第三百五十九話 力の使い方(一)
アキックスとソフィアは、ソユット軍第九陣を率いる将軍九号に撤退するように告げると、再び古代竜王シュタインベルガーの元へと戻る。
アキックスは呟く。
「さて・・・。敵軍は、どう出るかな?」
ソフィアは真顔で答える。
「御爺様。敵が退かぬなら、蹴散らすまでです」
アキックスは、ソフィアを諭す。
「ソフィア。大勢の人の上に立つ者なればこそ、他より優れ強い力を持つ者なればこそ、軽々しく『死』の裁定を下すべきではない。・・・力には使い方があるのだよ」
ソフィアは、怪訝な顔で答える。
「はぁ・・・」
二人が去った後、将軍九号は部下の千人長や百人長を集めて軍議を開く。
将軍九号は口を開く。
「バレンシュテット軍から撤退勧告があった。皆の意見が聞きたい。遠慮なく本音を言ってくれ」
千人長の一人は将軍九号に告げる。
「族長! 撤退しましょう! あんな化物相手に、とても勝ち目ありませんよ!!」
別の千人長も口を開く。
「そうですよ、族長! ソユットに義理立てする必要なんてありません! ここで死んだら、犬死ですよ!!」
集まった千人長や百人長は、口々に撤退を言い出す。
「撤退しましょう!!」
「族長!」
「族長!」
ソユット帝国は、征服した国や地域を属州として支配する一方、属州毎に集めた兵力を戦奴として、自軍に組み込み、尖兵としていた。
第一陣から第五陣までがソユット帝国本土の兵で、第六陣から第十陣までは属州から集められた兵であった。
属州から集められた兵士達は、妻子をソユットに人質に取られているのと同じであり、各地で必死に戦っていた。
将軍九号も例外ではなく、ソユットに属州として支配された地域の部族の族長であった。
シゲノブ一世から将軍の称号を授与されてから、元の名前を捨てて一万人を率いる将軍の一人となり、同じ部族から集められた兵士達の第九陣を率いていた。
将軍九号は口を開く。
「恐らく、あの竜王には、重砲も軽火砲も投石器も効かないだろう。・・・皆、判った。撤退しよう」
軍議の結論がまとまったソユット軍第九陣は、将軍九号がアキックスとソフィアにトラキアから即時撤退する旨を伝え、直ちに国境へ向けて撤退を開始した。
メフメトからトラキアへの国境を越えて侵攻したソユット軍の二つの部隊のうち、第十陣は帝国魔界兵団の攻撃を受け壊滅。第九陣は帝国竜騎兵団と遭遇して撤退したことを受け、王都からトラキアへ向けて北上していた第三陣から第八陣までのソユット軍六万は、メフメト-トラキア間の国境で侵攻を停止した。
-- 飛行空母ユニコーン・ゼロ
アレク達の教導大隊は、学年の四個小隊毎に交代で前線を偵察する任務に就いていた。
平民組二年生、平民組一年生、貴族組二年生、貴族組一年生といったシフトである。
トラキア離宮に併設された飛行場に停泊するユニコーン・ゼロから飛空艇で飛び立ち、分担する地域を偵察していた。
交代まで時間があるため、ルドルフ達のグリフォン小隊は、ラウンジで転職成功を祝うパーティーを開く。
グリフォン小隊がラウンジでパーティーをやると聞いて、同じ二年生平民組のアレク達ユニコーン小隊やフレデリク達のフェンリル小隊、セイレーン小隊も加わる。
作戦行動中であるため簡素な立食式のパーティーであったが、四個小隊もの人間が集まると相応に賑わい、盛り上がる。
アルは、料理を摘まみながら呟く。
「アレク、ルイーゼ、そして、ルドルフ。・・・オレ達の学年に上級職が三人も居るんだなぁ」
アレクは尋ねる。
「上級職になるのは、珍しいのか?」
「そりゃ、珍しいさ! 一年上の先輩達には、一人も上級職はいなかったぜ?」
「そうなんだ・・・」
「そうさ! 中堅職だって、珍しいんだぜ? 現に貴族組なんて、全員、基本職だし」
トゥルムも二人の会話に混ざって来る。
「そうなのか? 折角、士官学校に来ているのに。彼らは、なぜ上の職業を目指して学ばないんだ??」
エルザは、フルーツパフェを食べながら、したり顔で告げる。
「『婚活』よ! 『婚活』!!」
エルザの後に果物を手にしたナディアも続く。
「貴族組は結婚相手を探しに来てるのよ。あいつらが勉強なんて、する訳無いじゃない」
アルは二人にツッコミを入れる。
「それは、お前らもだろ? 『婚活』しに学校に来ているのは・・・」
ドミトリーは解説する。
「まぁ、貴族組の場合、『士官学校卒業』『帝国軍任官』と、自分の経歴に箔をつけるためもあるだろうがな」
ルドルフはアンナと腕を組みながらアレク達の元にやって来る。
「楽しんでいるようだな」
アレクは口を開く。
「ルドルフ、上級騎士になったんだってな。おめでとう!」
ルドルフは、少し照れながら答える。
「ありがとう」
アレクとルドルフが話していると、フェンリル小隊のフレデリクがやって来る。
「聞いたぞ、ルドルフ。上級騎士に受かったんだ。おめでとう!」
「ありがとう」
フレデリクは続ける。
「実は、オレ達のフェンリル小隊もルドルフ達と同じ日に転職したんだが、全員、中堅職止まりでな。・・・その、カッコ悪くて、言い出しにくくてな」
アレクは口を開く。
「そんな事は無いさ! 向上心を持たないと!」
アルは続く。
「そうそう!」
ルドルフも口を開く。
「フェンリルは、全員、中堅職に受かったんだろう? ・・・補習を受けても、ダメな奴は、転職できないからな」
フレデリクは答える。
「ああ。小隊全員、中堅職に受かった」
フレデリクの答えを聞いた周囲の者達が祝意を表す。
「おめでとう!」
「頑張ったな!」
お互いに労い、褒め称え合う和やかな雰囲気の中、パーティーが一時間ほど経過した頃に事件は起きる。