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アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第十二章 空中都市

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第三百二十二話 空中都市での一夜(六)

 ヴェネト共和国軍飛行艦隊『東方不敗』の女騎士アーベントロートとルパの二人は、連絡将校としてイル・ラヴァーリに派遣され、アノーテから自治庁の一室を駐在室に割り当てられ、そこに駐在していた。


 二人が帝国軍の客将となってからも、ジカイラの便宜によって、引き続き同じ部屋を使っていた。


 ジカイラとヒナは連れ立って自治庁へ行き、客将として迎えたヴェネト共和国軍飛行艦隊『東方不敗』の女騎士アーベントロートとルパの二人を訪ねる。


 ジカイラはドアをノックする。


「失礼。バレンシュテット帝国軍のジカイラ大佐だ。・・・お二人とも、今、よろしいかな?」


 アーベントロートはドアを開けて答える。


「構わない。どうぞ」


 ジカイラとヒナは、二人の駐在室に入ると椅子に腰掛ける。


 ルパは尋ねる。


「どういった御用件で?」


 ジカイラは答える。


「・・・お二人には、特使をお願いしたい」


 アーベントロートは聞き返す。


「と、言うと?」


 ジカイラは続ける。


「ヴェネト本国に伝えて欲しい。『バレンシュテット帝国は、自治政府からの要請により空中都市イル・ラヴァーリを保護下に置くが、ヴェネト共和国と全面戦争を行うつもりは無い』とな」


 ジカイラからの申し出に対して、アーベントロートは自嘲気味に答える。


「ジカイラ大佐。個人的に帝国からの申し出はありがたいが、それをヴェネト本国に伝えたところで、あの強欲な連中が、この空中都市を諦めると思うのか?」


 ジカイラは、怪訝な顔で聞き返す。


「守銭奴で有名なヴェネト共和国なら、わざわざこの街の財貨を武力で強奪しなくても、余るくらい金を持っているだろう?」 


 アーベントロートに続いて、ルパも自嘲気味に答える。


「ヴェネト本国が武力に訴えてでも欲しい『金のなる木』が、この街にはあるのさ。・・・もっとも。我々、東方不敗としては不本意だが」


 ヒナは、ため息交じりに呟く。


「『金のなる木』ね・・・」


 ヒナは二人に尋ねる。


「込み入った事を伺いますが、お二人はヴェネト人ではないのでしょう? ・・・その肌の白さ。なぜ、ヴェネトに?」


 ルパは答える。


「私達『東方不敗』の人間は、元々はグレース王国の人間だ。故あって、今はヴェネトにいるが・・・」


 アーベントロートは、ジカイラとヒナに東方不敗がヴェネト共和国に身を寄せている経緯を語る。


 話を聞き終えたジカイラは、考えるように天井を見上げて呟く。


「なるほどなぁ・・・」


 ジカイラは続ける。


「そのヴェネト共和国がこの街を諦めれば、それで良し。諦めなければ、もう一戦やるだけだ。どちらにしろ、ヴェネト共和国本国が決めることさ。・・・特使の件、頼んだぞ」


 ルパは答える。


「判った。引き受けよう」


 ジカイラは続ける。


「お二人が乗って来たと思われる二人乗りの小型飛行船は、通用口に係留したままにしてある。それで帰ると良い」


 アーベントロートは口を開く。


「ジカイラ大佐。御厚情、感謝する。この礼はいずれ」


 ジカイラは、照れ臭そうに答える。


「気にしなくて良い。・・・正々堂々と一騎打ちで挑んで来た女騎士に対して、礼節を欠いたらバレンシュテット帝国の名前にキズが付くだろう?」


 ルパはジカイラをからかう。


「黒い剣士殿は、意外に紳士なのだな。最初は、てっきり私達を犯しに来たのだと思ったぞ?」


 ジカイラは、右手の親指で傍らのヒナを指し示しながら、苦笑いして答える。


「女房を連れて、それは無いだろ?」


 ジカイラの答えを聞いて四人は笑う。




 こうしてヴェト共和国軍飛行艦隊『東方不敗』の二人の女騎士アーベントロートとルパは、仲間と合流するべく、二人乗りの小型飛行船でハニアの街へと帰って行った。


 


 続いて、ジカイラとヒナは、同じ自治庁の首相執務室を訪ねる。


 丸々と太った首相は、自分の席をアノーテから取り戻して御機嫌であった。


 二人がノックして部屋に入ると、首相自身が出迎える。 


「おぉ! 帝国の黒い剣士殿と氷の魔女殿! ヴェネトの銭ゲバどもを、この街から駆逐した、この度の活躍は見事というほかは無い!」


 ジカイラは苦笑いしながら答える。


「恐れ入ります」


 首相は怪訝な顔をして二人に尋ねる。


「ところで・・・。私の金貨を知らぬか? アノーテがこの部屋に箱で積んでいたはずなのじゃが・・・」


 首相の言葉を聞いたヒナは、コッソリとジカイラに耳打ちする。


「それ・・・エリシス伯爵が戦利品として骸骨(スケルトン)達に運ばせていたわ」


 首相からの質問に、ジカイラはトボけて答える。


「・・・我々は存じませんが」


 首相は、ふてくされたように答える。


「仕方がない。探させるとしよう」


 ジカイラは続ける。


「ヴェネト共和国軍に捕らわれた捕虜の釈放も順調に進んでいます。・・・ところで。バレンシュテット帝国がこの街を保護下に置く以上、帝国軍がこの街に駐留する事になりますが・・・」


 首相は、態度と機嫌を改めて即答する。


「それは構わん! また、あの銭ゲバ女どもが攻め込んで来るかもしれん! よろしく頼むぞ!」


 ジカイラは続ける。


「ここに帝国軍が駐留する以上、自治政府も帝国のルールに従って貰いますが・・・」


 首相は上機嫌で答える。


「結構、結構! この街の自治と独立を前提として、朝貢と従属と引き換えに安全保障については帝国に一任すると、既に書状で伝えてある」


 ジカイラは、真剣な表情で首相を睨むように告げる。


「イル・ラヴァーリが帝国との取り決めを(たが)えるような事があれば、皇帝陛下は容赦ありませんよ? ・・・特に、ここに来ている南部方面軍総司令エリシス伯爵は、陛下が『殺せ』と命じれば、何の躊躇も無く殺すでしょう。・・・その事は肝に命じておいて下さい」


 首相はジカイラの真剣な表情を見て、少しギクリとしていたが、取り繕うように答える。


「・・・判った。肝に銘じておこう」


 


 こうして空中都市の夜は、更けていった。


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