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アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第十五章 狂乱の道化師
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第三百九十五話 苦悩

 蛙人(トードマン)達が撤退したため、アレク達ユニコーン小隊の居る集落の大通りでの戦闘が終息すると、ルドルフ達グリフォン小隊やフレデリク達フェンリル小隊の戦闘も落ち着いたようで、三小隊が集落の中心に集まる。


 ルドルフとフレデリクがアレクの元にやって来ると、アレクは二人に告げる。


蛙人(トードマン)の奴ら、撤退して行ったな」


 ルドルフは、怪訝な顔で答える。


「ああ。意外に鮮やかな引き際だ・・・」


 フレデリクも口を開く。


「奴ら、脳みそが筋肉で出来ている訳ではなさそうだ」


 周囲を見回しながら、アレクは口を開く。


「『敵を撃退して集落を制圧した』と、大佐に報告しよう」


 フレデリクは答える。


「フェンリルは負傷者が出て治療中なんだ。すまんが動きが取れない。連絡は他の小隊で頼む」


 ルドルフは口を開く。


「大丈夫だ。グリフォンがジカイラ大佐に報告に行く。蛙人(トードマン)達が仲間を連れて戻って来るかもしれない。ユニコーンとフェンリルで現状を維持してくれ」


 アレクは答える。


「判った。ルドルフ、連絡を頼むぞ」


「了解」


 アレクは、報告に向かうルドルフ達グリフォン小隊を見送ると、集まっていたフェンリル小隊に目を向ける。


 フェンリル小隊の僧侶(プリースト)であるエマが負傷した仲間に回復魔法を掛けていた。


(負傷者が出るなんて。フェンリルは苦戦していたのか? ・・・中堅職しかいないと、こんなに違うのか)


(くそっ! 事前に敵の戦力を偵察するべきだった。戦力を三分割したのが失敗だったか・・・)


 『フェンリル小隊に負傷者が出た』と聞いたアレクが深刻な顔をして悩んでいると、ルイーゼはアレクに話し掛ける。


「アレク。アレクは良くやってる。済んだ事をあれこれ悩んでも仕方ないわ」


「そうだけどさ・・・」


 アレクは、改めて偵察の重要性と上級職と中堅職の戦力差を認識する。





--ホラント沖 公海上 帝国軍総旗艦ニーベルンゲン 


 バレンシュテット帝国ホラント派遣軍の総司令であるジークは、アストリッドと共に自分の私室に居た。


 ジークが執務机で黙々と仕事をしていると、アストリッドがジーク当ての二巻のフクロウ便の巻物を持って来た。


「ジーク様。フクロウ便です」


「すまないな。ありがとう」


 ジークは、アストリッドから受け取ったフクロウ便の巻物の封印を切り、羊皮紙に綴られた文書に目を通す。


 一通目は、キズナの実家に居るソフィアがジークの第一子の男児を無事に出産したこと。


 もう一通は、ツァンダレイのトラキア離宮にいるフェリシアがジークの子を懐妊したことを知らせるものであった。


 二通のフクロウ便に目を通したジークは、椅子に座ったまま無言で私室の窓の外に目を向ける。


(ソフィアが出産・・・。フェリシアが懐妊・・・)


 ジークの様子を見たアストリッドは声を掛ける。


「ジーク様。いかがされましたか?」


「ソフィアが無事、出産した。男の子だ。フェリシアも私の子を身籠ったとのことだ」


 アストリッドは、明るい笑顔で答える。


「まぁ! おめでとうございます!」


「・・・ありがとう」


 祝いの言葉にジークは表情を曇らせる。


 アストリッドはジークの表情から心中を読み取り、ジークに告げる。


「・・・ジーク様。本当はキズナに行って生まれてきた子供を抱いて出産したソフィアを労い、ツァンダレイにも行って、妊娠したフェリシアを励ましたいのでしょう?」


「・・・」


「けど、ジーク様は、帝国の皇太子であり、ホラント派遣軍総司令という立場上、前線を離れる訳にはいかない」


「・・・」


「ソフィアも、フェリシアさんも、皇太子であり総司令であるジーク様の立場を良く理解しています。あの二人なら大丈夫です」


「まるで私の心が読めるようだな」


 苦笑いしながら答えるジークに、アストリッドは得意気に答える。


「アストリッドはジーク様の妻です。お見通しです」


「はは。参ったな」


「ジーク様。ソフィアとフェリシアさんのために、何か、贈られてはいかがです?」


「そうだな。傍にいてやれないのだからな・・・」


 アストリッドの言葉に、ジークは少し考える素振りを見せると徐に口を開く。


「アストリッド。これから季節は冬になる。北方にあるキズナの寒さは厳しくなるだろう。ソフィアと赤子に肌障りの良い肌着と暖かいブランケットを。ツァンダレイのフェリシアには、リラックスできるようにラベンダー湯の手配を」


「判りました」


 アストリッドは、ジークからの指示を羊皮紙に書き留めると、ジークの傍らに寄り添い、穏やかに告げる。


「ジーク様」 


「んん?」


「辛い時、寂しい時は、御声掛け下さい。ジーク様の側にはアストリッドがおります」


 ジークは、椅子に座っている自分の膝の上にアストリッドを座らせると、その両腕で抱き締める。


「アストリッド・・・」


 ジークは、その立場上、辛い事があっても口に出す事はしなかったが、アストリッドは、その苦悩を察していた。


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