第四百話 州都攻略戦(二)
「さぁ、エルザ! 行くわよ!」
そう告げると、ナディアはストーンゴーレムの後を走って追い掛けていく。
「ええ! 今日、私達は『伝説』になるのよ!」
エルザもナディアの後を追って走っていく。
走りながらエルザは歓声を上げて飛び跳ねる。
「きゃっほーい!!」
アルは、呆れた仕草をしながらアレクに話し掛ける。
「なぁ~にが『きゃっほーい!!』だ。調子に乗り過ぎだろ・・・。アレク、オレ達も行こうぜ! あの二人がやらかしたら、オレ達が止めないとな!」
アレクは、アルに答えると号令を掛ける。
「ああ! ユニコーン小隊、前進! 二人を追うぞ!!」
「おぉ!!」
アレク達は、二人の後を追う。
ルドルフの傍らでアンナはナディアがストーンゴーレムを召喚する様子を見ていた。
現れた六つの魔法陣。
そして、呪符を元に形を成した十二メートルはある巨大な石の巨兵に、黒髪のツインテールを揺らしながら目を見張る。
(第六位階魔法!? ・・・凄い! あのエルフ女、あんなに大きな下僕が召喚できるなんて!)
アンナは、以前、ルドルフに連れられてアレクの病室にお見舞いに行った時、ナディアに『未通女』とからかわれ、含むところがあった。
しかし、ストーンゴーレムを召喚したナディアの実力を目の当たりにし、過去の蟠りは消えてしまう。
ルドルフは、傍らのアンナに告げる。
「アンナ、見たか? あれがユニコーンの実力だ。オレ達も負けてられないな」
「うん!」
「グリフォン、前進! ユニコーンに遅れるな!」
ルドルフ達、グリフォン小隊もアレク達を追う。
フレデリクは、頭を掻きながら短く舌打ちして呟く。
「チッ! 見せつけてくれるねぇ。こっちは中堅職しかいないってのに。・・・フェンリルも行くぞ! ユニコーン、グリフォンに続け!」
フレデリク達、フェンリル小隊も先の二小隊を追う。
そして先陣の三個小隊の後をジカイラが率いる教導大隊が続き、その後ろにマイヨが率いる独立義勇軍が続いていく。
正門前の防御陣地で迫り来る巨大なストーンゴーレムの姿を見た蛙人兵団は、恐慌状態に陥り狼狽する。それは城門や城壁に陣取るカスパニア軍も同様であった。
(なんだ? あれは?)
(巨像だ! 石の巨像だ!)
(こっちへ来るぞ!)
(投石器だ! 投石器で撃て!)
(大砲だ! 大砲を撃て! 砲兵、撃て!)
城門や城壁に陣取るカスパニア軍と正門前の防御陣地に陣取る蛙人兵団は、迫り来るストーンゴーレムに向けて防御陣地や正門の上に据え付けた大砲や投石器で一斉に攻撃する。
ストーンゴーレムは、次々と飛来する投石器による投石を左手で払い除け、鋳鉄でできた無数の砲丸を身体にめり込ませながら、何事も無かったかのように正門へ向けて突進を続ける。
カスパニア軍と蛙人兵団からの砲撃をものともしないストーンゴーレムは、蛙人兵団の木柵を轟音と共に踏み潰し、大砲の砲列を地震のような地響きと共に防御陣地ごと蹴り飛ばし、蹴散らして突き進んでいく。
ナディアとエルザは、蛙人兵団を蹴散らしたストーンゴーレムの雄姿に歓声を上げる。
ナディアは、正門を指差しながら笑顔で歓声を上げる。
「行っけぇー!!」
エルザも右手で拳を握り、突進を続けるストーンゴーレムの雄姿に歓声を贈る。
「ブチかませー!!」
突進するストーンゴーレムが正門の目前に迫り、城壁や城門に詰めていたカスパニア兵は、蜘蛛の子を散らしたように一斉に逃げ出す。
「ウァァァアーー!!」
「ダメだこりゃ!!」
「逃げろーー!!」
突進するストーンゴーレムは、州都ライン・マース・スヘルデの正門に、そのまま右肩からの体当たりで突っ込む。
正門の周辺に凄まじい地震のような地鳴りと轟音、砂塵を巻き上げる土煙が沸き起こる。
ストーンゴーレムの体当たりによって、分厚い鋼鉄で作られていた吊り下げ式の門扉は、吊り下げていた鉄鎖が千切れて吹き飛び、市内の大通りまで吹き飛んで行く。
門扉が備え付けられていた高さ十メートルほどの石造りの楼門は、ストーンゴーレムの体当たりによって、木っ端微塵に吹き飛ぶ。
濛々と巻き上げられた土煙の中、正門を体当たりで突破したストーンゴーレムは、市内に入ったところで直立不動の姿勢で立ち止まる。
エルザとナディアは、巻き上げられた土煙の中、大破して木っ端微塵になった正門を駆け抜けると、州都市内に入って立ち止まったストーンゴーレムの足元へ行く。
すると二人は、すぐ近くに地面に両手と尻を着いてへたり込み、唖然とした顔でストーンゴーレムを見上げたままでいるカスパニア兵を見つける。
エルザは、したり顔で右手の人差し指を立てながら、へたり込んでいるカスパニア兵に語り掛ける。
「いいこと? 今日、この州都の正門を突破したのは、ユニコーンの獣耳アイドル・エルザちゃんと・・・」
ナディアが続く。
「エルフの美人召喚師、ナディアお姉さんよ!」
二人はストーンゴーレムの足元へ戻ると、ナディアはストーンゴーレムに命令を下す。
「Возьми нас Underway! Каменный гигант!!」
(我らを連れて、進め! 石の巨兵よ!!)
ストーンゴーレムは、『承知した』と言わんばかりに両目を一度、大きく赤く輝かせると、ナディアとエルザの二人を右手の掌に乗せて胸の高さに持ち上げる。
ナディアは、勝ち誇った笑みを浮かべながら腕を組んで仁王立ちすると、エルザに告げる。
「エルザ! カスパニアに鉄槌を下すわよ!」
エルザは、胡坐をかいて座ると、拳を握った右手を振り上げながら叫ぶ。
「ええ! 行くわよ! 総督、覚悟~!」
二人が気勢を上げたのを合図に、ストーンゴーレムは属州総督府を目指して再び走り出した。
アルは、正門へストーンゴーレムが体当たりする様子を見て、軽口を叩く。
「うっひょぉ~! あの二人、ド派手にやりやがった!」
ナタリーも口を開く。
「街の人達、大丈夫かしら・・・」
ルイーゼは答える。
「大丈夫みたいよ。上手く正門だけを壊したみたいね」
トゥルムも口を開く。
「まさかストーンゴーレムを正門に体当たりさせるとは!」
ドミトリーは答える。
「あの二人は『壊すこと』と『暴れること』に関しては天才的だ!」
アレクは、小隊の仲間達に告げる。
「カスパニア軍も蛙人兵団も大混乱でオレ達に気付いていない。今がチャンスだ! 一気に正門を突破して総督府へ行こう!」
アレク達は、巻き上げられた土煙の中、大破した正門を駆け抜けて総督府を目指す。