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アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第十五章 狂乱の道化師
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第四百八話 生贄

-- 少し時間を戻した属州総督府


 ホラント総督であるアルベルト・ラーセンは、属州総督府の地下室を目指して丸々と太った身体で必死に走り、階段を降りていた。


 汗だくになって必死に階段を降り続け、息を切らせながら呟く。


「はぁ、はぁ・・・。反乱軍だ! 反乱軍が来た!」


「・・・捕まれば殺される! 殺される!」


「・・・嫌だ! 嫌だ! 死にたくない!」


 アルベルト・ラーセンは、やっとの思いで地上までの階段を降りて地下室への入口にたどり着く。


 通常、地下室には捕虜や犯罪者などを収監しておくため、地下室への入口には地下室を警備する女士官と二人のカスパニア兵が歩哨に立っていた。


 アルベルト・ラーセンは、大量の鍵が付いている鍵束の中から地下室への扉の鍵を取り出すと、開錠して扉を開く。


 古びた丁番が悲鳴のような音を上げながら分厚い扉が開かれて行き、中の通路から湿度の高い異様な空気が漏れ出て来る。


 アルベルトラーセンは、分厚い地下室への扉を開けると見張りに立つ三人を呼ぶ。


「お前達も来い!」


「ハッ!!」


 総督であるアルベルト・ラーセンに命じられ、三人はそれぞれ松明を手に取って火を点けるとアルベルト・ラーセンと共に開かれた扉を抜けて地下室への通路に入って行く。





 石造りの通路に入ったカスパニア兵の一人が分厚い扉を閉めた途端、大きな衝撃と共に扉とその周囲が凍り付く。


「うおっ!?」


「えっ!?」


「なんだぁ?」


 カスパニア兵と女士官は、凍り付いた入口の扉とその周囲を見て驚くが、アルベルト・ラーセンには、ピンときた。


(来た! 氷の魔女だ!!)


「一番奥の部屋だ! 急げ!」


 アルベルト・ラーセンと三人は、螺旋状になって降りていく通路を一番奥の部屋へと急ぐ。




 

 地下室の一番奥の部屋にたどり着いたアルベルト・ラーセンは、再び鍵束を取り出して部屋の格子の鍵を開け、中に入る。


「ここだ」


 三人のカスパニア兵達は、それぞれ手に持っている松明を壁の背丈ほどの高さにある腕木で突き出させた照明用の燭台に挿す。


 松明の灯りが暗い地下室の中を照らし出していく。


 湿気によって所々に苔が生えた石造り地下室には、小さな木のテーブルが一つ置いてあり、奥には壁に鉄鎖で両腕を繋がれてぶら下がり、うなだれ、俯いている人間がいた。


 女士官は、尋ねる。


「閣下。こいつは一体?」


 アルベルト・ラーセンは、鉄鎖で繋がれた者へ侮蔑した目線を向けながら答える。


「ただの奴隷だ」


 アルベルト・ラーセンの言葉で、鉄鎖で壁に繋がれ俯いていた人間は、目を覚ましたように顔を上げる。


「貴様! この私に向かって、『奴隷』とはなんだ! 『奴隷』とは! 私は帝国貴族だぞ!」


 鉄鎖で壁に繋がれた者が甲高い声で反論する。


 オカッパ頭、瓶底眼鏡(びんぞこめがね)、出っ歯で小柄なネズミのような顔をした神経質そうな小男。

 

 初代キャスパー・ヨーイチ元男爵であった。



 初代キャスパーは、トラキアで極左テロ組織トラキア解放戦線のリーダーであった極左テロリストのアクエリアス・ナトと合流して行動を共にしていたが、カルロフカ消滅と極左テロ組織トラキア解放戦線の壊滅によって再び流浪の身となっていたところを人狩りに捕まり、奴隷商人によってカスパニアに売り渡されていた。




 アルベルト・ラーセンはカスパニア兵たちに命令する。


「こいつの鎖を外せ」


「はっ」


 カスパニア兵の一人がキャスパーを壁に繋いでいた手錠と鉄鎖を外すと、解放されたキャスパーは床の上にへたり込み、繋がれていた自分の手首を擦る。


「貴様・・・、どういうつもりだ?」


「だまれ!」


「ぐふっ」


 アルベルト・ラーセンは尋ねてきたキャスパーの腹を蹴ると、嗚咽と共にキャスパーは前のめりにうずくまる。


 アルベルト・ラーセンは、懐から金色に輝くパズルボックスを取り出すと、必死にパズルボックスを解きながらカスパニア兵達三人に命令する。


「いいか? 私が合図したら一斉に部屋を出ろ」


「はぁ・・・」


 意図が理解できないカスパニア兵達は、小首を傾げながら気の無い答えをする。


(早く! 早く! 早く! 早く! ・・・反乱軍が来る!)


 アルベルト・ラーセンは、焦って間違えるなど何度もやり直しながらパズルボックスを『あと一手』まで解くと、小さな机の上にパズルボックスを置く。


「いいか? 合図するぞ・・・・それっ!!」


 アルベルト・ラーセンは、最後の一手であるパズルボックスのフタを閉めると同時に合図して、三人を連れてキャスパーの部屋から出る。


 四人は、部屋の外から鉄格子越しに解けたパズルボックスを見詰める。





 解かれたパズルボックスは、小さなテーブルの上でカタカタと小刻みに震えながら周囲に怪しげな光を放って輝きだす。


 アルベルト・ラーセンは、その様子を見て、顔に喜悦を浮かべる。


「おおっ! ・・・いよいよだ!!」


 女士官は尋ねる。


「閣下。あの小箱は一体?」


 アルベルト・ラーセンは、笑顔で得意気に答える。


「あのパズルボックスは、反乱軍を撃滅するためにダークエルフから買い入れた魔道具だ! 今、その魔道具に生贄(いけにえ)の奴隷を与えたのだ! ・・・じきに発動するぞ!!」


「おおっ!!」


 カスパニア兵達も喜びを顔に浮かべる。


 やがてパズルボックスの放つ光は一つの束に集約され、床の上にへたり込むキャスパーを照らし出す。


 床の上でうずくまるキャスパーが、顔を上げテーブルの上に顔を向けて訝しむ。


「なんだ・・・? (まぶ)しいな」


 一つの束に集約された光がパズルボックスの中にキャスパーを吸い込んで行く。


「うわぁああああ!!」


 キャスパーを吸い込んだパズルボックスは、光を放つことを止め、乾いた金属音を立てながら勝手に自身の形状を変えていく。


 変形が終わったパズルボックスから無数の黒い粒子が噴き出て、パズルボックス上で黒い球体に集まっていく。


 ひと呼吸ほどの後、空中に浮かんだまま、黒い球体は受肉したように肉塊へと形を変え、肉塊は人の形へと変わっていく。


「おおぉ!!」 


 アルベルト・ラーセン達は、目を見開き感嘆しながら黒い粒子が受肉して人の形へと変わっていく様子を見詰める。


 人の形になった肉塊は、部屋の床の上に静かに降り立つ。


  

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