第三百九十一話 進軍
アレク達教導大隊は馬車に分乗してホラントの州都ライン・マース・スヘルデに向けて進軍していた。
ゾイト・ホラントの白き風亭から州都ライン・マース・スヘルデまで二日間の行程であり、教導大隊の馬車列はジカイラ達の乗る馬車を先頭に街道を州都へ進む。
アレク達ユニコーン小隊は二台の馬車に分乗していた。
一台目はアレクが手綱を握り、傍らにルイーゼが座る。アル、ナタリーは荷台に乗り、ナタリーの膝枕でアルは昼寝していた。
二台目はトゥルムが手綱を握って傍らにドミトリーが座る。ナディアとエルザは荷台で昼寝していた。
初日の昼過ぎに丘を通る街道の稜線の上に差し掛かったところで、先頭を進むジカイラは馬車を止める。
ジカイラ達が馬車を止めた事により、続くアレク達も自分達の馬車を止めると、ジカイラ達の馬車へ駆け寄る。
アレクは尋ねる。
「大佐。どうしました?」
ジカイラは、アレク達に鼻先で示す。
「お前達。・・・あれを見ろ」
アレク達がジカイラが鼻先で指し示す稜線の先を見ると、丘の稜線を下った街道の近くにある集落から、複数の黒煙が立ち昇っていた。
アレクは口を開く。
「あの煙は・・・?」
ジカイラは答える。
「集落が襲撃されているようだ。・・・総員、戦闘準備!!」
ジカイラの一声でアレク達教導大隊は急いで戦闘準備を始める。
アレクは馬車に戻ると、荷台に居るナタリーに声を掛ける。
アレクは口を開く。
「ナタリー、アルを起こして! 戦闘準備だ!」
ナタリーは自分の膝枕で熟睡しているアルの頬をペシペシと軽く叩いて起こす。
「アル! 起きて! アル! 戦闘準備よ!」
ナタリーに起こされてアルは目を覚ます。
ナタリーの膝の上で目を覚ましたアルは、傍らに置いてある斧槍を手に取ると、上半身を起こす。
「むぁっ!? 敵か?」
「アル! 戦闘準備よ! 行きましょう!」
アルは、ナタリーに促されながら馬車を降りると、揃ってジカイラの元へ向かう。
ルイーゼは、トゥルムとドミトリーにジカイラからの指示を伝える。
「総員、戦闘準備よ! 寝ている二人を起こして!」
トゥルムは答える。
「判った!」
ドミトリーは、ルイーゼとトゥルムに頷いて返すと、荷台で寝ている二人に声を掛ける。
「二人とも! 起きろ! 戦闘準備だ!」
荷台に向かって一声掛けると、ドミトリーはトゥルムと共にジカイラの元に向かう。
「はっ!?」
ナディアは、ドミトリーの一声で目を覚ましてすぐに起き上がると、傍らで熟睡しているエルザを起こしに掛かる。
「エルザ! エルザ! 戦闘準備よ! ・・・ぐっすり寝てちゃ、ダメでしょ!」
無理矢理起こされたエルザは、寝惚けてナディアに抱き付く。
「アレクゥ~。もっとぉ~~」
ナディアは寝惚けて抱き付いてきたエルザを起こすべく、エルザの両肩を掴んで身体を揺らす。
「ちょっと!? エルザ?? ・・・起きて!」
エルザは、やっと目を覚ます。
「にゃっ!? ・・・ナディア?」
「戦闘準備よ! 急いで!!」
ナディアは寝ぼけ眼のエルザにそう告げると、荷台から降りてジカイラの元に小走りで向かっていく。
「ふぁ~い」
獣耳をヒコヒコと動かして目を覚ましたエルザは、両手剣を手に取ると、荷台から降りてナディアの後を追う。
熟睡して気持ち良く夢を見ていたエルザは呟く。
「もぅ・・・、良いところだったのにぃ!!」
四半時も過ぎない内に、教導大隊の者達が戦闘準備を整えてジカイラの元に揃う。
望遠鏡で黒煙が昇る集落を眺めていたジカイラは、持っていた望遠鏡を傍らのヒナに手渡すと、アレク達に向かって口を開く。
「思ったより揃うのが早かったな。良い事だ。・・・ユニコーン、グリフォン、フェンリルの三小隊は集落を探れ。戦闘も許可する。セイレーンと貴族組は、ここで馬車列の護衛。一年生は、戦闘準備のまま待機だ」
「了解!!」
ジカイラから指示を受けたアレク達は、足早に黒煙が立ち昇っている集落へと向かって行く。
アレク達が集落へ向かった後、ヒナは馬車の上でボーッと座っているジカイラに尋ねる。
「ジカさん、サボってて良いの?」
ジカイラは、悪びれた素振りも見せず答える。
「サボるも、何も。・・・オレやお前が出張ったら、集落を襲っているであろうカスパニア軍に『帝国軍がホラントの独立に介入してる』って、バレちまうだろ? ・・・オレも、お前も、向こうじゃ有名人なんだからサ」
ジカイラの答えを聞いたヒナは、ため息交じりで諦めたように答える。
「それは・・・、そのとおりね」