第三百七十三話 野営訓練、二年目(一)
--アレク達が空中都市イル・ラヴァーリ、そしてトラキアへの遠征から士官学校に帰って来た数週間後。
バレンシュテット帝国は真夏であった。
アレク達は士官学校の教室で昼休みを過ごしていた。
手足を伸ばして椅子にもたれ掛かったアルは、アレクに向かって話し掛ける。
「・・・暑い。・・・暑いなぁ~。海に行きたいなぁ~。アレク」
アレクは、アルの隣の席で同じ様に暑さで手足を伸ばしながら答える。
「そう言えば、そろそろ野営訓練がある時期だよな?」
アルは、顔だけアレクのほうに向けて答える。
「だよなぁ~。海行きてぇ~」
暑さでノビている二人の元に小隊の女の子達がやって来る。
ナディアは、ノビている二人に告げる。
「大の男が二人揃って暑さでノビているなんて! ・・・だらしないわねぇ」
アルは反論する。
「しょうがないだろ~? 暑いんだから」
エルザはアレクとアルに告げる。
「アレク! アル! 良い知らせよ! 明日から『野営訓練』をやるんですって!!」
アルは喜んで答える。
「おぉ! ホントか!? それ!!」
アレクも喜んで答える。
「いいな! また皆で海に行こう!!」
二度目となる『野営訓練』の知らせにアレク達は喜ぶ。
--野営訓練 当日。
士官学校の一年生と二学年は、それぞれ小隊当たり二台の幌馬車に分乗して海岸を目指す。
去年と同じ様にユニコーン小隊は、一台目の幌馬車にアレクとルイーゼ、アルトナタリーが乗り込み、二台目の馬車にエルザとナディア、トゥルムとドミトリーが乗り込む。
一台目の幌馬車は、アレクが御者として手綱を握り、傍らにルイーゼが座る。
アルは、幌馬車の荷台でナタリーに膝枕をして貰いながら、昼寝している。
二台目の幌馬車は、トゥルムが御者として手綱を握り、傍らにドミトリーが座る。
エルザとナディアは、二人とも荷台で昼寝していた。
去年と同じ田園風景が広がる一帯の街道を、士官学校の学生達を乗せた幌馬車の列が海岸に向かって進んで行く。
農作業に励む人々を眺めながら、ルイーゼはアレクに話し掛ける。
「・・・久々に良いわね。こういうの。・・・のんびりしていて」
「ああ」
ルイーゼは、傍らで手綱を握るアレクの肩に寄り掛かる。
「半年後に卒業してルードシュタットに行ったら、毎日、こんな感じじゃない?」
「そうだろうね。けど、ルードシュタットに行っても忙しいかもよ? 農家が飼っている牛や羊が迷子になって探したりして・・・」
「うふふ。それは、それで忙しそうね」
のどかな風景を眺めつつ、卒業後のルードシュタットでの暮らしを思い描き語らいながら二人は微笑み合う。
アレク達は、二時間ほど幌馬車に揺られ、野営訓練を行う海岸に到着する。
アレクは、到着した事に安堵すると共に口を開く。
「着いたね」
風景を見たルイーゼは目を輝かせて歓声を上げる。
「わぁああ」
雲一つ無い快晴の青い空。
快晴の空を舞う海鳥たち。
広がる澄んだ穏やかな海。
白い砂浜。
顔を撫でる潮風。
そこには、去年と変わらない自然。
水平線と絶景が広がっていた。
士官学校の学生達は、一度集まってジカイラ達教官から野営訓練について説明と注意を受けると、小隊ごとに野営と食事の準備に取り掛かる。
去年も野営を行った経験のあるアレク達は、海岸の砂浜に手際よくテントと天幕を張って浴場を設営し、幌馬車から荷物を降ろすと皆、水着に着替えて海に泳ぎに行く。
アルは歓声を上げながら海に入り、泳ぎ始める。
「いぇーい!!」
アレク、トゥルム、ドミトリーもアルに続いて海に入る。
トゥルムはひと通り泳ぐと、自分の傍らにいるドミトリーを見て声を掛ける。
「おぉ!? ドミトリー、泳げるようになったのか!?」
泳ぎながらドミトリーは熱く語る。
「フッ・・・。これこそ、ドワーフ流水泳術奥義『立ち泳ぎ』だ!」
アルが立ち泳ぎを披露するドミトリーにツッコミを入れる。
「何と言うか『泳いでいる』というより、『立ったまま首だけ出して浮いているだけ』に見えるんだが・・・」
アレクは、苦笑いしながらフォローする。
「まぁ、樽のように浮いていても、手足は動かしているみたいだから、泳いでいるんじゃないか? ・・・一応」