第三百五十話 目覚める時は
--少し時間を戻した 飛行空母ユニコーン・ゼロ 通路
ルドルフ達とすれ違ったユニコーン小隊の五人、アル、ナタリー、トゥルム、エルザ、ドミトリーは、入院中のアレクの病室へと向かっていた。
アルとトゥルムは軽傷、エルザは頭と左足を負傷しており、アレクとルイーゼは、未だ入院中であった。
五人がアレクの病室の前にたどり着くと、アルはドアをノックする。
「アレク。見舞いに来たぞ~」
病室に入った五人の目に映ったのは、ベッドの上で毛布を被り、裸で抱き合っているアレクとナディアの姿であった。
アレクは驚く。
「アル!? それに皆も!!」
ベッドの上で毛布を被って裸で抱き合っている二人を見て、アルは驚いて二人に背を向ける。
「すまん。取り込み中だったか」
二人の姿を見たナタリーは、頬を赤らめながら両手で顔を隠す。
「ええっ!?」
アレクの胸の上に寝そべっているナディアは、アレクと愛し合った余韻に浸りながら乳繰り合っている至福のひと時を邪魔され、不機嫌そうに答える。
「そうよ。取り込み中よ」
エルザは、二人の姿を見て、すかさず叫ぶ。
「ああっ! ナディア、ズルい! 私が入院している間、ずっとアレクを独り占めしていたのね!!」
ナディアは悪びれた素振りも見せず、アレクの胸の上に裸で寝そべったまま横目でエルザを一瞥して答える。
「貴女の要領が悪いからよ。・・・ねぇ、アレク」
そう言うと、ナディアはアレクの頬に右手を当て、エルザに見せつけるようにアレクにキスする。
「んっ・・・んんっ・・・」
ナディアにアレクとキスするところを見せつけられたエルザは、悔しさで涙目になり頬を膨らませながらナディアを上目遣いに睨み付ける。
「うううぅ~。いつもいつも自分だけ美味しいところを・・・。この、エロフ!!」
トゥルムは、ナディアとエルザのやり取りの様子を見ていて、呆れたように口を開く。
「二人とも、痴話喧嘩はその辺にしておけ。ここは病室だぞ」
トゥルムに続いてドミトリーも口を開く。
「その通りだ。・・・ナディア。これから拙僧が隊長に回復魔法を掛ける。すまんが隊長の上から降りて、服を着てくれ。・・・拙僧は僧侶だ。婦人の裸を見る訳にはいかんのだ。・・・裸の婦人が患者の上に寝ていて、患者から目を反らしながら回復魔法を掛けられるほど、拙僧は器用ではない」
ナディアはため息交じりに答え、アレクの胸の上から降りる。
「しょうがないわね。判ったわ」
アレクの上から降りたナディアは、区画を仕切る白いカーテンの向こう側へ行くと、服を着て身支度を始める。
ナディアが白いカーテンの向こう側に行った事で、ドミトリーがアレクの両手と胸に両手をかざして治療を始める。
「いいか? 隊長。回復魔法を掛けるぞ。・・・治癒!!」
ドミトリーの手のひらの先に現れた法印から溢れ出る光がアレクの両手の火傷や頭、背中などの傷を癒していく。
ドミトリーが回復魔法を掛ける度に、アレクの傷が癒され、痛みが引いていく。
ドミトリーは、額からにじみ出た汗をぬぐいながら告げる。
「ふぅ・・・。隊長、終わったぞ」
「すまない」
「拙僧は魔力がもう限界だ。先ほど、隊長より先にルイーゼにも回復魔法を掛けてきたからな」
アレクは、ドミトリーに尋ねる。
「ルイーゼは? 彼女の容態は?」
ドミトリーは、申し訳なさそうに答える。
「拙僧の回復魔法で、ほとんどの傷は、跡形もなく綺麗に消えたのだが。・・・まだ、彼女の意識が戻らないのだ。拙僧が首席僧侶なら完全治癒が使えるのだが・・・」
「そうか」
ほとんどの傷が癒えたアレクは、寝ていた上体を起こして服を着始める。
ナタリーは尋ねる。
「アレク? どうするつもり?」
アレクは、制服の袖に腕を通しながら答える。
「ルイーゼのところへ行く」
エルザは口を開く。
「アレク! 無理しちゃダメよ!」
トゥルムはエルザを諫める。
「じっと寝ていられないのだろう。行かせてやれ」
「でも・・・」
トゥルムは、ベッドから起き上がろうとするアレクの介助をしながら答える。
「なら一緒に行けば良い。私も行く。案内が必要だろう」
制服を着終えたアレクは、トゥルムの手を借りながらユニコーン小隊の仲間達と共にルイーゼの病室を訪れる。
アレク達の目の前にベッドに横たわるルイーゼの姿が映る。
「ルイーゼ・・・」
アレクはルイーゼの傍らに駆け寄ると、口元に手を当てる。
アレクの手にルイーゼの穏やかな吐息が当たる。
ドミトリーは答える。
「傷は、ほぼ全て癒えた。・・・穏やかに眠っているようだ」
アレクは、ルイーゼの眠るベッドの傍らにある椅子に腰掛けると、眠ったまま意識の無いルイーゼの手を握り、ルイーゼの横顔を見詰める。
二人の様子を見たアルは口を開く。
「後はアレクに任せて、オレ達は・・・」
ナタリーは答える。
「そうね」
トゥルムも追従する。
「うむ」
ナディアは口を開く。
「そうね。行きましょ」
エルザも追従する。
「うん」
ドミトリーはアレクに告げる。
「隊長。彼女の付き添いを頼んだぞ。拙僧達はこれで失礼する」
「ありがとう」
アレクがそう答えると、アル達はルイーゼの病室を後にする。
ルイーゼの病室には、アレクだけが残る。
アレクは、両手でルイーゼの手を握ると自分の額に当てる。
(ルイーゼ。オレを庇って・・・)
(どうして、こんな事に・・・)
様々な考えがアレクの頭をよぎる。
ルイーゼの手を握ったまま、半時ほどアレクは思い悩む。
アレクは想い悩んだ挙句、眠っているルイーゼの頬に手を当てる。
「ルイーゼ。愛している。ずっと傍にいるから」
アレクは、そう話し掛けると眠っているルイーゼにそっとキスする。
すると、眠っていたルイーゼが両目を開く。
意識が戻ったルイーゼは、眠っていた自分にキスしてきたアレクに、驚いたように上体を起こしながら尋ねる。
「アレク? ・・・どうしたの?」
「ルイーゼ!? 良かった! 意識が戻ったんだね!」
安心したアレクは、なりふり構わずルイーゼに抱き付くと、ルイーゼのお腹に自分の顔を押し当てる。
(ルイーゼ! ルイーゼ!)
アレクの両目から涙が溢れる。
ルイーゼは、自分のお腹に顔を埋めて抱き付くアレクの頭を微笑みながら優しく撫でる。
二人だけの時間がゆっくりと流れていた。