヒャヒャヒャヒャ! こんな鈍で神であるオレが斬れる訳ねーだろ!」
ロロネーは、両手を広げながら女士官に近づいて凄む。
「さぁ・・・。もうお前の武器は無いぞ。どうする? アヒャヒャヒャヒャ!」
「ヒ、ヒィィ・・・」
(・・・殺される!!)
女士官は、絶望と恐怖のあまり身体が小刻みに震え、カチカチと奥歯が音を立てる。
ロロネーは、恐怖に怯え涙目で顔を引き攣らせる女士官に、更に顔を近づけて凄む。
「言うとおりにするなら、命だけは助けてやる。・・・跪け」
怯える女士官は、ロロネーに命じられた通り、その前に跪く。
ロロネーは、跪く女士官を見下ろしながら歪んだ笑みを浮かべる。
ロロネーは、女士官の姿を眺めて悦に入ると、腰の後ろから無数の黒い触手を伸ばして女士官を暴行する。
ヒナが放った第十位階魔法『絶対零度氷結水晶監獄』の影響で周囲一面が雪景色となり、空から小雪が舞い散る中、アレク達三個小隊は陥落させた総督府で総督を捜索していた。
総督府の入口には食人鬼達が、その後ろではカスパニア兵達が凍り付いて氷像のように佇んでいた。
アレク達が総督府の敷地の中に入ると、総督府の建物はストーンゴーレムが頭突きするように頭から突っ込んで半壊しており、天井や壁の至る所が崩れ、瓦礫が廊下に落ちていた。
アルは、通路を歩きながら口を開く。
「なぁ、アレク。総督は生きていると思うか?」
アレクは、答える。
「さぁ・・・? あの魔法の直撃を受けて生きているとは思えないし。・・・もう、死んでいるんじゃないか?」
ナタリーは、アレク達の後ろでルイーゼに尋ねる。
「ルイーゼ。どう? 盗賊系の技能で何か判る?」
ルイーゼは首を横に振って答える。
「ダメね。・・・私達以外、生きている者の気配が無いわ」
トゥルムは呟く。
「ふむ。忍者のルイーゼでも、探知できないとは。・・・総督は既に死んでいるようだな」
ドミトリーも口を開く。
「気配が無いとは。総督の死体を探すとしても、瓦礫の下に埋まっているのではないか?」
ドミトリーの言葉を聞いたアレクは、総督府の瓦礫をつま先で小突きながら呟く。
「瓦礫の下か・・・」