第三百三十七話 教導大隊 vs ソユット帝国軍飛行艦隊(二)
飛行空母ユニコーン・ゼロの下に広がる白い層雲の雲海から浮上してきたのは、ソユット帝国の飛行ガレアスであった。
ソユット帝国の飛行ガレアスは、真上に居る飛行空母ユニコーン・ゼロに接舷しようと、急速に浮上して高度を上げ始める。
その様子を見ていたアレクは、ソユット帝国飛行艦隊に向けていた編隊をユニコーン・ゼロへ向けて反転させ、伝声管に向かって叫ぶ。
「マズい! あの艦、ユニコーン・ゼロに接舷するつもりだ! ルイーゼ、赤の信号弾を!」
「了解!」
ルイーゼは、備品箱から赤の信号弾を取り出すと、発射装置から上空に打ち上げる。
信号弾は、発射装置から打ち上げられると、赤い煙を吐きながら雲一つない澄んだ紺碧の虚空に大きな弧を描きながら飛んで行く。
赤の信号弾は、バレンシュテット帝国軍の『非常事態、緊急事態発生』の合図であった。
戦場に居るバレンシュテット帝国軍の者達は、突如、打ち上げられた赤の信号弾に驚く。
-- 飛行空母ユニコーン・ゼロ 艦橋
ジカイラとヒナは、ルイーゼが打ち上げた赤の信号弾を視認する。
(アレク。どうした? 何があった?)
ジカイラは、艦橋の窓から望遠鏡で信号弾を打ち上げたアレクの機体を見る。
望遠鏡越しに見たアレクの機体では、ルイーゼが手旗信号を送っていた。
ジカイラは、ルイーゼの手旗信号を読み上げる。
「・・・『貴艦の直下に敵艦現る。浮上、接舷に注意せよ』だと!? ・・・って、ヤバいぞ!!」
ジカイラが読み上げたルイーゼの手旗信号の内容を聞いた艦橋にいる者達に緊張が走り、ジカイラはユニコーン・ゼロが置かれている状況を理解して叫ぶ。
「艦長! 直下に敵艦が現れた! 浮上してくるぞ! 回避だ!! 総員、甲板戦用意! 急げ!!」
ジカイラに続いてヒナも指示を出す。
「甲板作業員は、艦内に退避! 教導大隊の一年生は、戦闘装備で格納庫に緊急集合!!」
ジカイラは傍らのヒナに告げる。
「ヒナ! オレ達も格納庫に行くぞ!!」
ヒナは大きく頷く。
「ええ!!」
二人の号令で、艦内は一斉に戦闘態勢に入る。
艦長は、航法士官達に指示を出す。
「面舵、一杯! 両舷全速! 緊急浮上!!」
航法士官達は、艦長の指示を復唱しながら操艦する。
「面かーじ、一杯!!」
「機関出力最大、両舷全速前進!!」
「浮遊水晶出力最大、上げ角ゼロ、緊急浮上!!」
飛行空母ユニコーン・ゼロは、船体を大きく右に傾けながら直下から浮上してくる敵艦との衝突回避行動を取り始める。
しかし、既に上昇を続けていたソユット帝国の飛行ガレアスのほうが上昇速度が速く、ユニコーン・ゼロの左舷に飛行ガレアスの艦首が衝突する。
轟音と共に、両艦は衝突の衝撃に揺れる。
-- 飛行空母ユニコーン・ゼロ 格納庫
格納庫では、ミネルバ達、教導大隊の一年生が落ち着かない顔で戦闘装備を整えて整列し、ジカイラ達が来るのを待っていた。
不安を隠せないランスロットは、傍らのミネルバに話し掛ける。
「姫。・・・教官、まだかな?」
聖騎士装備に身を包んだミネルバは、ランスロットに答える。
「直ぐに来るわよ。ビクビクしないの! 男でしょ!!」
ミネルバがランスロットを一喝した直後、飛行空母ユニコーン・ゼロと飛行ガレアスの衝突により、船体が傾き、格納庫も大きく揺れる。
「うわぁああ!!」
戦闘に慣れていない一年生達に動揺が走る。
「落ち着けぇ!!」
格納庫に響く怒声と共に戦闘装備のジカイラとヒナが現れ、教官の二人が現れた事で一年生達は、落ち着きを取り戻し、隊列の前に歩み出てきた二人の方を見る。
ジカイラは口を開く。
「傾注! これより飛行甲板に出て、敵兵を迎え撃つ! 教本通りの歩兵戦闘だ! お前達、一年生にとって二度目の実戦だが、装備も練度もこちらが上だ! 心して掛かれ!!」
「はい!!」
ジカイラはミネルバを指名する。
「ミネルバ・ヘーゲル!」
「はい!」
「お前が一学年の首席だ! 今回の戦闘では、お前が一学年八個小隊の指揮を執れ!!」
「了解しました!!」
「行くぞ!!」
ジカイラ、ヒナと共にミネルバ達一年生がエレベーターに乗ると、ジカイラが整備員に告げる。
「敵が乗り移って来るぞ! 教導大隊が飛行甲板で迎え撃つ! エレベーターを上げろ!!」
「了解! エレベーター、上げます!!」
整備員が動力を切り替えると、飛行甲板に向けてジカイラ達と教導大隊の一年生達が搭乗するエレベーターは、飛行甲板へと上昇していく。
-- 飛行空母ユニコーン・ゼロ 上空
アレク達の目の前で衝突回避行動を取り始めた飛行空母ユニコーン・ゼロの左舷にソユット帝国の飛行ガレアスが衝突する。
アレクは叫ぶ。
「衝突したぞ!?」
飛行空母ユニコーン・ゼロの左舷に衝突して接舷した飛行ガレアスは、船首像の下にある跳ね橋をユニコーン・ゼロの飛行甲板に降ろす。
跳ね橋の端に取り付けられている鋼鉄の鉤爪が飛行甲板に打ち付けられ、金属同士がぶつかり合う音が響く。
ユニコーン・ゼロの上空を旋回するアレク達の目の前で、飛行ガレアスから跳ね橋を渡ってユニコーン・ゼロの飛行甲板にソユット兵がゾロゾロと乗り込んで行く様子が見える。
アレクは口を開く。
「くそっ! あいつら、ユニコーン・ゼロに乗り込んでやがる!!」
ルイーゼは答える。
「アレク。今、ユニコーン・ゼロには、一年生達しかいないわ! どうするの?」
「まず、あの飛行ガレアスを叩く! ルイーゼ、手旗信号を!」
「了解!!」
ルイーゼが手旗信号でアル達僚機に飛行ガレアスを攻撃する事を伝えると、アル達僚機は翼を振って了解した旨をルイーゼに答える。
「アレク! 良いわよ!」
「行くよ! ルイーゼ!」
アレク達ユニコーン小隊の四機の飛空艇は急降下し、ユニコーン・ゼロに接舷しているソユット帝国の飛行ガレアスの直上からの攻撃態勢に入る。




