第二百七十八話 死闘!属州総督府(四)
「ウォオオオオ!!」
アレクとシグマは激しい剣戟を繰り広げ続ける。
アレクは近接戦最強の職業である上級騎士であったが、父ラインハルトや兄ジークに比べてまだ経験が浅く、彼らのようにシグマを圧倒できる技量には至っていなかった。
シグマは、アレクの事を中堅職の騎士にしか見ていなかったため、予想外の抵抗に驚く。
「ほう? なかなかの剣の腕だ。・・・ならば、これはどうだ!」
シグマは、後ろへ飛び退いてアレクから距離を取ると、アレクに向けて手をかざして魔法を唱える。
「呪いの雷撃!!」
シグマのかざした手の先から雷撃が現れ、アレクに向かって放たれる。
アレクはシグマが放った魔法に対して、思わず手にしている長剣ゾーリンゲン・ツヴァイハンダーで受ける。
アレクの持つ長剣ゾーリンゲン・ツヴァイハンダーは、込められた魔力による青白い輝きを増すと、シグマが放つ魔法の雷撃を吸い寄せるように集め、青白い光を放つ魔力の鱗粉に変えて空中に霧散させていく。
アレクは、自分の持つ長剣ゾーリンゲン・ツヴァイハンダーの能力に改めて驚く。
「これは・・・!?」
シグマは、アレクが自分が放つ魔法に向けてかざすゾーリンゲン・ツヴァイハンダーに目を見張る。
「闇属性魔法に対する防御能力!? まさか! 古代に造られた聖剣か!? ・・・小僧! その長剣をどこで手に入れた??」
ルイーゼは従者との間合いを更に詰め、至近距離での格闘戦に持ち込み、連続攻撃を続ける。
右、左、右と両手に装備した鉤爪での攻撃に加え、蹴りや肘での攻撃も織り交ぜる。
「くっ!!」
従者が至近距離に迫るルイーゼから距離を取ろうと後ろへ飛び退くと、ルイーゼは距離を取らせまいと再び従者に詰め寄る。
至近距離のため、レイピアも魔法も使えず、防戦一方になった従者の顔が引きつる。
「女! マスタークラスの暗殺者か!? ・・・まさか、それ以上!?」
アレク達ユニコーン小隊とシグマ達ダークエルフの戦闘は、序盤こそ互角の戦いに持ち込むことができた。
しかし、ダークエルフのシグマ達と互角に戦えているのは、上級騎士のアレクと忍者のルイーゼの上級職二人だけであり、次第にアレク達は押されてくる。
アルは、フィリーナに向けて斧槍を右から左へ水平に振るう。
フィリーナは、薄ら笑みを浮かべながら、大きく上体を後ろに反らしてアルの斧槍による攻撃をかわす。
「くそっ!!」
再びアルは、斧槍を左から右へ振るうが、フィリーナは薄ら笑みを浮かべたまま、アルの攻撃を避ける。
「鈍い! 鈍い! ・・・避けてみな!!」
フィリーナのレイピアによる刺突がアルの左肩を狙う。
鋭いレイピアの切先がアルの胸当てと鎖帷子の継ぎ目を貫く。
「ぐうっ! ・・・クソがぁ!!」
アルは、斧槍を手放すと右手で腰の鞘から海賊剣を抜き、フィリーナに向けて斬り払うが、フィリーナは後ろに飛び退いてアルの海賊剣の攻撃を避ける。
フィリーナは、薄ら笑みを浮かべたままアルに告げる。
「シグマ様が苦戦したという『黒い剣士』。お前はその息子らしいが、大したことは無いな」
アルは出血する左肩の怪我をそのままに、余裕の薄ら笑みを見せるダークエルフの女騎士フィリーナに向けて海賊剣を構える。
(・・・手強い! 父さんが苦戦したと言っていただけはある!!)
ダークエルフには、アルだけではなく、トゥルムも苦戦していた。
「ふんっ!」
トゥルムはガルティエに向けて三叉槍の突きを放つが、ガルティエもフィリーナ同様に薄ら笑みを浮かべながら、屈んで突きを避ける。
「おぉおおおお!!」
雄叫びと共にトゥルムはガルティエに向けて三叉槍を水平に払う。
しかし、ガルティエは飛び跳ねて三叉槍の払いを避けると、トゥルムの両足に向けて二本のダガーを投擲する。
ガルティエが放った二本のダガーは、装甲の無いトゥルムの左右の太腿に深々と突き刺さる。
「ぐぁあああ!!」
両足の太腿を貫かれたトゥルムは、激痛に叫びながら両膝を地面に付くと、堪え切れず両手を地面に着いて四つん這いになる。
ガルティエは、余裕の薄ら笑みを見せながら、トゥルムの頭を足で踏み付ける。
「フフフ。蜥蜴らしく、地面を這いずり回ってな!」
「トゥルム!!」
トゥルムの危機を見たナタリーはガルティエに向けて手をかざし、魔法を唱える。
(あいつ、トゥルムに近過ぎる! 強い魔法は使えない!!)
「火炎球!!」
ナタリーのかざした手のひらの先に魔法陣が現れ、炎の玉がガルティエに向けて飛んで行く。
ガルティエは、大きく飛び退いてナタリーの魔法を避けると、頭を踏み付けていたトゥルムを放置してナタリーに狙いを定め、駆け寄ってくる。
「さっきから邪魔だ! 女!!」
ガルティエは、レイピアでナタリーを斬り付ける。
「きゃぁああ!!」
「ナタリー!!」
アルは、ガルティエとナタリーの間に飛び込むと右腕でナタリーを胸に抱き抱え、ガルティエの斬撃を背中に受ける。
「ぐうっ!!」
ナタリーを胸に抱き抱えるアルの背中に鈍い衝撃が伝わる。
ガルティエはレイピアでアルの背中を斬り付けたが、アルは背中に大楯を背負っていたため、無傷であった。
「アル!? ナタリー!!」
ナディアは、二人に襲い掛かるガルティエに向け、手をかざして召喚魔法を唱える。
「戦乙女の戦槍!!」
ナディアのかざした手の先に三つの光の玉が現れると、それらは三本の光の矢に形を変えてガルティエに向けて飛んで行く。
「魔力魔法盾」
ガルティエの前に魔力の障壁が現れ、ナディアの召喚魔法を防ぐ。
ガルティエに注意を向けたナディアに従者が襲い掛かる。
「貴様! どこを見ている?」
ナディアは従者のレイピアの一撃を自分のレイピアで受け止めるが、従者の蹴りの一撃を腹に受ける。
「ぐうっ!!」
エルザと従者は剣戟を続けていた。
「獣人にしてはやる。・・・これはどうだ!?」
従者は後ろへ飛び退いてエルザと距離を取ると、手をかざして魔法を唱える。
「呪いの雷撃!!」
従者のかざした手の先から雷撃が現れ、エルザに向かって放たれる。
「きゃぁああ!!」
ダークエルフの魔法の雷撃を受けたエルザは、その場で剣を杖代わりに片膝を着く。
エルザは片膝を着いたまま、ダークエルフの従者を睨み付ける。
「こんな雷撃でエルザちゃんは、やられたりしないんだから!!」
ドミトリーは、再び負傷したトゥルムとアルに回復魔法を掛ける。
「治癒!」
小隊の仲間たちの苦戦を見て取ったドミトリーはアレクに向かって叫ぶ。
「隊長! 相手が悪すぎる! ここは退こう!!」
アレクは叫ぶ。
「みんな! 退却だ! 撤退するぞ!!」
アレク達は、小隊の陣形を立て直すと退却し始める。




