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第三十一話 遭遇戦

 アレクたちユニコーン小隊は、半時程で偵察を担当する目標地域に到達する。


 ルイーゼが地図を確認して、アレクに報告する。


「アレク、作戦地域に到達したわ」


「了解! これより作戦行動に移る。 ルイーゼ、僚機に手旗信号で伝達。『作戦開始』!」


「了解!」


 ルイーゼが手旗信号で偵察任務の開始を各機に伝えると、小隊の各機はアレクたちのユニコーン・リーダーに続いて低空飛行に移った。


 アレクが口を開く。


「高度一〇〇、目標高度に到達。これより偵察を開始する」


「了解」


 アレクたちは一定間隔で編隊を組み、低空飛行で地上の様子を偵察する。







 地上は『ステップ』と呼ばれる草地が覆うなだらかな起伏がある丘陵に『プレーン』と呼ばれる腰の高さ程の草が生えている原野が続く。


 所々に小川と原生林が点在していた。


 一時間ほど偵察を続けたところで、ルイーゼが口を開く。


「……静かね」


 アレクたちは周辺の地上を見回すが、特にめぼしいものは見当たらず、地上には丘陵と原野が続き、小川と原生林が点在していた。


「北のほうに行ってみよう」


「了解」


 アレクたちユニコーン小隊は、進路を北に向ける。






 ユニコーン小隊は北に向かって飛び、編隊が丘陵を越えたところでルイーゼは叫ぶ。


「アレク、人がいるわ! 二人!」


 アレクが、ルイーゼが指で指す方向を見ると、二人の女の子がいた。


 十歳くらいの女の子は、幼い女の子の手を引きながら走っている。


 少し間を空けて、女の子たちを追っているであろう集団が丘陵の稜線から現れる。


 脂ぎった黒灰色の体毛、尖った鼻先、その鼻先から伸びる髭、口から伸びる長い前歯、白目が殆どない真っ黒な目、頭の上の小さな耳、長い尻尾。


 その姿は、まさに『二本足で走る人間サイズのドブネズミ』。


 『鼠人(スケーブン)』であった。


 十人の鼠人(スケーブン)の一隊は、各々、手に(なた)のような剣や木槍を持って、二人の女の子を走って追い掛けていた。


 アレクが口を開く。


「あの子達、鼠人(スケーブン)に追われてる! 助けよう!」


「了解!」


 ルイーゼは、鼠人(スケーブン)から女の子たちを助ける事を手旗信号とハンドサインで僚機に伝える。


 ルイーゼの手旗とハンドサインを見たアルが口を開く。


「『我、敵部隊から民間人を救出する。全機、突入。我に続け!』 良いぞ、アレク! そうこないとな! 行くよ! ナタリー!」


「了解!」


 アレクたちユニコーン小隊は急降下し、女の子たちと鼠人(スケーブン)たちの間に割って入るように飛空艇を強行着陸させると、小隊は飛空艇から飛び降り、女の子たちを追ってくるであろう鼠人(スケーブン)の一隊が来る方角に身構える。


 アレクとルイーゼが身構えていると、飛空艇から飛び降りてきたアルがアレクたちの前に出る。


 アルは、アレクたちの前で右腕に持った斧槍(ハルバード)を水平に構えると、口を開く。


「アレク、任せろ」


 アルはそう言うと、左手で兜の面頬を下ろして、鼠人(スケーブン)の一隊が来る方角へ振り向き、腰を落として深く息を吸い込み、貯めの姿勢を取る。


 驚いたナタリーが叫ぶ。


「アル!? 何をするつもり?」


 面頬の中で不敵な笑みを浮かべつつ、アルが答える。


「見てろよ? ナタリー」


 木槍を手にした二体の鼠人(スケーブン)がアルの目前に迫る。


(いくぜ! (いち)(せん)!)


 アルの渾身の力を込めた斧槍(ハルバード)の一撃が剛腕から放たれる。


 右側の鼠人(スケーブン)が木槍でアルの斧槍(ハルバード)の一撃を受けようとするが、アルの必殺の一撃は、鼠人(スケーブン)の粗末な木槍をへし折り、斧槍(ハルバード)(やいば)は、右側の鼠人(スケーブン)の胴体だけでなく、左側の鼠人(スケーブン)の胴体をも切り裂いた。


 アルの父である革命戦役の英雄ジカイラ直伝の斧槍(ハルバード)の必殺の一撃であった。


「ヒュッ」


 アルは軽く息を吸うと、再び、斧槍(ハルバード)を構える。


 アルの必殺の一撃を見た小隊の仲間たちは感嘆し、口々にアルを褒める。


 エルザとナディアが目を丸くして口を開く。


「やるぅ~」


 トゥルムもアルを褒める。


「見事だ! アル!」


 ドミトリーもアルを褒める。


「やりますのぅ」


 ナタリーも驚きを隠せず、アルを褒める。


「アル、凄い!」


 ナタリーに褒められたアルは、面頬の中で満面の笑みを浮かべていた。


 アルが口を開く。


「敵の後続が来たぞ! どうする? 小隊長!」


 女の子たちを追い掛けていた鼠人(スケーブン)と思われる集団が現れる。


 アレクが口を開く。


「陣形を整えろ! 小隊、抜刀!」


 アレクの号令で、小隊は前衛と後衛に分かれて整列して、各々、武器を構える。


 前衛は、左からエルザ、トゥルム、アル、アレク。後衛はナディア、ドミトリー、ナタリー、ルイーゼである。


 アレクは敵を観察して、指示を出す。


(敵は八体、こちらも八人! 同数だ! いける!)


「ナタリーとナディアは魔法で、ルイーゼは弓で援護、ドミトリーは支援魔法を!」


「了解!」


「前衛は近接戦だ! 来たぞ!」


 前衛の四人は、武器と盾を構える。


 ドミトリーが前衛メンバーに支援魔法を掛ける。


筋力(レッサー・)強化(ストレングス)!」





 ナディアが鼠人(スケーブン)に向けて手をかざし、召喚魔法を唱える。


戦乙女の(ヴァルキリーズ・)戦槍(ジャベリン)!」

 

 ナディアの手の先に三つの光の球体が現れると、それは三本の光の矢に形を変えて鼠人(スケーブン)へ目掛けて飛んでいき、その胸を貫くと鼠人(スケーブン)は倒れて動かなくなった。






 ナタリーが鼠人(スケーブン)に向けて手をかざし、魔法を唱える。


 ナタリーの掌の先の空中に三つの魔法陣が浮かび上がる。


火炎(フレイム)爆裂(・バースト)!」


 爆炎が鼠人(スケーブン)の一体を包み、火達磨にする。


「ギィイイイイイイ!」


 鼠人(スケーブン)は言葉にならない叫びを上げて地面を転がりながら絶命する。





 ルイーゼは弓に矢をつがえて構え、叫ぶ。


「アレク! 屈んで!」


 ルイーゼの言葉を聞いたアレクは、直ぐに屈む。

 

 ルイーゼは、鼠人(スケーブン)に向けて、弓につがえた矢を放つ。


 ルイーゼが放った矢は鼠人(スケーブン)の喉を貫き、喉に矢を受けた鼠人(スケーブン)は、仰向けに倒れた。





 エルザは、鼠人(スケーブン)が振り下ろした(なた)の一撃を集団戦用の盾で受け、鈍い金属音が響く。


 エルザは(なた)の一撃を受け切ると、そのまま盾を鼠人(スケーブン)に押し付けて、素早く手を離す。


 鼠人(スケーブン)は、何が起こったのか理解できず、エルザから押し付けられた盾を両手で抱えるように持つ。


「ギギィ?」


 次の瞬間、エルザは盾越しに鼠人(スケーブン)を蹴り飛ばす。


「このぉ!」

 

 盾越しに蹴られた鼠人(スケーブン)は、エルザから押し付けられた盾を抱えたまま、後ろによろける。


 エルザは両手剣を持つと身を翻しながら素早く脇に回り込み、鼠人(スケーブン)の延髄に両手剣の一撃を喰らわせる。


 鼠人(スケーブン)の首の後の延髄から黒い血が噴き出る。


 鼠人(スケーブン)は、エルザから押し付けられた盾を抱えたまま、前のめりに倒れて動かなくなった。


 


 アレクは、鼠人(スケーブン)(なた)で斬り付けてくるのを盾と剣で受けてながら、観察していた。


(こいつら、武器を持った素人並みなんだな……攻撃も軽いし、鈍い)


 アレクは、鼠人(スケーブン)の攻撃の間隙をついて、剣を大上段から振り下ろして肩口から斜めに斬りつける。


「ギィイイイ!」


 鼠人(スケーブン)は苦痛に堪えきれず、斬られた部分を押さえ悲鳴を上げながら屈む。


 アレクは水平に剣を払い、鼠人(スケーブン)の首を斬り飛ばした。





 トゥルムとアルは、鉈で斬り付けてくる鼠人(スケーブン)の攻撃を盾で受けていた。


 二人は呼吸を合わせ、一斉に攻撃に転じる。


 トゥルムは三叉槍(トライデント)で、アルは斧槍(ハルバード)で、それぞれ鼠人(スケーブン)の腹を突く。


 二人共、元々、腕力がある上、ドミトリーの支援魔法を掛けられていたため、二人の武器は深々と鼠人(スケーブン)の腹に突き刺さる。


 



 小隊の皆が『勝った』と思った瞬間、倒れた鼠人(スケーブン)の影から、木槍を構えた鼠人(スケーブン)がトゥルムに飛び掛かってくる。


 次の瞬間、ドミトリーが動いた。


 ドワーフ特有の樽のような体で軽快に走り出すと、尻尾、背中、肩と蜥蜴人(リザードマン)のトゥルムの身体を駆け上がり、トゥルムに飛び掛かってきた鼠人(スケーブン)に向かって奇声を上げながら飛び蹴りを放つ。


「キェエエエ!」 


 ドミトリーの蹴りは、鼠人(スケーブン)の顎先に炸裂し、鼠人(スケーブン)は後ろに吹き飛ぶ。


「おぉ!」


 ドミトリーの活躍に小隊の皆が驚く。


「とどめだ!」

 

 アレクは倒れた鼠人(スケーブン)に剣を突き立てる。


 トゥルムが呟く。


「私は『踏み台』ではないのだがな……」


 こうしてユニコーン小隊は、鼠人(スケーブン)との最初の戦いに勝利することができた。





 小隊の女の子たちは、鼠人(スケーブン)に追われていた二人の女の子の面倒を見る。


 エルザは屈んで二人に目線を合わせると、優しく話し掛ける。


「大丈夫? 怪我は無い?」


「うん」


 二人の女の子の話を聞くと、二人は姉妹で、ここから北にある開拓村に住んでいたが、鼠人(スケーブン)に襲われたため、二人だけで逃げ出し、途中で鼠人(スケーブン)に見つかって追われていたと言う。


 アレクたち、小隊の男たちは鼠人(スケーブン)の装備や持ち物を調べていた。


 アレクが口を開く。


(なた)に木槍か……原始的だな」


 アルも同様の意見を言う。


「こいつら、武器も道具もロクなもの、持ってないな……」


 トゥルムが口を開く。


「武器だけでも参考に持って帰るか?」


 アレクが答える。


「そうだね。可能な限り、何でも良いから情報を集めよう」


 ドミトリーは会話に混ざらず、鼠人(スケーブン)の死体に向かって両手を合わせてブツブツと祈りを捧げていた。




 鼠人(スケーブン)の死体を一通り調べ終わったアレクたちユニコーン小隊は、助けた二人の女の子を飛空艇に乗せて離陸し、再び偵察任務を再開した。



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