第三百六十二話 ソユット軍、ツァンダレイ奇襲
偵察飛行を終えて帰投するアレク達の前に将軍十一号が率いるソユット軍の別動隊がその姿を現す。
突然、現れた三メートルほどの巨躯の戦士達は、皆、腰布一枚の姿で、手には棍棒を持っていた。
ソユット軍の別動隊が現れたのは、州都ツァンダレイの東側の城壁のすぐ側であり、ソユット軍は開かれていた東側の城門からツァンダレイ市街地へと続々と突入していく。
その様子を見ていたアレクは叫ぶ。
「マズい! 敵が市街地に突入した!」
ルイーゼは尋ねる。
「アレク、どうするの!?」
「帝国軍が来るまで、敵を食い止める! ルイーゼ、手旗信号を!!」
「判ったわ!!」
ルイーゼは、東門の中に強行着陸して敵を食い止める事を手旗信号とハンドサインで僚機に伝える。
アルは、ルイーゼの手旗信号を読み上げる。
「『我、敵部隊の侵入を止める。全機突入後、強行着陸せよ。我に続け!!』か! そう来ないとな! 行くよ、ナタリー!!」
「了解!!」
ユニコーン小隊の四機は高度を下げて、ツァンダレイ市街の東の城門に通じる大通り上空を低空飛行する。
アレクは、ソユット軍が侵入してくる東門の上にある門扉を吊っている巻き上げ機に飛空艇の主砲の照準を合わせると、引き金を引く。
轟音と共にアレクの乗る飛空艇エインヘリアルⅡに搭載されている二門のカロネード砲が火を噴き、二発の砲弾が発射される。
発射された二発の砲弾は、二つの光の玉となって真っ直ぐ飛んで行き、門扉を吊っている巻き上げ機に命中して破壊する。
巻き上げ機が破壊され、門扉を吊っていた鎖が切れると、吊られていた門扉は勢い良く落下して東門の入り口を塞ぐ。
(良し!!)
アレク達ユニコーン小隊は、大通りの東門前に四機の飛空艇を強行着陸させると、飛空艇から飛び降りて陣形を組み、市街地に突入したソユット軍部隊の前に布陣する。
大通りに居た市民達は、市街地に突入してきたソユット軍の巨人兵達の姿を見て、悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らす様に一斉に逃げ出していた。
「敵だぁ! 敵が攻め込んで来たぞ!」
「巨人だぁ!!」
市街地に突入した巨人兵達は動きが鈍く、最初は周囲を見回していたが、目標であるトラキア離宮を見つけると、離宮を目指して大通りをゆっくりと歩み始め、陣形を組んで戦闘態勢を取るアレク達と対峙する。
アレクは、目の前に現れたソユット軍の巨人兵達の醜悪な容姿を見て、息を飲む。
巨人兵は、三メートルほどの巨躯に腰布を身に付け、動きは鈍いものの、手には棍棒を持っていた。
突き出た下あごと下あごの犬歯が口から飛び出た顔は醜悪で、食人鬼や豚鬼を連想させる。
「ウゴッ! ウゴゴゴ!!」
アレク達を見た巨人兵達は、棍棒で殴り掛って来る。
アレクは小隊に指示を出す。
「敵の動きは鈍い! 二人一組で行くぞ!」
「了解!!」
ドミトリーは小隊の仲間達に支援魔法を掛ける。
「筋力強化!」
アルはナタリーと一緒に前に出ると、口を開く。
「アレク、先陣は任せろ!」
アルは、小隊の先頭に出て巨人兵達に対峙すると、斧槍を大きく二回振り回して正眼に構え名乗りを上げる。
「我こそは『黒い剣士』こと帝国無宿人ジカイラが一子、アルフォンス・オブストラクト・ジカイラ・ジュニア!! いざ!!」
「ブゴッ? ウゴァ?」
アルの名乗りを聞いた巨人兵達は、理解できないようで、互いに顔を見合わせて小首を傾げる。
巨人兵達の様子を見て、アルは苦笑いする。
「・・・コイツらには、難しかったか」
アルは、アレク達の前で右手に持った斧槍を水平に構えると、腰を落として深く息を吸い込み、貯めの姿勢を取る。
貯めの姿勢を取り動きを止めたアルに、巨人兵の一体が近付き、棍棒を振り上げて横殴りに殴り掛る。
(来い! 勝負だ! 一の旋!!)
父ジカイラ直伝のアルの渾身の力を込めた斧槍の一撃が剛腕から放たれ、巨人兵が振り下ろした棍棒とアルの斧槍の一撃が激しく激突する。
鈍い金属音が響き、アルの斧槍の刃が巨人兵の棍棒を粉砕する。
アルは、大きく踏み込むと第二撃を放つ。
(二の旋!!)
斧槍の矛先が『燕返し』のように同じ軌跡で戻ってくると、巨人兵の側頭部にその刃を食い込ませて仕留める。
アルの勝利を見て取ったナタリーは魔法を唱える。
「詠唱加速!!」
「魔力魔法盾!!」
「飛行!!」
強化魔法を掛けた後、飛行の魔法でナタリーの身体は、アレク達ユニコーン小隊の上空に浮き上がる。
空中に浮いたナタリーは、棍棒を手にアレク達に向かってくる巨人兵達に向けて手をかざして魔法を唱える。
「火炎爆裂!!」
ナタリーの掌の先に魔法陣が三つ現れると、魔法陣から現れた爆炎が巨人兵達に向かって一直線に進んで行き、巨人兵達を爆炎で包む。
「ウゴァァアアア!!」
ナタリーの魔法で火達磨になった巨人兵達が、地面を転がり回る。
アレクはゾーリンゲン・ツヴァイハンダーを鞘から抜くと、ルイーゼと共に巨人兵に止めを刺していく。
尚も怯むことなく、棍棒を手に接近してくる巨人兵達に対して、エルザとナディアは剣を構えて対峙する。