第三百三十九話 教導大隊 vs ソユット帝国軍飛行艦隊(四)
-- 飛行空母ユニコーン・ゼロ 飛行甲板
飛行甲板では、教導大隊の一年生達が構えて並べる大盾の列にソユット兵達が斬り掛かって来ており、盾越しに押し合いひしめき合っていた。
開幕の一撃で先陣を切ったジカイラとヒナは、一年生達の前衛が並べる大盾の列の後ろにいた。
ジカイラは、戦いの様子を見ながら呟く。
「オレ達の開幕の一撃で結構、倒したと思ったんだが・・・、まだまだ残っていやがるな!」
傍らのヒナは、ジカイラの呟きにツッコミを入れる。
「相手は、ほんの百五十人でしょ? 開幕の一撃で、あれくらい倒しても、まだまだ残っているわよ!!」
ジカイラは苦笑いしながら答える。
「違いない」
ジカイラとヒナが話していると、一年生達が戦闘しているソユット兵達の後方から、轟音と共に大爆発が起きる。
アレク達の飛空艇が主砲の一斉射撃でソユット帝国軍の飛行ガレアスを轟沈させたためであった。
接舷していたソユット帝国の飛行ガレアスは、爆発して黒煙を上げながら高度を下げ、ユニコーン・ゼロから離れていく。
ジカイラは、その様子を見て口を開く。
「良し! いいぞ! アレク!」
ソユット兵達は、乗り込んで来た母艦が目の前で大爆発して轟沈する様を見て浮足立ち、ざわつき始める。
ヒナは、ソユット兵達の様子を見て口を開く。
「ミネルバ! 今よ!!」
ミネルバは、すかさず教導大隊に号令を掛ける。
「Attacke!!」
(攻撃!!)
ミネルバの号令に合わせて一年生の前衛は、一斉に盾でソユット兵達を押し返すと、盾の隙間から体勢を崩したソユット兵達を武器で斬りつける。
「ぐぁああああ!!」
「ぎゃああああ!!」
攻撃した後、ミネルバ達は再び盾を構えて陣形を整え、盾越しに襲い掛かってくるソユット兵達を押し止める。
再びミネルバは号令を掛ける。
「Attacke!!」
(攻撃!!)
ミネルバの号令に合わせて一年生の前衛は、一斉に盾でソユット兵達を押し返すと、盾の隙間から体勢を崩したソユット兵達を武器で斬り伏せていく。
「がぁああああ!!」
ソユット兵の無数の悲鳴と怒声が飛行甲板で飛び交う。
三度、ミネルバは号令を掛ける。
「Fernangriff!!」
(遠距離攻撃!!)
盾を構えていた前衛の者達が一斉に屈むと、後列の者達が魔法や飛び道具で一斉にソユット兵達を攻撃して倒していく。
衝突と戦闘を繰り返し、ミネルバ達教導大隊の一年生達は、より人数の多いソユット兵達と拮抗した戦闘を繰り広げる。
飛行ガレアスを撃沈したアレク達は、飛行空母ユニコーン・ゼロと高度を合わせて編隊を組み直す。
アレク達の視界に飛行甲板での拮抗した戦闘の様子が入る。
アレクは口を開く。
「オレ達も加勢しよう! 飛行甲板に着陸するぞ!!」
「了解!」
ルイーゼは、手旗信号で飛行甲板での戦闘に加勢する旨を僚機に伝える。
アレク達は、飛行甲板の艦首部分に着陸すると飛空艇から飛び降り、歩兵戦闘での陣形を組む。
アルは軽口を叩く。
「『ソユット軍。後ろ、ガラ空き、尻丸出し』ってか」
アルの軽口のとおりであった。
教導大隊の一年生達が飛行甲板に出るために使用したエレベーターは、飛行空母ユニコーン・ゼロの艦尾近くにあり、右舷中部に接舷して乗艦してきたソユット軍が教導大隊の一年生達に対峙すると、アレク達が着艦した艦首側に背後を見せる形になっていた。
ソユット軍の背後にあたる飛行甲板の艦首部分に降下したアレクは、にやりと笑みを浮かべる。
トゥルムはアルをたしなめる。
「アル。油断は禁物だぞ」
ドミトリーもトゥルム追従する。
「うむ。相手のソユット兵は軽装だが、我々は、あのような異教の者達と戦った事が無い。心して掛からねば」
エルザは、トゥルムとドミトリーの言葉に呆れる。
「こっちには、ユニコーンの獣耳アイドル・エルザちゃんが居るのよ。チャチャッとやっちゃいましょ!」
ナディアもエルザに追従する。
「そうそう。さっさとやっつけて、お茶にしましょ」
ルイーゼは口を開く。
「不意を打つなら、静かに行かないと」
ルイーゼの言葉にナタリーは無言で頷く。
アレクは号令を掛ける。
「行こう! みんな!!」
「おう!!」
アレク達ユニコーン小隊は、小走りでソユット軍に接近すると、その背後から襲撃する。
先陣を切るアレクは、長剣ゾーリンゲン・ツヴァイハンダーを鞘から抜くと、そのまま横殴りにソユット兵に斬り掛かる。
淡く青白い光を放つゾーリンゲン・ツヴァイハンダーの刀身は、軽装のソユット兵の装甲を容易く紙のように切り裂き、ソユット兵の身体を一刀両断する。
(・・・弱い。雑魚だ!!)
近接戦最強の上級職である上級騎士となり、その剣技を身に付けたアレクは、斬り込んだ勢いのまま先陣としてソユット軍部隊に斬り込み、次々とソユット兵を斬り伏せていく。
アレクに続いてアルとトゥルムがソユット軍部隊に斬り込む。
「オォオオオオ!!」
二人とも雄たけびを上げながら、アルは斧槍で、トゥルムは三叉槍でソユット兵を突き倒し、斬り伏せ、薙ぎ払っていく。
アルとトゥルムの後にルイーゼ、ナディア、エルザが続く。
小隊の盾役であり、一般人より一回り以上体格が大きいアルとトゥルムの後に続いて現れたのが『女の子三人』であったため、ソユット兵達が反撃しようとする。
軽装のソユット兵は、カスパニア軍の正規兵よりも動きが速く、剣技にも優れていたが、ユニコーン小隊の女の子三人、ルイーゼ、ナディア、エルザは、速さではソユット兵を遥かに凌いでいた。
斥候・暗殺者系の上級職である忍者のルイーゼは、反撃しようとしたソユット兵達の間を、音も無く風のように駆け抜けながら両手の鉤爪を使い、ソユット兵達を次々と瞬殺してアレク達の後を追う。
「おりゃああああ!!」
エルザは、雄叫びを上げながら両手剣を振り上げると、袈裟斬りにソユット兵を斬り伏せ、その勢いに乗ったまま身を翻してソユット兵に向けて回し蹴りを放ち、蹴り倒す。
ナディアは、斬り掛かって来たソユット兵の湾曲刀の一撃を潜って躱す。
水平に払われた湾曲刀の一撃を潜り抜けたナディアは、すれ違い様にソユット兵の脇腹をレイピアで切り裂く。
「そんな腕じゃ、お姉さんには傷一つ、付けられないわ!」
ナディアは、次々と斬り掛かてくるソユット兵達の斬撃を軽快なフットワークで躱すと、布鎧のスリットから黒い下着をチラつかせながらレイピアの刺突で反撃して仕留めていく。
ドミトリーは口を開く。
「ナタリー。あの三人の後に続け! 殿は、拙僧に任せろ!!」
ナタリーが小走りでルイーゼ、ナディア、エルザの後を追うと、二人のソユット兵がナタリーの前に立ち塞がる。
ナタリーは、魔法を唱えながら二人のソユット兵に向けて杖を振るう。
「炎の刃!!」
振るった杖の軌跡の上に二つの魔法陣が現れると、そこから現出した炎の刃が二人のソユット兵に襲い掛かり、二人の身体を炎が包む。
火達磨になったソユット兵達は、叫びながら飛行甲板の上を転がる。
殿を務めるドミトリーは、追ってきたソユット兵を開脚百八十度の見事な蹴りで倒していく。
「キェエエエエ!!」
追手に一撃を加えたドミトリーは、三回、後方転回を決めると、ナタリーの後を追って走る。
「ドワーフは短距離型なのだ! 長距離を走るのは苦手なのだがな!」




