第三十四話 男爵領 中央部東側 開拓村 防衛戦(一)
--翌朝。
ラウンジで朝食を終え、一息ついているアレク達の元に伝令が来る。
「鼠人の軍勢に動きがありました! ヨーイチ男爵領中央部東側の開拓村を狙ってるとのことで、至急、各小隊は、戦闘準備で格納庫に集合するようにとのことです!」
アレクは、伝令に答える。
「判った! みんな、行こう!!」
アレク達ユニコーン小隊のメンバーは、戦闘準備を整えて格納庫に集まる。
格納庫では、ジカイラとヒナがアレク達の集合を待っていた。
ジカイラが口を開く。
「集まったな。聞いての通りだ。帝国辺境派遣軍は、艦隊で開拓村の防衛に当たる。村の上空で四隻の飛行戦艦が円陣を組んで艦砲射撃で敵軍を攻撃する。それと、飛行空母の陸戦隊で村の防衛に当たるが、戦力不足のため、教導大隊も予備兵力として地上で開拓村の防衛に当たる事となった」
アルが口を開く。
「地上戦か・・・」
ジカイラが続ける。
「陸戦隊の指揮はヒマジン伯爵が、教導大隊の指揮はオレが執る。皇太子殿下直々に地上で全軍の指揮に当たるとの事だ。・・・以上。各員、準備ができ次第、揚陸艇に乗り込め。揚陸艇で地上に降下する」
ジカイラの説明にアレクは驚く。
(・・・兄上が、前線に!?)
アルが軽口を叩く。
「あの皇太子殿下が直々に前線に出るとはな。やっぱり、そこらの帝国貴族とは違うな」
アルの軽口を聞きながらアレクは考える。
(帝国軍は寡兵だが、戦力は圧倒的だ。兄上は村を防衛するためだけじゃなく、自ら前線に出て、戦いに勝ちに行く気だ!)
ルイーゼがアレクに声を掛ける。
「どうしたの?」
「ちょっと、考え事」
「揚陸艇に乗りましょう」
「うん」
アレク達ユニコーン小隊は、揚陸艇に乗り込んだ。
州都キャスパーシティを発した帝国辺境派遣軍艦隊は、小一時間ほどで開拓村の上空に到着する。
四隻の飛行戦艦は、四隻の飛行空母を囲うように村の上空で円陣を組む。
飛行空母の飛行甲板から次々と揚陸艇が降下していく。
アレク達の乗った揚陸艇も開拓村の傍に降下する。
地上に着陸した揚陸艇からは、陸戦隊と蒸気戦車、そしてアレク達、教導大隊の学生達が降りてくる。
揚陸艇から発進して配置場所へ向かう蒸気戦車を見て、教導大隊の学生達がざわめく。
蒸気戦車。
その無骨な威容は、見る者を圧倒した。
アルが口を開く。
「スゲェ! 蒸気戦車だ! あれなら鼠人もイチコロだぞ!」
アルの言葉を聞いたアレクが蒸気戦車の車列を見ると、先頭の蒸気戦車は、ハッチが開けられており、陸戦隊の指揮を執るヒマジン伯爵の姿が見えた。
蒸気戦車は、キャタピラを地面に食い込ませながらゆっくりと進んでいく。
程なく、飛行空母から飛竜が降りてくる。
飛竜に乗っていたのは、皇太子ジークフリードと護衛のソフィア、アストリッドであった。
陸戦隊と教導大隊は共に整列して皇太子であるジーク達を出迎える。
ジークは、地上部隊の前に出ると訓示を始める。
「諸君! この村に鼠人の軍勢が迫っている。我が帝国辺境派遣軍は、これを『反撃に出る好機』と考えている。敵軍は数こそ多いものの、個体戦力は取るに足らん。 帝国軍の強さ、帝国騎士の力を見せつけてやれ!」
地上部隊の職業軍人達は、一斉に歓呼し始める。
「勝利、万歳!」
「勝利、万歳!」
「帝国、万歳!」
「帝国、万歳!」
皇太子のジークは、右手をかざして職業軍人達の歓呼に応えていた。
帝国軍の勝利を信じて疑わない職業軍人達の歓呼にアレク達、教導大隊の学生達も気分が高揚してくる。
アルがガッツポーズを取りながら、アレクに話し掛ける。
「いよぉ~し! 燃えてきたぞ! 鼠人どもを蹴散らしてやる!」
ナタリーがアルを諌める。
「アル、無茶しないでね」
アルは笑顔でナタリーに答える。
「任せとけって!」
陸戦隊はヒマジン伯爵の指揮で開拓村の東北方面、教導大隊はジカイラ中佐の指揮で村の東南方面に布陣するすることとなり、ジーク達は遊撃しながら全体の指揮に当たることとなった。
帝国辺境派遣軍が配置に付いてから一時間程で、地上部隊の前に鼠人の大軍勢が現れる。
伝令がジークの元にやってくる。
「殿下! 敵軍が現れました!」
ジークは命令する。
「戦闘開始だ。飛行戦艦は敵軍を砲撃。 以後は各個照準で砲撃を継続」
「了解!」
ジークの命令を受けた地上部隊から、緑の信号弾が打ち上げられる。
『開戦』の合図であった。
開拓村に向かって黒い濁流のように迫る鼠人達の大軍勢に向けて、飛行戦艦から一斉射撃が行われる。
飛行戦艦による大口径砲の一斉射撃の威力は凄まじく、村に迫る鼠人達の大軍勢を轟音と共に薙ぎ払い、消し飛ばしていく。
その轟音は地上に居るアレク達の前線にまで届いた。
教導大隊の学生達が大きな爆炎が広がる光景と轟音に驚いて口を開く。
「おぉ!」
「凄い!」
アレク達もその光景に目を見張る。
飛行戦艦による一斉射撃という凄まじい火力に晒された鼠人達の大軍勢は、飛行戦艦の火力正面を避け、二手に分かれて開拓村に迫る。
蒸気戦車に乗るヒマジンがハンドサインを出し、陸戦隊に命令を出す。
「敵は二手に分かれた。我々は北側の敵を叩く。 戦車、帝国騎士、前へ!」
一列横隊を取る蒸気戦車が前進し、その後を随伴歩兵が陣形を取りながら進んで行く。
再びヒマジンがハンドサインを出し、陸戦隊に命令を下す。
「撃て!!」
蒸気戦車の大砲が一斉に発射され、鼠人達の軍勢を吹き飛ばしていく。
ジカイラが傍らのヒナに話し掛ける。
「こっちにもおいでなさったぞ・・・。この台詞を言うのも久しぶりだ。『ヒナ、やれ!』」
ヒナは笑顔でジカイラに答える。
「任せて!」
ヒナは、両手を上げ天を仰いで魔法の詠唱を始める。
「Manna, människans alla saker」
(万物の素なるマナよ)
「Loki och Anglebosas förstfödda」
(ロキとアングルボサの長子)
ヒナの足元に一つ、頭上に魔法陣が等間隔で六つ現れる。
「Allt det onda på jakt efter solen och månen」
(太陽と月を追い求める万物の災厄)
大気中から無数の光線が鼠人の大軍勢の上空へ向けて伸びていき、雲を作る。
「Jag vill vara med dig från eviga fängelser」
(両極の牢獄より常世に現さんと欲す)
「Var nu Fenrirs tänder här!!」
(今、此処にフェンリルの牙となりて現出せよ!!)
「Penetrera min fiende!!」
(我が敵を貫け!!)
「氷結水晶槍、貫通雨撃!!」
ヒナが魔法の詠唱を終えると、魔法陣は光の粉となって大気中に砕け散った。
上空の雲から、無数の氷の槍が鼠人の大軍勢に降り注ぐ。
氷の槍は、粗末な防具と共に鼠人達の体を貫き、地面に刺さる。
ヒナの魔法の威力も凄まじく、大量の鼠人達を倒すことができた。
魔法の威力を見たジカイラが、ヒナを褒める。
「上出来だ。さすがオレの妻」
ジカイラの言葉にヒナが照れる。
「もぅ・・・ジカさん・・・」
ヒナの魔法に続いて、上空からソフィアの乗る飛竜が滑空してきて、鼠人達に火炎息を浴びせる。
飛竜が吐き出すナパーム弾のような紅蓮の火炎を浴びた鼠人達は、燃え上がる防具や衣服、体毛の火を消すべく悲鳴を上げ、必死に地面を転がる。
「キュィイイイ!!」
「キィイイイイ!!」
生き残った鼠人達がアレク達の教導大隊に迫る。
ジカイラは、斧槍を構えると教導大隊に号令を掛ける。
「行くぞ、お前達! 教導大隊、抜刀!」
ジカイラの命令でアレク達も剣と盾を構える。
アレクがユニコーン小隊の仲間達に話し掛ける。
「いよいよだ! みんな、行くぞ!」
「おう!」
ジカイラが命令を下す。
「突撃!!」
「ウォオオオオ!」
教導大隊は一斉に突撃し、教導大隊と鼠人達の軍勢が激突する。