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アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第三章 辺境派遣軍

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第三十九話 男爵領 中央部東側 開拓村 防衛戦(四)

 警報が鳴り響く格納庫で、再び伝令が叫ぶ。


「敵だ! 鼠人(スケーブン)の軍勢が攻めて来たぞ!」


 格納庫の座席で眠っていたジカイラは直ぐに飛び起き、伝令に聞き返す。


「敵はどこだ!?」


 伝令が答える。


「敵軍は、村の東側です!」


 ジカイラは揚陸艇を降りると、村の東側の木壁にある物見櫓に登り、村の東側を見る。





 開拓村の東側に広がる原野には、鼠人(スケーブン)の軍勢が展開し、開拓村に迫っていた。


 ジカイラは、彼我の戦力差を考える。


(……マズイな。教導大隊の戦力で、あの軍勢を防ぎきるのは難しい……)


 ジカイラは、揚陸艇の前まで戻ると『村からの撤退』を視野に入れて指示を出す。


「第一中隊、第二中隊は、村の木壁と櫓で防衛に当たれ! 第三中隊は住民を揚陸艇に避難させろ! 機会を見てこの村から撤退する!」


 揚陸艇から降りてきたヒナがジカイラに尋ねる。


「ジカさん、第四中隊はどうするの?」


「第四中隊はオレに続け! ヒナ、お前も一緒に来い!」


「判ったわ!」





 伝令たちは、ジカイラからの指示を伝えるため駆け足で各中隊に向かう。


 連絡を受けたアレクたち第四中隊が揚陸艇から降りて、ジカイラとヒナの前に集まる。


 集まった第四中隊にジカイラが告げる。


「集まったな。村の東側から敵軍が迫っている。我々は、住民たちを連れて、機会を見てこの村から撤退する。オレとヒナ、お前たち第四中隊は、撤退準備が整うまで東門の外で時間を稼ぐ」


 ジカイラからの指示内容に中隊がざわめく。


 アルが呟く。


「撤退……」


 トゥルムも口を開く。


「逃げるのか?」


 ジカイラが口を開く。


「落ち着け! 教範どおりやれば問題無い! ……それじゃ、行くぞ! 第四中隊、続け!」


 ジカイラ、ヒナ、アレクたち第四中隊は、小走りで村の東側の原野に向かう。






 ジカイラたち二人と第四中隊は、開拓村の大通りを通って村の東門を抜け、村に迫る鼠人(スケーブン)の軍勢に対し、隊列を整えて身構える。


 既にジカイラの指示を受けた第三中隊は住民の避難誘導を始め、両手に持てるだけの荷物を持った住民たちが、続々と揚陸艇に乗り込んでいた。


 ジカイラが傍らのヒナに話し掛ける。


「ヒナ、開幕の一撃に敵に魔法を叩き込め!」


「任せて!」


 鼠人(スケーブン)の軍勢が三百メートルほどまで近づくと、ジカイラが指示を出す。


「第四中隊、構え! 抜刀!」


 ジカイラとアレクたち第四中隊は盾を構え、剣を抜いて構える。


 一部の鼠人(スケーブン)の部隊が弓矢を射掛けてくるが、粗末な鼠人(スケーブン)の弓矢では、帝国騎士(ライヒスリッター)の盾を貫くことはできなかった。


 盾に当たった矢は、乾いた音を立てて弾かれ、地面に落ちていく。


 鼠人(スケーブン)の軍勢は、第四中隊を目指して突撃してくる。


 ジカイラがヒナに向かって叫ぶ。


「ヒナ! 今だ!」


 ヒナは大きく頷くと両手を広げ、魔法の詠唱を始める。


Manna,(マナ、) människans(マニスハンス) alla(・アラ) saker(・サケ)

(万物の素なるマナよ)


Loki(ルーキ) och(・オ・) Anglebosas(アングルボサ) dotter(・ドッター)

(ロキとアングルボサの娘)


 ヒナの足元に一つ、頭上に大きな魔法陣が等間隔で十個現れる。


Isgudinna(イースグディーナ) som(・ソン・) styr(スツゥル) de(・デ・) dödas(ドゥーダス) land(・ランド)

(死者の国を支配する氷の女神よ)


Elysnil,(イェーリンスゥニル、) isens(イーセンス・) prästinna,(プレスティナ、) fryser(フレィサー) för(・フォア・) alltid(アルティド)

(永遠に凍てつくエーリューズニル、氷の巫女よ)


Nu(ヌー・) är(アー・) det(デット・) dags(ダグ・) för(フォー・) Lagunarok(ラグナロク)()

(今こそ神々の黄昏の時!)


 大きな十個の魔法陣は、ヒナが鼠人(スケーブン)に向けてかざす両手の先に、前後に二つずつ、横一列に五個並んで位置取り、配置を変える。


Kommer(コンマー・) från(フロン・) Nivreheim(ニヴルヘイム)

(ニヴルヘイムより来たりて)


Låna(ルアナー) ut(・ウト) den(・デン) makten(・マークテン) till(・テル) mig!!(・ミグ!!)

(その力を我に貸し与え給え!)


絶対零度(タナトス・)氷結水晶(クリスタル)監獄(・プリズン)!」 


 ヒナの両手の先に並ぶ、横一列に五個並んだ大きな魔法陣から鼠人(スケーブン)たちに向けて、五本の巨大な円筒状の白い柱が伸びて飛んでいく。 


 空気の断層によってできた巨大な円筒の柱は、絶対零度の凍気を内包するため、外周は氷結した霜で白く覆われていた。



 

 ヒナが放つ魔法を見た教導大隊の学生たちは驚愕する。


「……第十位階魔法!?」


「凄い!」


「……さすが『革命戦役の英雄』」


 ヒナが放った第十位階魔法は、鼠人(スケーブン)たちの軍勢に命中する。


 轟音と共に巨大な白い霜の球体ができ、一呼吸置いた後、その白い霜の球体は砕け散った。


 五本の巨大な霜の円筒と白い霜の球体に捕らわれた鼠人(スケーブン)たちは、絶対零度の凍気によって一瞬のうちに凍りつき、その白い霜の球体と共に砕け散っていった。


 生き残った鼠人(スケーブン)たちの軍勢は尚も突撃を続け、第四中隊と激突する。 


 第四中隊は帝国軍の歩兵戦術教範通り、隊列を組んで盾を並べて敵の攻撃を防ぎ、呼吸を合わせて一斉に攻撃する戦術を取っていた。


 ジカイラが指示を出す。


「後列は、各個に援護しろ!」


 ドミトリーがユニコーン小隊の前衛メンバーに支援魔法を掛ける。


筋力(レッサー・)強化(ストレングス)!」


 ナディアがアレクたちに向けて手をかざし、召喚魔法を唱える。


矢弾からの(プロテクション・)防御(・フロム・アロー)!」


 緑色の淡い光がユニコーン小隊を包む。


 ナディアが続ける。


風の妖精(シルフ)の加護よ。これで矢は当たらないわ!」


 タイミングを見計らって、ジカイラが攻撃命令を出す。


Attacke!(アタック!)

(攻撃!)


 第四中隊の前列は、ジカイラの号令に合わせて一斉に盾で相手を押し返すと鼠人(スケーブン)たちを攻撃し、鼠人(スケーブン)たちの第一陣が崩れる。


 隊列を組んで盾を構えたまま、アルが軽口を叩く。


「こりゃ、否応無しに『歩兵戦術』『歩兵戦闘』が上手くなるわな!」


 アレクが冗談まじりに答える。


「事前に練習しておいて、正解だったね!」


 トゥルムも答える。


「私としては好都合だ!」


 エルザは、ご機嫌斜めであった。


「もっと、こう、簡単な、楽にやる方法は無いの!?」


 開拓村の木壁や櫓から鼠人(スケーブン)たちに向けて無数の矢が射られ、当たった鼠人(スケーブン)たちが倒れていく。


 鼠人(スケーブン)たちの軍勢の第二陣、第三陣と第四中隊が激突するが、いずれも第四中隊は撃破していく。


 再び、盾を構えたままアルが軽口を叩く。


「コレ、敵軍の撃破まで、いけるんじゃね?」


 アレクが諭す。


「アル、油断するなよ!」


 ルイーゼが叫ぶ。


「アレク! 屈んで!」


 ルイーゼの言葉を聞いたアレクは、直ぐに屈む。

 

 ルイーゼは、鼠人(スケーブン)に向けて、弓に番えた矢を放つ。


 ルイーゼの矢は、鼠人(スケーブン)の喉を貫き、喉に矢を受けた鼠人(スケーブン)は、仰向けに後ろに倒れた。


 アレクが屈んだことで、鼠人(スケーブン)たちの軍勢の様子がルイーゼの目に映る。


 鼠人(スケーブン)たちは、大型兵器を前線に引き出していた。


(あれは……!? まさか! 投石機(カタパルト)!)


 ルイーゼが叫ぶ。


投石機(カタパルト)よ!」


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