第三百四十八話 病室にて アレクとナディア、ルドルフとアンナ
-- 飛行空母ユニコーン・ゼロ アレクの病室
アレクはナディアを抱いたまま余韻に浸り、ベッドでウトウトとしていた。
アレクの胸の上では、ナディアが肩まで毛布を被り、穏やかな寝息を立てている。
病室のドアがノックされた後に開かれ、聞き覚えのある声がする。
「アレク? 見舞いに来たんだが・・・」
声の主は、ルドルフであった。
意外な見舞客の来訪にアレクは驚いたが、見舞いに来たルドルフとルドルフの彼女アンナも病室に入り、アレク達の姿を見て驚く。
「ルドルフ!?」
驚いたアレクが上体を動かしたので、アレクの胸の上で寝ていたナディアも目覚める。
ルドルフは、呆れたように告げる。
「お前なぁ・・・あの爆発で大怪我して『一日経って、やっと意識が戻った』って聞いたから心配して見舞いに来てみれば。・・・あれから、ずぅ~っと病室で女を抱いていたのかよ!?」
アレクは、ルドルフの言葉にバツが悪そうに苦笑いする。
話を聞いていたナディアが、アレクの胸の上で寝そべったまま、組んだ両手の上に顎を乗せてルドルフに反論する。
「あら? 私は、アレクの第二夫人よ? 妻が、その肌で、戦いで傷付いて疲れた夫を癒して、何か問題ある? あなた達だって、してるでしょ?」
ナディアからの反論に、今度はルドルフがバツが悪そうに、無言でアレク達から目を反らす。
アンナは頬を赤らめながら、ムキになってナディアに答える。
「そんな・・・、不純よ!!」
アンナの反応を見て、ナディアはピンとくる。
(あの反応は・・・。二人とも、まだしていないのね・・・。ふふふ)
ナディアはアレクの胸の上に寝そべったまま、指先でアレクの胸をなぞりながらアンナに告げる。
「貴女も女なら、ちゃんと彼氏を慰めてあげないと。・・・他の女に彼氏を盗られちゃうわよ? 殿方を満足させる事も『女の嗜み』よ」
そう告げると、ナディアはアンナに対して、右手で口淫する仕草をして見せる。
ナディアに口淫する仕草を見せられたアンナは、恥じらいから顔だけでなく耳まで赤く染め、ナディアを睨みながら口籠る。
「うううっ・・・」
ナディアは勝ち誇った笑みを浮かべると、アンナを更に畳み掛ける。
「未通女さんに彼氏を満足させられるかしら?・・・頑張ってね」
ナディアに『未通女(処女)さん』と言い当てられ、からかわれたアンナはいきり立つ。
「ルドルフ! 行きましょ!!」
「おい!? ・・・すまん、アレク。また、来る」
アンナは、黒髪のツインテールを揺らしながら、ルドルフの手を引いてアレクの病室を後にする。
二人を見送ったアレクはナディアに告げる。
「ナディア。少し言い過ぎたんじゃないか?」
ナディアは、悪びれた素振りも見せず、微笑みながら答える。
「女なら平気よ。あれくらい」
ルドルフの彼女は顔を真っ赤にしたまま、ルドルフの手を引きながら通路を足早に歩いて行く。
二人は、通路でユニコーン小隊の面々とすれ違う。
アルは口を開く。
「お? ルドルフ。・・・アレクはどうだった?」
「アイツは元気だったぞ。・・・って、おい!?」
ルドルフがアルに答えているにも関わらず、アンナはルドルフを手を引いたまま、通路を足早に歩いて行く。
ユニコーン小隊の面々は、彼女に引っ張られていくルドルフを見送る。
アルは小首を傾げる。
「どうしたんだ? アイツ??」
エルザは呆れたように口を開く。
「二人とも、忙しいんじゃない?」
ルドルフと彼女が行き着いた先は、ルドルフの部屋であった。
ルドルフの彼女、アンナ・グレイスは、顔だけでなく耳まで真っ赤にしたまま、ルドルフを部屋に引っ張り込むと部屋のドアに鍵を掛け、両手を自分の腰に当ててルドルフの顔を見上げながら詰め寄る。
「ちょっと! ルドルフ! 貴方、女に興味無いの!? 男色趣味じゃないんでしょ!?」
アンナからの言葉に、ルドルフは少しムッとした顔になる。
「お前、いきなり何を言い出すんだ?」
アンナは、右手の人差し指でルドルフの胸を突きながら更に捲し立てる。
「私を抱いて『自分の女にしよう』とか、思わないの!?」
ルドルフの彼女のアンナ・グレイスは、魔導師の両親が営む薬屋の家に生まれ育った。
帝都の下町育ちで、気が強く、すこぶる口が悪い、黒目黒髪のツインテールで、雷撃系の魔法を得意とする魔導師の女の子である。
ルドルフは、呆れたように答える。
「お前・・・、オレに抱いて欲しいのか?」
ルドルフの言葉に、アンナはハッとして我に返る。
アレクの病室でナディアに『未通女』と言い当てられ、『女として男を満足させられるのか』と口淫する仕草を見せられ、からかわれた。
ナディアに何も言い返せない、嫉妬と怒りと屈辱から、頭に血が上ってルドルフに八つ当たりしてしまった。
『自分を抱いて女にしろ』とか、とんでもない事を口走ってしまった。
頭に血が上っていたとはいえ、言ってしまった以上、引っ込みが効かない。
頬を赤らめたまま、アンナは続ける。
「そ、そうよ! 私だって、女よ! 貴方を満足させる事くらい、できるんだから!!」
ルドルフは、自分の胸に人差し指を突き立てるアンナの手首を掴むと、抱き寄せる。
「ひゃっ!?」
アンナは短い悲鳴を上げると、ルドルフの腕の中から驚いたようにその顔を見上げる。




