第三百十七話 空中都市での一夜(一)
アレク達の元にヒナから停戦の話が連絡される。
アレクは呟く。
「終わったんだな」
傍らのルイーゼは答える。
「そうね」
ドミトリーは口を開く。
「隊長、『別命あるまで待機』だそうだ。明朝まで軍に動きは無いだろう。拙僧とトゥルムで歩哨に立つから、他の者は休むと良い」
「済まない」
アレクとルイーゼは、ランタンを手に休憩できる場所を探し始める。
アレクは、ナディアが言っていた家具店の事を思い出す。
「ルイーゼ、こっちへ」
アレクはルイーゼの手を引いて、家具店の中に入る。
無人の家具店は四階建ての建物で、富裕層向けの豪華な調度品を集めて展示していた。
ルイーゼは口を開く。
「豪華な家具ね。お金持ちの人達向けみたい」
アレクは答える。
「富裕層向けか」
暗い店内をランタンを手に、二人は中へ入り階段を登って行く。
最上階へ出た二人は、息を飲む。
家具店の最上階は、展望台のように壁面と天井がガラス張りでできており、満天の星空と空中都市の周囲の風景を見ることが出来た。
部屋にはモデルルームのように豪華な調度品が並ぶ。
さえぎる物の無い、空の上にある空中都市イル・ラヴァーリからの展望は、格別であった。
アレクがランタンの明かりを消してテーブルの上に置くと、下弦の月が照らし出す、はるか遠くの海に港町の明かりと漁火が見える。
ルイーゼは、満天の星空と空中都市からの眺望を見回しながら呟く。
「綺麗・・・」
アレクも口を開く。
「凄い・・・まるで夜空を飛んでいるみたいだ」
ルイーゼは悪戯っぽく笑う。
「ふふ。そうね」
アレクは、豪華なベッドに腰掛けると話し始める。
「皇宮にいた頃。・・・『翼があれば空を飛んで、どこか遠くに行けるのに』とよく思ったよ」
ルイーゼは、隣に座って答える。
「飛空艇があるじゃない。どこへでも飛んで行けるわ」
アレクは、ベッドに寝転がると、満天の星空を見上げる。
「そうだな・・・どこか遠くへ。御爺様のいるルードシュタットに・・・」
そう呟くと、アレクは満天の星空に向けて手を伸ばす。
ルイーゼもアレクの隣に寝て、添い寝する。
「アレク。その時は、私も一緒よ」
「そうだな」
ルイーゼはそう呟くと、覆い被さるようにアレクの上に乗り、キスする。
「んんっ・・・」
二人だけの空間に、音も無く星の光が降り注ぐ。
ルイーゼは、アレクの胸の上でそのエメラルドの瞳を見詰めながら呟く。
「静かね」
「ああ」
ルイーゼは、アレクに尋ねる。
「アレク」
「ん?」
「もし、世界に残っている人間が私達二人だけになったら、どうする?」
「二人だけの世界か・・・」
アレクは、少し考える素振りをみせる。
「その時は・・・」
ルイーゼの瞳は、アレクの答えを伺うように見詰める。
「その時は?」
アレクは、自分の上で瞳を見詰めるルイーゼに答える。
「ルイーゼと子作りに励む」
ルイーゼは、甘えるような声で抗議する。
「ああん、もぅ・・・。エッチなんだから!」
「世界に二人だけじゃ、寂しいだろう? だから、たくさんオレ達の子供を作れば、賑やかになるだろう」
ルイーゼは、微笑みながら続ける。
「もぅ・・・何人産ませるつもり?」
アレクは、ルイーゼを撫でながら続ける。
「ルイーゼなら十人以上、産めるさ。 ・・・なんたって、オレは十五人兄弟だからな」
アレクは、ルイーゼの瞳を見詰める。
「ルイーゼ。愛してる」
そう告げるとアレクはルイーゼと体勢を入れ替えて上に乗り、両腕で抱き締めてキスする。
「んんっ・・・ふっ・・・」
アレクはルイーゼを抱く。
下弦の月の明かりがベッドを照らす中、二人はキスして眠りに就いた。




