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第二百八十八話 昨今の世界情勢

 士官学校の午後の授業も終わり、終業の時間になる。


 担任のジカイラは、教室で生徒達に告げる。


「明日は、新入生達の入学式がある。多忙な皇帝陛下の代理として、皇太子殿下が訓示されるとの事だ。皆、失礼の無いように。以上!」


 ジカイラの話しを聞いたアレクは、考える。


(トラキアから兄上が来るのか・・・)


 アレクの兄ジークは、皇太子として、皇帝ラインハルトの右腕として、新たに帝国領となったトラキアの開拓事業に取り組んでいた。





 ジカイラからの連絡も終わり、アレク達は寮に帰るため、教室を後にする。


 帰りの道中、蜥蜴人(リザードマン)のトゥルムとドワーフのドミトリーは、アレク達の最後尾を歩いていた。


 ドミトリーは、トゥルムにそっと耳打ちする。


「トゥルム。隊長の妹を見たか?」


「ああ。見たぞ。・・・それが、何か?」


「隊長の妹の、あの顔立ちといい、あの歩き方といい、あの手といい、間違い無くかなり上流の貴族子女だ」


 トゥルムは、怪訝な顔でドミトリーに尋ねる。


「歩き方や手を見たら、身分が判るのか?」


 ドミトリーは、真剣な顔で説明する。


「うむ。・・・顎を引き、背筋と膝を伸ばして、つま先から歩く。・・・普段はドレスを着ていて、かかとの高い靴を履いているから、ああいう歩き方になるのだ。あれは貴族子女の歩き方だ。それに・・・」


「それに?」


「あの手だ。・・・労働というものをしたことの無い、細く長い指と綺麗な手だった。・・・間違い無い。隊長の妹は、かなり上流の貴族子女だ」


 トゥルムは、納得しつつも、理解できないといった感じでドミトリーに尋ねる。


「なるほど・・・。しかし、その『かなり上流の貴族子女』が、なぜ、士官学校の平民組に居るのだ?」


 トゥルムからの問いにドミトリーも首を傾げる。


「隊長とルイーゼの二人だけなら、上流貴族の駆け落ちではないかとも思ったのだが。隊長の妹まで平民組となると・・・、拙僧も理由が思いつかん」


「ふむ。・・・判らない。謎だな」


「うむ。・・・拙僧にも判らない。謎だ」


 トゥルムとドミトリーの二人の意見が一致したところで、アレク達は寮に到着した。



 




-- バレンシュテット帝国軍 総旗艦ニーベルンゲン


 純白の巨大な飛行戦艦が帝国本土とトラキアを隔てる山脈の上空を西へと進む。


 周辺諸国から『白い死神』と呼ばれるバレンシュテット帝国軍の総旗艦ニーベルンゲンであった。 


 父である皇帝ラインハルトから士官学校の入学式で皇帝の代理で訓示するように命じられたジークは、三人の妃を伴ってニーベルンゲンに乗り、トラキアから帝国本土を目指していた。


 艦橋で艦長のアルケット大佐はジークに報告する。


「殿下。間もなく帝国本土に入ります」


「ふふ。了解だ」


 ジークは、上機嫌でアルケット大佐からの報告に答える。


 ジークの傍らのアストリッドは、ジークの機嫌が良い事に気が付いて尋ねる。


「ジーク様。何か良い事でもあったのですか?」


「んん? 士官学校での訓示という仕事が良いタイミングで来たと思ってな」


「タイミングですか?」


「そうだ。・・・トラキア鉄道建設の件で、ヒマジン伯爵領の州都トゥエルブベルクに出向いてヒマジン伯爵と打ち合わせする必要があったのだ。トラキア鉄道の起点はトゥエルブベルクだからな。それに、フェリシア水道やトラキア鉄道の建設予算について、帝都の父上に御決裁を頂かねばならない。・・・幸い、どちらも通り道だ」


「そうなのですか」


「うむ。仕事が済んだら、キズナに立ち寄って、ソフィアの見舞いに行くつもりだ」


 ジークの正妃ソフィアは、ジークの子を妊娠して静養のため実家であるゲキックス伯爵領の州都キズナに帰っていた。






--帝都ハーヴェルベルク 皇宮 貴賓室


 皇帝ラインハルトと帝国四魔将は、皇宮に居た。


 ラインハルトを上座に、その左右に帝国四魔将が長テーブルを囲んで席に並ぶ。


 ラインハルトは口を開く。


「帝国を取り巻く昨今の国際情勢を踏まえ、帝国の方針について皆と情報を共有したいと思う。ナナシ伯爵、カスパニアの属領ホラントの独立戦争について報告して欲しい」


 ナナシは答える。


「了解した」


 ナナシは、ジカイラ率いる教導大隊の活躍によってホラントでの独立戦争勃発に成功した事について説明する。


 ナナシが説明を終えると、ヒマジンは口を開く。


「なるほどな。オレはてっきり、しばらく教導大隊がホラントに駐在して、王国独立まで支援し続けるものだと思っていたぞ」


 ナナシは答える。


「ダークエルフの集団が州都ライン・マース・スヘルデに現れ、第二皇子の部隊と交戦した。・・・状況が変わったのだ。教導大隊のホラントからの早期撤退は、やむを得ない。帝国としては、カスパニアの力が削げれば良いだろう」


 ラインハルトは驚く。


「ほう? アレクの部隊がダークエルフと戦ったのか?」


 ナナシは答える。


「・・・左様。陛下の御子息に万が一があってはなりません。教導大隊に撤退を命じました」


 エリシスは口を開く。


「昨今の世界情勢として、アスカニアからバレンシュテット帝国を除いた、上位から六つの強国が二つの陣営に別れて世界各地で戦争している。世界大戦の戦況は一進一退。・・・西方協商の列強は、カスパニア王国、ヴェネト共和国、ナヴァール王国。北部同盟の列強は、スベリエ王国、グレース王国、ソユット帝国。・・・列強六か国を全て合わせても、総兵力は七~八十万。兵力百万を誇るバレンシュテット帝国には及ばない。・・・けど、戦力が未知数の『ダークエルフの出現』は、想定外ね」


 アキックスは口を開く。


「もしかしたら、ダークエルフは、偶然、第二皇子の部隊と居合わせただけかもしれん。まず、ダークエルフの集団がホラントの州都ライン・マース・スヘルデを拠点にしているのかどうか確証を掴む必要がある。・・・我らがバレンシュテット帝国がダークエルフ討伐のため、百万の軍勢を動員してホラントの州都に侵攻したとして、『もぬけの殻でした』では、帝国は世界中の笑い者だ」


 ラインハルトは告げる。


「アキックス伯爵の言うとおりだ。ホラントの州都にダークエルフの拠点があるかについては、情報部に調査させよう。軍を動員するのは、詳細が判ってからでも遅くは無い」


「御意」


 皇帝ラインハルトと帝国四魔将の会議でダークエルフに対する帝国の方針が決められた。



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