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第三百十八話 空中都市での一夜(二)

 アレクとルイーゼは、ランタンを手に休憩できる場所を探し求めて教導大隊の仮設陣地を出て歩いていく。


 アルはナタリーの手を握って告げる。


「オレ達も行こう」


「うん」


 アルとナタリーも夜のイル・ラヴァーリの街へ大通りを歩いて行く。





 住民が避難した後の空中都市イル・ラヴァーリは、大通りの街灯こそ点いているものの、さながらゴーストタウンのようであった。


 アルは、大通りを歩きながらナタリーと休めそうな場所を探していると、大通りに面した角地に一際豪華な建物があり、目を止める。


(おっ? なんか、豪華な建物があるな・・・)


 二人は、豪華な建物の前で足を止めると、アルは建物の入り口にある看板に目を向ける。


 しかし、アルには看板に書いてある文字が読めなかった。


(共通語じゃないな。なんて書いてあるんだ? ・・・ま、いっか)  


「ナタリー。ここにしよう」


 アルは、ナタリーの手を引いて建物の中に入る。




 ナタリーは、アルが一瞥した看板に目を向けると、目を見開く。


(えっ!? ここって・・・!)


 ナタリーは、みるみる頬を赤らめ、モジモジし始める。


 建物の看板はエルフ語で書かれており、アルには読めなかったが、魔法を学んでいたナタリーは読むことが出来た。


 看板にはエルフ語でこう書かれていた。 




「ホテル」




 アルにホテルに連れ込まれたナタリーは、動揺を隠せないまま、様々な考えを巡らせていた。


(・・・どうしよう! どうしよう!)


(アルにホテルに誘われちゃった!)


(連れ込まれちゃった!)


(えっち・・・するのかな?)




 ナタリーは頬を赤らめたまま、上目遣いにチラッと傍らのアルを見詰めて様子を伺うが、アルは建物の入り口を入ったカウンターの前でキョロキョロと周囲を伺っていた。


(・・・なんか、宿屋みたいなところだな)


 アルは、カウンターの横にエルフ語で書かれた一覧表を見つける。


 アルにエルフ語で書かれた一覧表の文字の部分は読めなかったが、文字の隣の数字はその値段であることが想像できた。


(なんて書いてあるんだ? ・・・読めない。けど、こっちは金額だよな・・・たぶん・・・)


 エルフ語が読めず決めあぐねたアルは、ナタリーに声を掛ける。


「ナタリー。どれが良い?」


 ナタリーは、エルフ語で書かれた一覧表を見る。


(宿泊する部屋の一覧ね。えっと・・・『ロイヤルスイート:最上階』!)


「ここにしましょ! 最上階!」


「最上階か・・・」


 二人は、カウンターの横の階段を登って、ナタリーが決めた最上階の部屋に向かう。





 二人がホテルの最上階にあるロイヤルスイートにたどり着くと、目の前には月明かりに照らされた広大な空間が広がっていた。


 アルは呟く。


「広いな・・・」


「ちょっと待ってね」


 ナタリーは、部屋の壁に一定間隔で備え付けられている銀の燭台に火を灯していく。


 ナタリーが燭台に火を灯していく度に部屋の内装が明らかになり、二人は、その豪華さに目を見張る。


「すげぇ・・・」


「凄い・・・」


 最上階の部屋は、ロイヤルスイートの名に恥じることの無い、王侯貴族向けの豪華な部屋であった。





 アルは、部屋に飾られている高そうな調度品を眺めながら呟く。

 

「まるでニーベルンゲンの貴賓室みたいだ」


 ナタリーはアルの傍らに寄り添う。


「身分の高い人達向けの部屋ね」


 アルは胸当てや鎖帷子、手甲や足甲といった装備を外してソファーに座る。


「ふぅ・・・」


 ソファーに座ったアルは、天井を見上げながらナタリーに話し掛ける。


「ナタリー。天井を見てごらん」


 ナタリーは、アルに言われた通りに天井を見上げると、そこには下弦の月と満天の星空が広がっていた。


「・・・綺麗」


 ナタリーは、ロマンチックなムードにウットリとしながら、アルの隣に座る。  


 ナタリーが座った瞬間、アルのお腹が空腹で鳴り、二人は顔を見合わせる。


 ナタリーは、口元に手を当ててクスクスと笑いながら、アルに告げる。


「アル、お腹空いてたの?」


 アルは照れ臭そうに答える。


「そう言えば、朝から戦闘続きで今日は何も食べてなかったな」


「パンとソーセージがあるわ。食事にしましょ」


 そう言うとナタリーは、カバンからパンとソーセージを取り出してアルに渡す。

 

「ありがとう」


 アルとナタリーは、パンとソーセージを食べ始める。


 アルは口を開く。


「ナタリーって、常にオレの分の食べ物も用意してあるの?」


「うん。だって、私がお腹空くときは、アルもお腹が空いているんじゃないかって思うから」


 アルは、傍らでパンとソーセージを頬張るナタリーを見詰める。


 アルにとって、ナタリーは常に自分の身の回りの事を気に掛けてくれる可愛い彼女であった。


(・・・結婚するなら、ナタリーしかいないよな) 





 食事を終えたナタリーは、ロイヤルスイートの他の部屋を見て回る。


 ロイヤルスイートには、アルと二人でいるリビングの他に、豪華で広い浴室と寝室があり、その他に使用人達用の控室や浴室、寝室まであった。


 ナタリーは浴室に入ると、大きなバスタブにお湯を張りながら、設備や備え付けの棚の中の備品を確認する。


 注意書きなどはエルフ語で書かれていたが、ナタリーは読解することができた。


(えっと、これがお湯で、こっちが水ね。そして・・・ふふ。全部揃ってる)


 ナタリーは浴槽にお湯を張るとリビングに戻ってアルに告げる。


「アル。お風呂の準備が出来たから、先に入っちゃって」


「ああ」


 アルは服を脱いで裸になると浴室に入り、お湯で身体を流すと、お湯が張られた大きなバスタブに浸かる。


(随分デカいな。このバスタブ。・・・三人くらい入っても大丈夫なくらい広い。食人鬼(オーガ)でも入れそうだ)


 アルがバスタブに浸かって寛いでいると、髪を結い上げて裸になったナタリーが浴室に入って来る。


「ナタリー!?」


 驚くアルに、ナタリーは悪戯っぽく微笑む。


「そんなに驚かなくても良いじゃない? 裸を見るのも、一緒に入るのも、初めてじゃないんだし」


「それは、そうだけど・・・」


 ナタリーはお湯で身体を流すとアルと一緒にバスタブに浸かり、アルの両足の間に座って、その胸に寄り掛かる。


 小柄なナタリーの身体は、バスタブに座るアルの両足の間にすっぱりと納まる。



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