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第二百九十一話 士官学校、入学式(三)

 今年のミネルバ達の『ペア決め』は、従来のものと様変わりする。


 男子生徒が女子生徒にペアを申し込む時には、騎士典礼による作法を取るようになっていた。


 士官学校側で決めたペア申し込みの作法や規則は無いものの、新入生達はこぞって『アレクにあやかろう』と、アレクがルイーゼにペアを申し込んだ時の騎士典礼の作法を真似し始めたためであった。


 生徒同士による、まるで『プロポーズ』のようなペア申し込みに、講堂にはペア申し込みが成功した時の学生達の歓声や、ペア申し込みが失敗した時の笑い声などが、あちこちに響いていた。


 士官学校側も、学生達が騎士典礼を学んで身に付ける良い機会だとして、学生達による騎士典礼の作法に基づいたペア申し込みを追認していた。


 当のアレクは、父ラインハルトが母ナナイにペアを申し込んだ時の様子を聞いていて、両親の真似をしたのだが、自分のペア申し込みの作法が新入生達に真似されているとは、知る由も無かった。





 入学式を終えたジークは三人の妃を伴い、士官学校内を散策する。


 アストリッドは、廊下を歩きながら傍らのジークに語り掛ける。


「懐かしいですね」


「そうだな」


 ジークと一緒に士官学校にいたアストリッドは、久しぶりに訪れる母校の様子を感慨深げに眺める。


 フェリシアとカリンは共に修道院育ちであり、学校に行った事が無いため、珍しそうにあちこちを見回していた。


 フェリシアはジークに尋ねる。


「ここでは、男性と女性が一緒に学んでいるのですか?」


「そうだ」


 カリンは遠慮がちにジークに尋ねる。


「その・・・この学校では、年頃の男性と女性が、同じ部屋で寝食を共にするのですか?]


「寮だと、そうなるな」


 士官学校が『男女共学』という事を知り二人とも驚いていたが、『寮は、男女で相部屋になる事もある』と知り、更に驚いていた。





 ジークが三人の妃達と廊下を歩いていると、廊下の中央でジークに対して最敬礼をしたまま、四人が来るのを待っている者が居た。


 オカッパ頭、瓶底眼鏡(びんぞこめがね)、出っ歯で小柄のネズミのような、神経質そうな小男。


 キャスパー・ヨーイチ三世であった。


 キャスパーは、ジークに告げる。


「ご無沙汰しております、皇太子殿下! 我こそは誇り高き帝国貴族! ヨーイチ男爵家の跡取りであるキャスパー・ヨーイチ三世! 殿下がおいでになる事を聞き、馳せ参じました! つきましては、この私が御案内申し上げます!」


 仰々しく現れたキャスパーに、苦々しくジークは告げる。


「・・・好きにしろ」


「ははっ!!」


 キャスパーは、大喜びでジーク達を先導し始め、フェリシアやカリンに士官学校の施設などについて大声で説明し始める。




 ジークはしゃしゃり出てきたキャスパーを苦々しく思っていたが、妃達に自分で説明しなくてもよくなったため、キャスパーの好きにさせていた。


 一方のキャスパーは、得意の絶頂であった。


 すれ違う学生達は、誰もが廊下の端に身を寄せ、最敬礼を取る。


 学生達は、皇太子であるジークに対して最敬礼を取っていたのだが、先導するキャスパーは、自分が偉くなったような気分になっていた。




 ジーク達は、アレク達の教室の前に通り掛る。


 ジークは教室の中を覗きこむと、奥の窓際にアレクの姿を見つけ、無言で教室の中に入っていく。 


 無言で教室の中に入っていくジークにキャスパーは驚いて声を掛ける。


「皇太子殿下!? どこへ?」


 教室に突然現れた皇太子に、アレク達の教室は騒然となる。


「殿下!?」


「殿下だ!」


「皇太子殿下だ!」


 窓から外の景色を眺めていたアレクは、最初、ジークが教室に入ってきた事に気付かなかったが、教室の中が騒がしくなったため、後ろを振り返り、ジークが教室に来たことに気付く。


 ジークは、窓際のアレクの傍まで歩いて行く。


 アレクは、無言でジークに最敬礼を取る。


 ジークは、アレクの傍まで来ると、無言で最敬礼を取るアレクに微笑みながら穏やかに声を掛ける。


「大尉。ホラントでの活躍は聞き及んでいる。御苦労だった。しばらく帝国本土でゆっくり休むと良い」


「ありがとうございます」


 ジークはアレクに声を掛けると、妃達の待つ廊下に戻って行った。




 ジークが教室から去ると、アレクの元に級友たちが集まって来て、次々に口を開く。


「スゲェな、アレク! やっぱり上級騎士(パラディン)ともなると、皇太子殿下から声が掛かるようになるのか!?」


 周囲からの羨望の声と熱い視線に『自分は帝国第二皇子で、皇太子とは兄弟です』と言えないアレクは、苦笑いしながら答える。


「いや、それほどでも・・・」




 ジーク達が廊下を歩いていると、職業(クラス)選定とペア決めを終えたミネルバ達、新入生が講堂から校舎に戻って来る。


「皇太子殿下!?」


「殿下だ!」


 新入生達は、それぞれ廊下の端に身を寄せると、ジークに向けて最敬礼を取る。


 ミネルバとランスロットも他の新入生達に倣い、廊下の端に身を寄せて最敬礼を取る。


 ジークは新入生達の中にミネルバを見つけると、ミネルバの前で立ち止まって口を開く。


「この者と話がしたい。他の者は、外してくれ」


 アストリッドは、ジークに答える。


「先に貴賓室に戻っています」


「そうしてくれ」


 ミネルバの周囲から潮が引くように新入生達が去っていく。


 ランスロットは、一人残ってミネルバを気遣う。


「一人で、大丈夫?」


「大丈夫。心配しないで。先に教室に戻っていて」


 ランスロットは、ミネルバの笑顔での答えを聞いて教室へと戻っていく。




 ミネルバは、廊下にジークと二人きりであることを確認して最敬礼を止めて立ち上がると、腰の後ろで軽く手を組んでジークと向き合う。


 ジークは口を開く。


「久しぶりだな。ミネルバ」


 愛する長兄ジークに声を掛けられ、ミネルバは長身のジークを見上げるように上目遣いで照れながら答える。


「ジーク兄様」


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