第三百六十六話 ツァンダレイ防衛戦(四)
アレク達がトラキア離宮の前に到着すると、ちょうど離宮併設の飛行場からジカイラとヒナ、ユニコーン・ゼロの士官達が来ていた。
ジカイラは、アレク達を見て口を開く。
「お前達、何故ここに? 東門の黒煙といい、赤の信号弾が上げられたようだが、状況が判るか?」
アレクは、ジカイラ達にソユット軍の襲撃、敵は大隊規模と予想されること。東門の封鎖と敵の分断、敵の指揮官の部隊が離宮に向かったので追って来たなど状況を説明する。
ジカイラは、アレクから報告を聞いて笑い出す。
「ははははは!」
他の者達は、何故、ジカイラが突然笑い出したのか判らず、互いに顔を見合せて怪訝な顔をする。
アレクは怪訝な顔で尋ねる。
「大佐・・・??」
ジカイラは、込み上げる笑いを堪えつつ、口を開く。
「・・・いや、すまん。よりによって、今、離宮を襲った敵さんが余りにも間抜けでな。・・・今、離宮には、バレンシュテット帝国最強の上級騎士と聖騎士、首席魔導師と上位召喚師がいる。・・・そう心配するな。離宮を襲撃した敵さんは、間違い無く全員返り討ちだろ」
ジカイラの言葉にアレクはピンと来る。
(帝国最強の上級騎士と聖騎士!? ・・・父上と母上が離宮に!?)
ヒナは、ジカイラの傍らで、肘でジカイラを小突く。
「ジカさん!! もぅ・・・」
ジカイラは、小突いてきたヒナと士官達の方を向く。
「判ってるって! ・・・お前達! ユニコーン・ゼロの教導大隊の各中隊に出撃命令を。市街地の敵を掃討しろと伝えてくれ」
「了解しました」
士官達は敬礼すると、ユニコーン・ゼロへ戻って行く。
ジカイラはアレク達に告げる。
「ヒナ、それとアレク達も一緒に来い。一応、離宮に行くぞ。・・・大丈夫だと判っているが、何もしない訳にはいかないからな」
「判りました」
ジカイラとヒナ、アレク達はトラキア離宮の正門から中に入って行く。
--少し時間を戻したトラキア離宮
ラインハルト達は、フェリシア達の部屋に向かう途中、廊下で四人の女性士官と出会い、合流する。
女性士官達は、騒動を確認するために持ち場を離れ、戻るところであった。
ラインハルト達がフェリシアの部屋のある棟に着くと、部屋の入り口にソユット軍部隊がいるのを見つける。
ラインハルトは口を開く。
「いたぞ! 敵だ!!」
ソユット軍部隊は、ドアを破壊してフェリシアの部屋に押し入っている最中であった。
ハリッシュは、ソユット軍部隊に向けて手をかざすと魔法を唱える。
「火炎爆裂!!」
魔法陣の先に現れた爆炎が轟音と共に廊下を吹き抜け、部屋に押し入ろうとしていた巨人兵達を爆炎が包む。
「グゥエェエエエエ!!!」
「ギィヤァアアア!!」
爆炎に包まれた巨人兵達は絶命するが、死んだ者達の影にいた巨人兵達は、廊下の奥へと後退り、ラインハルト達の方を向く。
ラインハルトは口を開く。
「ナナイ。私が部屋に行く。廊下の敵を頼む。・・・四人は付いて来い」
「判ったわ」
「判りました」
ラインハルトと四人の女性士官達がフェリシアの部屋に入って行くと、ナナイは廊下を後退る巨人兵の一体に駆け寄り、下から上へレイピアで斬り付ける。
レイピアの切先が風切り音を立てながら巨人兵の胸を切り裂くと、返す刀でX字に再び斬りつける。
「ゴゥルルル!!」
斬られた巨人兵は棍棒を振り下ろすが、ナナイは大きく後ろへ飛び退いて棍棒の一撃を躱す。
ナナイは、巨人兵に向けてレイピアを構えながら呟く。
「結構、しぶといわね。・・・動きは鈍いけど」
ナナイの隣でクリシュナは、風の精霊を召喚する。
「風の精霊達!」
手のひらサイズで擬人化した四体の風の精霊がクリシュナの肩の高さに現れる。
クリシュナは巨人兵達に向けて手をかざすと、召喚した風の精霊達に攻撃を命令する。
「旋風の白刃!!」
クリシュナの傍に居た四体の風の精霊は、真空の白刃と化して飛んで行き、巨人兵達の膝と足首を切り裂いていく。
クリシュナはナナイに話し掛ける。
「まずは、敵の動きを止めないとね!」
--フェリシアの部屋
フェリシアの部屋に押し入った巨人兵は、腰布を捲ると、フェリシアとカリンに下半身を見せつける。
「ええっ!?」
驚いたカリンは、恥じらいから頬を赤く染めて両手で顔を覆うが、指の隙間から覗き見る。
巨人兵に下半身を見せつけられたフェリシアは、生理的嫌悪感から全身に鳥肌が立ち、顔を引きつらせながら呟く。
「何と言うか・・・。『股間の異物』というより『股間の汚物』ね。・・・吐き気がする」
フェリシアは、夫であるジークなら平気であった。
しかし、フェリシアの目の前に突き出された巨人兵の下半身には、生理的嫌悪感から身体が拒絶反応を示していた。
「フゥーッ! フゥーッ!!」
興奮した巨人兵は棍棒を捨てると、フェリシアを捕まえようと掴み掛るが、フェリシアは間一髪、巨人兵の手から逃れる。
しかし、着ている巫女服の端を掴まれ、巫女服が破かれる。
「きゃぁっ!!」
「フェリシア!?」
フェリシアの悲鳴にラインハルトの注意と視線が一瞬、目の前で互いに剣を構えて対峙する将軍十一号からフェリシアに向けられる。
(今だ!!)
将軍十一号は、この隙を逃さずラインハルトに湾曲刀で斬り付ける。
ラインハルトは、将軍十一号の斬撃をサーベルで受け流すと斬り返し、将軍十一号の湾曲刀を持つ右手の、手首から先を斬り落とした。
「ウォオオオオ!」
将軍十一号は、木製の円盾を投げ捨てると、血が噴き出る自分の右手首を左手で握って押さえる。
(くっ! 皇帝! マスタークラスの上級騎士! 効き腕を失い、もはや勝機は無くなったか! ・・・ならば!!)
将軍十一号は、貫頭衣の下から自爆装置の紐を手繰り出すと、左手に巻き付けて、引こうとする。
しかし、ラインハルトがそれを見逃すはずはなく、サーベルを振り下ろすと、将軍十一号の左腕を斬り落とした。
「グゥウウウゥゥ・・・」
両腕を失った苦痛に耐えながら、将軍十一号は、両膝を床に着ける。
ラインハルトは、将軍十一号の肩口にサーベルの切先を置くと尋ねる。
「※死士か・・・。何か、言い残す事はあるか?」
(※死を決して行動する人。死を覚悟のうえで戦う士。『決死の士』という意味)
将軍十一号は、ラインハルトに答える。
「無い」
将軍十一号が答えると、ラインハルトのサーベルが一閃し、将軍十一号の首を斬り飛ばした。
巨人兵に巫女服を破かれたフェリシアは、胸を両手で隠すように押さえ、その場にしゃがみ込む。
巨人兵は、しゃがんで動きを止めたフェリシアを捕まえようと手を伸ばす。
フェリシアの背に庇われていたカリンは、思い出したように巨人兵の顔に向けて手をかざすと、魔法を唱える。
「魔力指向弾!!」
カリンがかざす手の先の空中に小さな魔法陣が現れ、青白い光を放つ魔力の弾が作られていく。
それは瞬く間に握り拳ほどの大きさになると、手をかざした先にある巨人兵の顔に向けて飛んで行った。
青白い光を放つ魔力の光弾が顔面に直撃した巨人兵は、後ろに仰向けに倒れる。
「プゴッ!? ゴッ??」
仰向けに倒れた巨人兵は、何が起こったのか理解できず、頭に手を当てながら首を左右に振って、起き上がろうとする。
フェリシアは、両手で胸を隠す事を辞めて素早く立ち上がると、部屋に飾ってあった花瓶を両手で高く持ち上げ、起き上がろうとする巨人兵の頭に力一杯、振り下ろした。
「えいっ!!」
乾いた音と共に巨人兵の頭に当たった花瓶は粉々に砕け散り、生けてあった花と水が床の上に散らばる。
頭にフェリシアの花瓶の一撃を受けた巨人兵は、白目を剥いて気絶し、再び床に仰向けに倒れた。




