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第三十九話 男爵領 中央部東側 開拓村 防衛戦(五)

 ルイーゼの声を聞いたジカイラが叫ぶ。


投石器(カタパルト)だ! 回避! 避けろ!」


 次の瞬間、鼠人(スケーブン)投石器(カタパルト)から巨大な石が放たれる。


 第四中隊のバジリスク小隊の隊列に巨大な石が飛んでくる。


「うわぁああ!」


 ジカイラの回避指示が早かったため、バジリスク小隊のメンバーに直撃こそしなかったものの、第四中隊は隊列を大きく崩してしまう。


 巨大な石は、キャスパー男爵の目の前に落下する。


「ヒィイイイイ!!」


 キャスパーは腰を抜かしてヘタリ込み、恐怖のあまり失禁して白目を剥いて失神した。


 形勢の不利を悟ったジカイラが指示を出す。


「撤退だ! 村の中に退くぞ! ヒナ、撤退の合図を!」


「了解!!」


 ジカイラからの指示を受けて、ヒナが赤の発煙筒に点火する。


 撤退の合図が行われたことで、開拓村の東門が開けられる。


 再びジカイラが叫ぶ。


「退くぞ! 撤退だ!」


 第四中隊は、防御態勢を取りながら東門の中へと後退していく。


 失神したキャスパーは、バジリスク小隊の他の隊員によって両脇を抱えられ、引きずられていく。


 鼠人(スケーブン)達の投石器(カタパルト)から散発的に石が飛んでくるものの、第四中隊に直撃することは無かったが、開拓村の木壁には大きなダメージを与えていた。





 第四中隊全員が開拓村の中に入り、再び東門が閉じられる。


 ジカイラがアレク達第四中隊を労う。


「お前達、良くやった。これで、充分、時間は稼げただろう。次の指示があるまで、揚陸艇の中で休め」


 アレク達第四中隊は、揚陸艇に乗り込み格納庫の座席に座る。


 座席に座ったアルが口を開く。


「何とかなったな。しかし、腹減ったなぁ・・・」


 未明の早朝から始まった戦闘は、既に昼を過ぎるまで続いていた。


 アルの言葉を聞いたナタリーは微笑み、小道具入れから袋に入ったクッキーを取り出すと、一つアルに渡す。


「アル。お腹、空いてるでしょ? これしか無いけど・・・」 


 アルは、ナタリーから受け取ったクッキーを食べる。


「ありがとう」


 アルとナタリーの微笑ましい光景に、ユニコーン小隊の皆が笑顔を見せる。


 そのアレク達ユニコーン小隊の前を、失神したキャスパーがバジリスク小隊のメンバーに両脇を抱えられて引きずられていく。


 アルは、両脇を抱えられて引きずられていくキャスパーを横目で見ながら、アレクに呟く。


「あのオカッパ頭、普段は偉そうにしているのに、投石器にビビって失神したみたいだな」


 アレクも呟く。


「おまけに失禁までして・・・何が『帝国貴族』だ。情けない」


 エルザが口を開く。


「大の男がお漏らししちゃうなんて、よっぽど怖かったようね」


 ナディアも口を開く。


「彼、しばらくの間は『お漏らしキャスパー』って呼ばれるでしょうね」


 エルザとナディアの話を聞いたルイーゼとナタリーが口元に手を当ててクスクス笑う。


 トゥルムも口を開く


「なんて不名誉な『()()()』だ」


 ドミトリーも口を開く。


「トゥルム。それは『()()()』というより、『()()』だろうて』


 ドミトリーの言葉を聞いたユニコーン小隊の皆が笑い出す。





 第三中隊の隊員にジカイラが尋ねる。


「第三中隊! 住民の避難状況はどうだ?」


「開拓村の住民全員の揚陸艇への避難は完了しました」


「よし! 第一中隊と第三中隊は揚陸艇に乗り込め。 準備が出来次第、離陸しろ。 段階的に退くぞ!」


「了解しました」





 開拓村の住民と、第一、第二、第四中隊を乗せた揚陸艇が離陸する。


 離陸した揚陸艇は、地上三十メートルほどの上空で滞空する。 

 

 鼠人(スケーブン)達の投石器(カタパルト)による投石攻撃で、少しずつではあったが、開拓村の木壁は破壊されていた。


 ジカイラは、ヒナと共に木壁の櫓に登って状況を確認する。


鼠人(スケーブン)達が木壁に取り付くまで、少し時間がありそうだな・・・)


 ジカイラが指示を出す。


「第二中隊、揚陸艇に乗り込め。撤退しろ。ヒナ、締め括りの魔法を頼む!」


「了解しました」


 第二中隊は木壁と櫓から離れて、揚陸艇に乗り込む。


 ヒナは、笑顔でジカイラに答える。


「任せて!」


 ヒナは、両手を上げ天を仰いで魔法の詠唱を始める。


Manna,(マナ、) människans(マニスハンス) alla(・アラ) saker(・サケ)

(万物の素なるマナよ)


Loki(ロキ・) och(ウー・) Anglebosas(アングルボサ・) förstfödda(フゥシュトフッダ)

(ロキとアングルボサの長子)


 ヒナの足元に一つ、頭上に魔法陣が等間隔で六つ現れる。


Allt(アルト) det(・デ・) onda(オンダ) (・プ) jakt(・ヤクト) efter(・エフタ) solen(・スウォーレン) och(・ウー・) månen(モーナン)

(太陽と月を追い求める万物の災厄)


 大気中から無数の光線が鼠人(スケーブン)の軍勢の上空へ向けて伸びていき、雲を作る。


Jag(ヤー・) vill(ヴィレ・) vara(ヴァラ・) med(メデ・) dig(ディー・) från(フォアン・) eviga(エァヴィガ・) fängelser(フィーゲルセー)

(両極の牢獄より常世に現さんと欲す)


Var(ヴァー・) nu(ヌー・) Fenrirs(フェンリル・) tänder(テンダ・) här!!(ハー!!)

(今、此処にフェンリルの牙となりて現出せよ!!)


Penetrera(ペネティアラ) min(・ミン・) fiende!!(フィエンデ!!)

(我が敵を貫け!!)


氷結水晶槍(クリスタル・ランス)貫通雨撃(ピアッシング・レイン)!!」


 ヒナが魔法の詠唱を終えると、魔法陣は光の粉となって大気中に砕け散った。


 上空の雲から、無数の氷の槍が鼠人(スケーブン)の軍勢に降り注ぐ。


 氷の槍は、投石器(カタパルト)と共に鼠人(スケーブン)達の体を貫き、地面に刺さる。


 ヒナの魔法の効果を確認したジカイラが傍らのヒナに告げる。


「上出来だ。オレ達も揚陸艇に退くぞ。オレとお前が殿で最後だ」


 第三中隊とジカイラ、ヒナが乗り込んだ最後の揚陸艇が離陸する。


 



 こうして、開拓村の住民と教導大隊が分乗した揚陸艇は、州都キャスパーシティを目指して撤退した。



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