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第三百二十九話 カリンの魔法

-- トラキア離宮


 ジークは、朝からトラキア離宮の執務室で政務をこなしていた。


 『バレンシュテット帝国領トラキアの支配者』であり、その仕事というものは尽きる事が無い。


 ジークの傍らでは、皇太子第二妃 兼 護衛のアストリッドが秘書のように振舞いジークが決裁した羊皮紙の書類を送付先ごとに分けて捌いていく。




 ジークが推し進めるトラキア開拓事業は、順調に進んでいた。


 カルロフカ湖から用水路を掘削して耕地を灌漑する事業も、トラキアの主要都市を繋ぐ街道建設も、上下水道の建設も、クリシュナが作ったストーンゴーレムを動員して二十四時間休み無く急ピッチに進められていた。


 帝国本土東端に位置するヒマジン伯爵領の州都トウェルブブルクからトラキアの州都ツァンダレイまでの鉄道を敷設する事業も、ストーンゴーレムの投入により全路線の二割程度まで出来ていた。


 バレンシュテット帝国は、その有り余る富と、ストーンゴーレムといった魔法技術、鉄道といった科学技術力を惜し気も無く事業に投入し、トラキアの開拓を推し進めていった。


 公共事業でトラキアに雇用の場を作り、安定した仕事と収入を与えられたトラキアの人々は、都市へ定住する者達が増えていった。


 これらの事業は、諸外国の目には、中世の文明しか持たず戦乱と疫病で荒廃したトラキアが、驚くべき速さで近代的で豊かな地域に造り変えられていくように映っていた。




 正午近くになり、侍従が執務室を訪れドアをノックする。


「殿下。よろしいでしょうか?」


「入れ」


 侍従はドアを開けて執務室に一歩入ると、恭しく一礼する。


「失礼致します」


 そして、ジークの前まで歩いて来ると口を開く。


「殿下。カリン様が『自分の部屋で昼食を御一緒したい』とおっしゃられております。ハリッシュ導師御夫妻も御一緒です」


「ほう? ・・・判った。『行く』と伝えろ」


「畏まりました」


 侍従はジークに恭しく頭を下げると執務室を後にする。


 



 ジークの第四妃であるカリンは、帝国の北に位置する小国ゴズフレズ王国の王女であった。


 田舎の修道院で育った純朴な十四歳の王女は、特使としてバレンシュテット帝国を訪れた際に、カリンの接待役であった皇太子のジークに恋心を抱いた。


 北方動乱の結果、王女であるカリンがジークの元に皇太子第四妃として輿入れした事で、ゴズフレズ王国はバレンシュテット帝国の庇護下に入る形になっていた。




 ジークは、キリの良い所で政務を切り上げると、アストリッドを伴い、カリンの部屋を訪れてドアをノックして口を開く。


「私だ。入るぞ」


「どうぞ」


 間髪を入れずにカリンの部屋の侍従は、ドアを開けてジーク達を部屋の中に招き入れる。


 トラキア離宮のカリンの部屋は離宮の一階にあり、噴水が流れる中庭の庭園に面した陽当たりと風通しの良い、白を基調とした静かな部屋であった。


 カリンの部屋に配された帝国様式の豪華な家具は、皇帝ラインハルトが用意したものであったが、田舎の修道院で育ったカリンの暮らしぶりは質素で、女の子らしい人形や小物が棚に幾つか並ぶ程度であった。


 部屋には既に昼食の用意がされており、カリンは部屋に入って来たジーク達を出迎える。


「ジーク様! お見せしたい物が!」


「なんだ?」


 ジークは笑顔でカリンに答える。


 カリンはハリッシュ夫妻に目配せすると、小さなテーブルの上に並べられたくるみ割り人形に向けて手をかざす。


 カリンは口を開く。


魔力(マナ・)指向弾(ミサイル)!」


 カリンがかざす手の先の空中に小さな魔法陣が現れ、青白い光を放つ魔力(マナ)の弾が作られていく。


 それは小さな握り拳ほどの大きさになると、手をかざした先のくるみ割り人形へと飛んで行った。


 青白い光を放つ魔力(マナ)の弾が当たった人形は小さな音を立ててテーブルの上に倒れる。


 引き続きカリンが連続で魔法を唱えると、魔力(マナ)の弾が当たった人形は、ポコポコと音を立ててテーブルの上に倒れていく。


 ひと通り人形を倒し終わったカリンは、笑顔でジークに尋ねる。


「ジーク様! いかがですか?」


 ジークは驚いた顔でカリンに答える。


「カリン。魔法が使えるようになったのか!?」


「はい!」


 ハリッシュはジークに歩み寄って告げる。


「カリン妃には、魔法が扱える才能があるようです」


「ほう? 魔法の才能が・・・」


「カリン妃に、どの系統の魔法が向いているのかは、まだ分かりません。しかし、修行を積んで行けば、それも判る事でしょう」


 ハリッシュの傍らのクリシュナもジークに告げる。


「カリンさんが、どの系統の魔法を使えるようになるのか楽しみね」


「そうですね」


 カリンは、照れながら笑顔でジークに告げる。


「私もジーク様の力になれるように頑張ります」


「それは楽しみだな。ハリッシュ導師は帝国最高の魔導師だ。色々と教わると良い」


「はい!」


 ジークとアストリッド、カリンとハリッシュ夫妻は、昼食が用意されたテーブルの席に着く。


 カリンの部屋での昼食は、魔法談議で盛り上がった。


 

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