第三百八話 ブラックサレナ団、ギリアム・ローズ
--空中都市イル・ラヴァーリ 自治庁
アノーテ・デ・ザンテかいる首相執務室にヴェネト共和国軍の伝令が駆け込んでくる。
「閣下! 一大事です! 空中港が帝国軍に制圧されました!」
伝令から報告を受けたアノーテは驚く。
「何だと!? 守備隊は? 設置した砲台は何をしていた??」
アノーテからの問いに伝令は答える。
「帝国軍の攻撃により、砲台は全滅。守備隊は壊走しました」
伝令から報告を受けたアノーテは、少し考える素振りを見せるが、直ぐに伝令に指示を出す。
「傭兵たちの出番だ。ギリアム・ローズに伝えろ! 『ブラックサレナ団は空中港に向かい、帝国軍を迎撃せよ!』と!」
「畏まりました」
伝令は、アノーテからの命令をブラックサレナ団に伝えるべく、首相執務室を後にする。
ヴェネト共和国軍飛行艦隊『東方不敗』の二人の女騎士アーベントロートとルパは、空中港にたどり着く。
二人は、アレク達、帝国軍が空中港に展開している様子を目の当たりにする。
アーベントロートは抜刀して構えると、傍らのルパに話し掛ける。
「ルパ、マズいぞ! もう帝国軍が上陸している!」
ルパも抜刀して構える。
「敵は大隊規模だ! 二人じゃ無理だよ!? アーベン!」
アーベントロートは辺りを見回す。
「守備隊は!? ヴェネト軍はどこだ?」
二人は足を止め、周囲の様子を伺う。
アーベントロートとルパの二人がヴェネト軍の守備隊を探して周囲を見回していると、ブラックサレナ団が空中港にやって来る。
ブラックサレナ団の先頭の男は、中肉中背の金髪で爆発したような髪型をしており、南方地域の辺境の蛮族の衣装であろう大きな鳥の羽を合わせて作った飾りを胸から下げ、動物の皮を繋ぎ合わせて作った腰布を巻いて、背中に剣を背負っていた。
ブラックサレナ団の団長ギリアム・ローズであった。
ギリアム・ローズは、東方不敗の二人に目を留めると、見下した口調で二人に告げる。
「なんだ? 東方不敗か。 ・・・女二人で騎士の真似事かよ? 邪魔だ! 失せろ!」
「なんだと!?」
侮辱されたアーベントロートがギリアム・ローズに向けて剣を構えると、ルパはアーベントロートを制止する。
「落ち着いて!」
ギリアム・ローズは、東方不敗の二人に悪態を突くと、手下に指示を出す。
「フン! 女は黙って見ているが良い。・・・お前達、大通りに檻を並べろ!」
指示を受けたブラックサレナ団の者達は、空中港に繋がる大通りに鉄の檻を並べていく。
アーベントロートはルパに尋ねる。
「なんだ? あの鉄の檻は?」
ルパも疑問を口にする。
「あいつら、何をするつもりだ?」
鉄の檻には、武器を持った怪しげな男達が押し込められていた。
鉄の檻を大通りに並べ終えたブラックサレナ団の者達は、ギリアム・ローズに報告する。
「並べ終えました」
ギリアム・ローズは、空中港を指差しながらブラックサレナ団の者達に号令を掛ける。
「狂戦士、放て!!」
号令によって並べられた鉄の檻が開かれると、武器を持った男達は一斉にアレク達のいる空中港を目指して奇声を上げながら走り出していく。
「ヒャヒャヒャヒャ!!」
「シャアアアア!!」
ジカイラ、ヒナ、そして他の小隊と合流したアレク達は、空中港から街へと繋がる大通りに向けて歩みを進めていた。
アレク達の前に、奇声を上げながら走って迫り来る男達の集団が現れる。
斥候スキルを持つルイーゼは男達の接近に気が付き、大通りの先を指差しながら叫ぶ。
「アレク! 敵が来るわ!」
アレクは号令を掛ける。
「Gesellschaft、Ausrichtung!!」
(中隊、整列!!)
アレクの号令でユニコーン、グリフォン、フェンリル、セイレーンの四個小隊は、前列と後列に分かれ、陣形を整えて整列する。
アレクは、再び大声で全員に指示を出す。
「Präsentiert das Gewehr! Rückzugsschwert!!」
(構え! 抜剣!!)
四個小隊が迫り来る男達に向けて戦闘態勢を取ると、ジカイラは一人で陣形の前に出る。
ジカイラはアレク達に告げる。
「先陣はオレに任せろ!」
ジカイラは、斧槍を大きく振りかぶると深く息を吸い、水平に構えて腰を落とす。
ジカイラは、奇声を上げながら走って迫り来る男達の先頭の者に渾身の一撃を放つ。
(いくぜ! 一の旋!!)
ジカイラの豪腕から放たれた斧槍の斬撃が先頭の男を捕らえ、斧槍の刃の部分に当たった先頭の男は真っ二つになる。
ジカイラは、大きく踏み込むと第二撃を放つ。
(二の旋!!)
斧槍の矛先が『燕返し』のように同じ軌跡で戻ってきて、二人目の男の首を斬り飛ばす。
ジカイラは、更に踏み込むと第三撃を放つ。
(三の旋!!)
大きく振りかぶって振り下ろされた斧槍の斬撃が三人目の男の肩口から胴体を切り裂く。
(チッ!!)
ジカイラは、斧槍の刃先が食い込んだ三人目の男の死体を蹴り倒して斧槍を引き抜く。
アレク達は、ジカイラの前まで前進して位置取りすると、並んで大盾を構え、ジカイラを前列の後ろに囲う。
迫って来た男達は、整列したアレク達が構える大盾の列に激突する。
「ヒャヒャヒャヒャ!!」
「シャアアアア!!」
鈍い金属音と共に衝撃がアレク達に伝わる。
アルは、軽口を叩きながら大盾でぶつかって来た男達を押し返す。
「おおっと!? コイツら、何の躊躇もなく、勢い良くぶつかってきたが、痛くないのか?」
アルの隣でトゥルムも踏ん張りながら、ぶつかって来た男達を大盾で押し返す。
「むぅううん!!」
エルザも文句を言いながら、ぶつかって来た男達を大盾で押し返していた。
「ちょっと! 何なの? こいつら!? おかしいんじゃないの?」