第三百九十二話 突撃!ユニコーン小隊
黒い煙が立ち上る集落に接近したアレク達は、集落の近くの茂みの側に小隊長三人で集まる。
アレク、ルドルフ、フレデリクの三人は集落の様子を伺う。
三人の目に集落に押し入って来たであろう蛙人兵団の者達と、それと戦う村人たちの姿が見える。
アレクは口を開く。
「あれは・・・蛙人!?」
「二人とも、アレを見ろ」
アレクとフレデリクは、ルドルフが指で指し示す先を見る。
フレデリクは苦々しく口を開く。
「・・・独立派の旗だ。村がホラント独立派に加担したんで、蛙人達が襲って来たんだろう」
アレクは二人に指示を出す。
「集落の中は敵味方入り乱れての乱戦で、陣形も無く混乱している。オレ達ユニコーンが中央を、グリフォンは右側から、フェンリルは左側から斬り込んでくれ。・・・強力な範囲魔法は使うなよ?」
ルドルフは笑顔で答える。
「了解!」
フレデリクは答える。
「大丈夫だ! 任せろ!!」
ルドルフとフレデリクは、足早に自分の小隊の元に戻っていく。
アレクも自分の小隊の仲間達の元に戻ると、ルドルフ達と打ち合わせた作戦内容について小隊の仲間達に説明する。
アレクの説明を聞いたルイーゼは大きく頷く。
「私達は中央突破ね! 判ったわ!!」
アルもガッツポーズを取り、手に持った斧槍を皆に見せる。
「よっしゃあ! コイツの出番だ!!」
アレクは指示を出す。
「ナディア、ドミトリー、皆に支援魔法を!」
「「了解!!」」
ドミトリーは、小隊のメンバーに掌を向けて魔法を唱える。
「筋力強化! 装甲強化!!」
ナディアも召喚魔法を唱える。
「弓からの防御!」
淡い緑色の光がアレク達を包む。
ナディアは口を開く。
「風の精霊の加護よ。これで矢は当たらないわ!」
ナタリーは魔法を唱える。
「詠唱加速! 魔力防御! 飛行!!」
ナタリーは、アルのやや後方で地上から三メートルほどの高さに浮かび上がる。
小隊の仲間達の魔法に気を良くしたアレクは号令を掛ける。
「よし! ユニコーン小隊、突撃するぞ!!」
アレクの号令で小隊の者達は、集落の中央を目指して小走りで一斉に駆け出す。
アレクと並走していたルイーゼは口を開く。
「アレク! 私が先陣を切るわ!!」
ルイーゼはアレクにそう告げると走る速度を上げ、亜麻色の髪をなびかせながらアレクを追い越していく。
斥候系上級職の忍者であるルイーゼは、桁違いの速さで動けるだけでなく、潜伏や索敵をいったスキルを身に付けており、込み入った集落での乱戦を突破する先陣には適任であった。
ルイーゼの後に続いてナディアがアレクの隣に現れると、並走しながらアレクに告げる。
「アレク。先に行くわね!」
ナディアはエルフの召喚師であり、レイピアやメイスを使った近接戦も、召喚魔法を使った遠距離戦も両方をこなすことができ、エルフは他の種族の者よりも数段速く、身軽に動く事が出来た。
ナディアは、その長く美しい金髪が顔に掛かっても気に止める事も無く、走る速度を上げてルイーゼの後を追い掛け、アレクを追い越していく。
ナディアの後に続いてエルザが現れると、エルザもアレクの隣に並走しながらアレクに告げる。
「ア~レ~ク。エルザちゃんの活躍に期待してね!」
エルザは、獣人三世の剣闘士であり、両手剣を使った近接戦が専門であった。
獣人は一般的な人間よりも身体能力、特に筋力と敏捷性に優れており、三世のエルザも、その能力を継承していた。
エルザは並走しているアレクに投げキッスをして見せると、猫のような獣耳と尻尾をなびかせながら、走る速度を上げてナディアの後を追い掛け、アレクを追い越していく。
追い越していったエルザの後に続いてアルがやって来て、アレクと並んで走る。
アルは、アレクに軽口を叩く。
「おいおい、アレク! 正妻、2号、3号と、先に行っちまったぞ!?」
アルの軽口に、アレクは苦笑いしながら答える。
「アル。頼むから、その呼び方は勘弁してくれ」
アレクを挟んだアルの反対側にトゥルムが現れ、アレクと並走する。
トゥルムは、豪快に笑う。
「はーっはっはっは! 女を従えて、使ってこその男だろう? ・・・なぁ、隊長!?」
「え!?」
トゥルムの言葉に、アレクは回答に詰まる。
アルのすぐ後ろを飛んで付いて来ていたナタリーは、アレクとトゥルムのやり取りを聞いて、驚きを口にする。
「ええっ!? そうなの!? 世間って、そういう見方をしてるの?」
ナタリーは頬を赤らめると、自分の頬に両手を当て、恥じらいながらアルに語り掛ける。
「アル。私にして欲しい事があったら言ってね。・・・私、何でもするから」
ナタリーの言葉に、アルは格好つけたポーズを決めて答える。
「・・・フッ。お楽しみはベッドの中でな!」
ナタリーは、真っ赤になった顔を両手で隠して答える。
「もぅ・・・アルったら!」
二人のやり取りを聞いていたドミトリーが、最後尾から全力疾走してアレクに追い付くと口を開く。
「皆、作戦行動中だぞ! いい加減にしろ! 煩悩に捕らわれ過ぎだ!」
しかし、ドミトリーの言葉に勢いがあったのは、ここまでであった。
ドワーフのドミトリーは長距離走が苦手であり、全力疾走でアレクに追い付くと、汗だくになって息が上がってしまっていた。
ドミトリーは、樽のような身体で必死に手足を動かして走りながら呟く。
「・・・はぁはぁ。・・・呼吸だ。・・・呼吸をしよう。・・・息を吸って、吐いて」
アレク達は、集落の中で繰り広げられている乱戦に突撃する。