第三十六話 告白
アレク達ユニコーン小隊は、無我夢中で目の前の敵と戦っていた。
アレクが切り結んでいた鼠人を斬り伏せた時、後続の敵がいない事に気が付く。
周囲を見渡すと、鼠人の軍勢は敗走していた。
アル、トゥルム、エルザが正面の敵を倒すと、小隊の戦闘は終息する。
肩で荒い息をしながら、アレクが口を開く。
「はぁ・・・はぁ・・・勝ったのか?」
アルも同様であった。
「ふぅ・・・どうやら・・・そうみたいだな」
エルザが両手剣を地面に突き立てて呟く。
「ああ~ん。疲れたわ。もぅ~、汗だく! 早くお風呂に入りたい!」
ナディアも座り込んで呟く。
「そうね。私も早くお風呂に入って、冷たいフルーツパフェが食べたい!」
トゥルムが口を開く。
「見ろ。鼠人達が逃げて行くぞ」
ルイーゼが呟く。
「勝ったのね。私達」
アレクが答える。
「ああ」
戦闘が終わり、立ち尽くすアレク達ユニコーン小隊の前の原野には、無数の鼠人達の屍が横たわっていた。
--夕刻。
帝国辺境派遣軍と鼠人の初の本格的な地上戦であったが、初戦は帝国軍の圧倒的な勝利に終わった。
帝国軍は、敗走する鼠人達を深追いせず、補給と整備を行い交代で休息を取る。
教導大隊は、揚陸艇に乗り飛行空母へ帰還した。
アレク達のユニコーン小隊にも哨戒や警戒といった任務が交代で割り振られたが、当直の時間までは自由時間となった。
飛行空母に戻ると、小隊全員が体に付いた血と汗と土埃を洗い流そうと、大浴場へ向かう。
入浴を済ませた小隊のメンバーは、ラウンジのいつもの席に集まる。
女の子達は、早速、ラウンジのカウンターでフルーツパフェを頼むと、席に持ってきて食べ始めた。
アレクがパフェを食べているルイーゼに話し掛ける。
「ルイーゼ。それ食べ終わったら、一緒に開拓村に行かないか?」
「開拓村?」
「そう。今回の戦勝を祝って、開拓村の人達が祝勝会をやってくれるみたいだから、一緒に行こう」
「うん!」
アレクからのデートの誘いにルイーゼは、笑顔で答える。
アレクとルイーゼの会話を聞いていたアルもナタリーを誘う。
「へ~。開拓村の祝勝会ねぇ~。・・・ナタリー、オレ達も行ってみよう!」
「うん」
四人の会話を聞いていたエルザとナディアも、身を乗り出して話に加わる。
「えー! 何、何!? 開拓村のお祭り? 私も行くー!」
「私も行く! 屋台とか、出てるかな?」
『お祭り』という単語に、普段は無口なトゥルムとドミトリーも反応する。
「開拓村の祭りか! 恐らく、酒が出るだろう! 私も行くぞ!」
「うむ! 拙僧も、久々に屋台で『骨付き肉』を頂こう!」
結局、ユニコーン小隊全員が開拓村の祝勝会に行くため、連絡便の揚陸艇に乗り込む。
連絡便の揚陸艇は、飛行空母の飛行甲板から地上の開拓村の郊外に降下する。
揚陸艇から開拓村の祝勝会に行く学生達が続々と降りてくる。
自由時間といっても戦時下であるため、ユニコーン小隊全員のみならず、地上に降りた学生は、全員、制服を着て帯剣していた。
既に辺りは暗くなり、村の大通りには篝火が灯され、大通り沿いに出店や屋台が出ていた。
地上に降りたユニコーン小隊は、アレクとルイーゼ、アルとナタリー、エルザとナディア、トゥルムとドミトリーの二人づつに分かれて、開拓村の祝勝会を楽しんでいた。
田舎の素朴な開拓民達による、細やかなお祝いに小隊の皆の心が和む。
トゥルムは、開拓村の男達と戦闘時の武勇伝を酒の肴に麦酒を飲み、ドミトリーは屋台の骨付き肉を頬張っていた。
エルザとナディアは、ナンパした貴族組の男子学生達に、屋台や夜店の物を色々と奢って貰っていた。
アレクとルイーゼは、祝勝会の喧騒から少しは慣れたところにある、通りに面した東屋に居た。
アレクは、東屋の椅子に腰掛け、祝勝会の喧騒を眺める。
ルイーゼがアレクに話し掛ける。
「久し振りにのんびりできそうね」
「そうだな」
東屋で二人きりになったので、ルイーゼがアレクに甘える。
ルイーゼは、椅子に座るアレクの肩に手を置くと、アレクの膝の上に座り、首に両手を回す。
ルイーゼの瞳が上目遣いにアレクを見つめる。
「アレク。・・・私のこと好き?」
「好きだよ」
「愛してる?」
「愛してる」
「面と向かって言ってくれたの、初めてじゃない?」
「そうかな」
「そうよ」
「一つ、聞いても良い?」
「良いよ」
「毎日、裸で一緒に寝ているのに、私には何もしないのね。他のメイド達には、色々とえっちな事をしていたのに」
ルイーゼからの問いにアレクが答える。
「君を傷つけたくない。大切に想っているから」
ルイーゼは恥じらいながら口元に手を当て微笑む。
「あそこ、あんなになっているのに?」
アレクは、苦笑いしながらルイーゼに尋ねる。
「欲しくなったの?」
アレクの言葉にルイーゼは頬を赤らめて恥じらう。
「もぅ・・・」
ルイーゼは、改めてアレクのエメラルドの瞳を見詰める。
「・・・私もアレクが好き。初めて出会った時から。貴方の澄んだ瞳を見た時から、ずっと」
ルイーゼの言葉にアレクは照れる。
ルイーゼが続ける。
「私、士官学校での暮らしや、この戦争がずっと続けば良いって思ってる。アレクと一緒に居られるから。皇宮に戻ったら、貴方は皇子で、私はメイド。だから・・・」
そこまで言うと、ルイーゼはアレクの胸にすがりつく。
「ルイーゼ」
アレクは、ルイーゼを優しく抱き締め、頭を撫でる。
二人は、東屋から少し離れた開拓村の祝勝会の喧騒を眺める。
戦時下での、束の間の平和を楽しむ人々の姿。人々の営みが二人の目に映っていた。