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第三百四十一話 教導大隊、北へ

 飛行空母ユニコーン・ゼロの飛行甲板での戦いは、ソユット軍指揮官の自爆で幕を閉じた。


 ソユット軍指揮官の自爆は、自軍の生き残りとアレク達を巻き込むものであった。


 ユニコーン・ゼロの飛行甲板の一角が爆煙に包まれる。






 ジカイラが、目の前のソユット兵を斬り伏せた直後にソユット軍指揮官は自爆する。


 ジカイラは、とっさに片膝を着いて左腕で顔を覆い、急速に迫ってきた爆風を凌ぐ。


「うぉおおおっ!?」


(指揮官が自決!? いや、自爆しやがったのか!!)


 ジカイラの脳裏にソユット軍の背後から奥深くまで攻め込んでいたアレク達、二年生の事が思い浮かぶ。


(アレク達、二年生は無事か!?)


 飛行空母ユニコーン・ゼロが航行する上空の冷たい風が、ソユット軍指揮官の自爆による爆煙を押し流していく。




 爆煙が晴れた飛行甲板には、目を覆いたくなる惨状が広がっていた。


 ソユット軍指揮官とその取り巻き達は、爆発によって変わり果てた姿になっていた。


 両腕で頭を覆い隠す様に伏せていたアルとトゥルムは起き上がる。


 アルは起き上がり、右手で自分の耳を軽く叩きながら呟く。


「ひでぇ。自爆したのかよ? ・・・くそっ! 今も耳鳴りがしやがる」


 トゥルムも、起き上がって周囲を見回す。


「アル。無事か?」


「トゥルムこそ」


「私は大丈夫だ」


「オレも。耳鳴りくらい」


 アルとトゥルムの二人は、小隊の盾役として重装甲であった。


 アルは鎖帷子の上に胸当てを着け、トゥルムは鱗鎧を着込んでおり、二人とも兜を被っていた。


 重装甲の上、とっさに伏せて防御態勢を取っていたため、アルとトゥルムの二人は軽傷であった。


 ナディアとエルザは爆風によって数メートルほど吹き飛ばされていた。


 ナディアは上手く着地したものの、エルザは受け身に失敗して身体を打ち付けていた。


 ナディアは着地して屈んだまま、指揮官が存在していた場所を睨み付ける。


「自分の部下を道連れに自爆するなんて! なんて奴!!」


 エルザは、背中から飛行甲板に落ちた痛みを堪えながら寝返りをうつと、肘を着きながら上半身を起こす。


「うううぅ・・・。痛ったぁ~。・・・ちょっと! 何なの!?」


 ジカイラは、ナタリーとドミトリーのところまで駆け寄る。


「お前達、大丈夫か!?」 


 ナタリーは答える。


「私は・・・あの爆発から離れていたので」


 ドミトリーは答える。


「拙僧も無事です。まさか、自爆するとは。・・・狂信者め!」


 三人は、ユニコーン小隊の他のメンバーの元に駆け寄る。


 アル、トゥルム、ナディアは軽傷。エルザは頭と左足を負傷していた。


 エルザは、駆け寄って来たジカイラ達に尋ねる。


「アレクは? アレクは無事なの!?」


 ナディアは叫ぶ。


「アレク!?」


 ジカイラとユニコーン小隊の者たちは、指揮官が自爆した爆心地を見る。


 アレクとルイーゼの二人は、血塗れで飛行甲板に倒れていた。


 ジカイラとユニコーン小隊の者たちは、倒れている二人の元に駆け寄り、二人を介抱する。


 ジカイラは叫ぶ。


「アレク!? ルイーゼ!! しっかりしろ!!」


 アレクは倒れたまま、自分の顔を覗き込むジカイラの方へ顔を向けて答える。


「大佐・・・」


 アレクは、傍らのルイーゼの方へ顔を向けると口を開く。


「ルイーゼは? ・・・ルイーゼ」


 アレクは、名前を呼んでも返事をせず、倒れて動かないルイーゼに向けて手を伸ばす。


 ナタリーはルイーゼの傍らに来て叫ぶ。


「ルイーゼ!?」


 ジカイラは、ルイーゼの口元に手を当てて呼吸を見る。


 ルイーぜの吐息がジカイラの手に当たり、呼吸している事が判る。


 ジカイラは口を開く。


「大怪我をして気を失っているが、息はある。生きてる」


 ルイーゼは、アレクの頭を自分の胸に抱き抱えるようにアレクの盾となり、自爆による爆炎を背中に受け、大怪我を負っていた。


 ジカイラはドミトリーを呼ぶ。


「ドミトリー! 二人に回復魔法を! 救護を頼む!!」


「了解!!」


 ドミトリーは、アレクとルイーゼに回復魔法を掛けて応急処置を施す。


 続けてジカイラは立ち上がると、大声で指示を出す。


「衛生兵は負傷者の救護を! 甲板作業員は飛空艇の収容を! 急げ!!」

 

 ジカイラの号令により艦内から衛生兵と甲板作業員が現れ、負傷者と飛空艇の収容を始める。


 アレクは、衛生兵によって担架に乗せられて担がれる。


「ルイーゼ! ルイーゼ!!」


 アレクは、傍らで担架に乗せられたルイーゼの名を叫び手を伸ばすが、ルイーゼは気を失ったままであった。

 



 ユニコーン・ゼロの飛行甲板での戦闘が終わり、教導大隊が負傷者と飛空艇の収容を始めたのを合図に、ソユット軍の飛行ガレアスの艦隊が再び砲撃を再開する。


 ソユット軍がユニコーン・ゼロに接舷した自軍の飛行ガレアスを巻き込む事を恐れて中断していた砲撃を再開させたためであった。

 

 ヒナはジカイラの傍らにやって来て口を開く。


「ジカさん、大丈夫!?」


 ジカイラは飛行甲板に立ちながら、ソユット軍飛行艦隊を睨んで呟く。


「ああ。・・・ミドリガメのやつらめ! 砲撃を再開してきたか!!」





 その時であった。


 空中都市イル・ラヴァーリの下に広がる白い層雲の雲海から、別の飛行艦隊が浮上してくる。


 現れたのは、ガレオンの上にラグビーボール状の大きな気嚢を付けた戦闘飛行船の艦隊であった。


 赤一色に塗られたその戦闘飛行船の艦隊は、単縦陣を組んで一列に並び、ユニコーン・ゼロとソユット軍飛行艦隊の間に浮上して来る。


 ジカイラは、新たに浮上してきた飛行艦隊に目を向けると、短く舌打ちする。


「チッ! 新手か!?」


 ジカイラはヒナから望遠鏡を受け取ると、現れた飛行艦隊の旗艦を望遠鏡で見る。


 現れた飛行艦隊の旗艦は、ヴェネト共和国の国旗を翻しながら手旗信号をユニコーン・ゼロに向けて送って来ていた。


 ジカイラは手旗信号を読み上げる。


「『我、ヴェネト共和国軍飛行艦隊『東方不敗』。貴軍に加勢する』だと!?」


 ヒナは驚く。


「『東方不敗』って!? ヴェネトの飛行艦隊が、こっちに味方してくれるの?」


 ジカイラは、続けて手旗信号を読み上げると、傍らのヒナにニヤリと笑顔を見せる。


「『追伸:妹達が世話になった』だとさ!」


 ヒナは、小首を傾げる。


()()・・・?」


 ジカイラはヒナに答える。


「アーベントロートとルパの二人のことだろう。・・・『()()』って事だろう」


 ジカイラは続ける。


「ヒナ! 緑の信号弾だ! 空中港のエリシス伯爵に大型輸送飛空艇の艦隊を出す機会だと知らせろ!」


「了解!!」


 ヒナからの指示で下士官は、緑の信号弾を打ち上げる。


 打ち上げられた信号弾は、緑色の煙を噴き上げながら群青の虚空に弧を描いて飛んで行く。


 ほどなく空中港からエリシス伯爵が率いる帝国南部方面軍を乗せた大型飛空艇の艦隊が、続々と発艦して、トラキアを目指して北進するユニコーン・ゼロの後に続いてくる。





--少し時間を戻した ヴェネト共和国軍 飛行艦隊『東方不敗』 旗艦リッチ・ドール


 旗艦リッチ・ドールの艦橋には、東方不敗を率いるリッチとすつぬふ、アーベントロートとルパなど東方不敗の将校達が集まっていた。


 すつぬふは、旗艦の艦橋から周囲を見渡して口を開く。


「うひょぉおおお~。リッチ! バレンシュテット軍とソユット軍のド真ん中に浮上したぞ! ドンピシャだぜ!!」 


 普段、口数が少ない寡黙なリッチは答える。


「当り前だ。そうなるように指示したのだからな」


 すつぬふは軽口を叩く。


「右には『世界最強の帝国騎士(ライヒス・リッター)』を擁するバレンシュテット帝国。左には『死をも恐れぬ狂信者』で溢れるソユット帝国。オレは、どっちも関わりたくないねぇ」


 リッチは少し口元を緩ませて答える。


「左の『狂信者』の相手は、オレ達の専門だろう?」


 リッチの答えを聞いたすつぬふも笑顔で答える。


「違いねぇ!!」


 アーベントロートはリッチに尋ねる。


「本当にいいの? リッチ? ヴェネト本国がうるさいんじゃ・・・」


 リッチは、不安そうなアーベントロートを一瞥して答える。


「構わん。我ら『東方不敗』は、受けた借りは必ず返す。亡命騎士と(そし)られようが、それがオレ達の矜持であり、誇りだ。・・・いくぞ! すつぬふ!!」


 すつぬふは士官達に号令を出す。 


「ほいきた! 全艦、戦闘増速! 単縦陣のまま、左舷上げ角二十五! 初弾観測の後、効力射、斉射三連!! ・・・しくじるなよ! バレンシュテット帝国(お客さんたち)が見てるぞ!!」


 東方不敗の飛行艦隊は、単縦陣を組んでバレンシュテット帝国軍とソユット帝国軍の間に割って入ると、個々の戦闘飛行船はソユット帝国軍側にある左側の船舷が上がるように艦を傾斜させる。


 ひと呼吸の後、東方不敗の飛行艦隊は、ソユット帝国軍の飛行艦隊の旗艦に向けて砲撃観測の後、一斉射撃を三回連続で行う。


 東方不敗の集中砲火を受けたソユット帝国軍の旗艦は、たちまち大爆発を起こして轟沈する。




 ジカイラは、東方不敗とソユット軍の戦闘の様子を見て呟く。


「やるな。・・・さすが武闘派で知られているだけはある」


 東方不敗も、ソユット帝国軍飛行艦隊も、使っている大砲の性能は、どちらも有効射程二千メートルと似たようなものであった。


 東方不敗は、より遠くまで大砲の弾が飛ぶように、敵に面した艦の船舷の角度が上がるように艦を傾け、その有効射程を伸ばしていた。


 


 教導大隊が乗る飛行空母ユニコーン・ゼロと、エリシス伯爵率いる帝国南部方面軍を乗せた大型飛行輸送船の艦隊は、東方不敗の活躍によって戦闘から離脱し、一路、トラキアを目指してその航行速度を上げていった。


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