第二百七十六話 死闘!属州総督府(二)
ドミトリーは前衛メンバーに支援魔法を掛ける。
「筋力強化! 装甲強化!!」
ナタリーも自分に強化魔法を掛ける。
「詠唱加速!!」
「魔力魔法盾!!」
食人鬼は、駆け寄って来るアレクを殴ろうと、右手に持つ棍棒を大きく振り上げる。
アレクは、棍棒を振り上げる食人鬼を一瞥する。
(・・・鈍い。当たらなければ、どうという事はない)
近接戦最強職である上級騎士になったアレクは、近接戦闘に自信を付けていた。
食人鬼は、力任せにアレクに向けて棍棒を振り下ろすが、アレクは食人鬼の攻撃を見切り、棍棒の一撃を避けて食人鬼の懐に踏み込んでいく。
アレクは食人鬼の脇を駆け抜けながら、低く構えた長剣を水平に払い、食人鬼の右脇腹を斬り付ける。
魔力を帯びたアレクの長剣ツヴァイ・ハンダーは、食人鬼の分厚い筋肉を容易く切り裂いていく。
「ガァアアア!!」
右脇腹を切り裂かれた食人鬼は叫び声を上げ、自分の脇を駆け抜けたアレクの姿を目線で追う。
次の瞬間、アレクの影で潜伏スキルによって気配を殺していたルイーゼが食人鬼の懐に入りショートソードで食人鬼の頭を顎下から貫く。
顎下から頭部を貫いたショートソードの切先が食人鬼の頭頂部から突き出る。
ルイーゼは、絶命して崩れ落ちる食人鬼から離れると、ショートソードを構えながら再びアレクの元に寄り添う。
もう一体の食人鬼は、アル達の方へ迫ってくる。
「来やがれ!!」
アルとトゥルムは、各々、斧槍と三叉槍を構える。
アルの後ろに並ぶナタリーは、食人鬼の顔に向けて手をかざすと魔法を唱える。
「火炎爆裂!!」
ナタリーの掌の先に魔法陣が三つ現れると魔法陣の先に爆炎が現れ、食人鬼の頭部を爆炎が包む。
大きな爆発音と共に食人鬼の頭部が大炎上する。
「ガァアアアア!!」
食人鬼は悲鳴を上げると手にしていた棍棒を落とし、ナタリーの魔法で炎上している自分の顔と頭部を両手で覆う。
「ウォオオオ!!」
トゥルムは、咆哮を挙げながら三叉槍の鋭い突きを放ち、三叉槍の穂先が食人鬼の首元に深々と突き刺さる。
食人鬼は右腕を振り上げると、トゥルムを狙って横殴りに腕を振るう。
「くっ・・・!!」
トゥルムは、食人鬼の首元に突き刺した三叉槍から手を放して食人鬼の攻撃を避けるかどうか、一瞬、迷う。
「させるかぁ! おりゃあああああ!!」
次の瞬間、エルザが雄叫びと共に獣人の瞬発力を活かして食人鬼の右腕の下を駆け抜けながら、大上段に構えた両手剣で食人鬼の右腕の下側を斬り付ける。
エルザの両手剣が食人鬼の右腕の腱を切り裂き、その動きを止める。
食人鬼は、右腕の腱を斬られた激痛のあまり左手で顔を覆ったまま、前屈みになる。
「見てろよ? ナタリー」
アルはそう言うと、左手で兜の面頬を下ろして腰を落として深く息を吸い込み、貯めの姿勢を取る。
(的はデカい。ちょうど良い高さだ! いくぜ! 一の旋!!)
アルの渾身の力を込めた斧槍の一撃が剛腕から放たれる。
斧槍の刃は、食人鬼の頭を粉砕する。
食人鬼は絶命し、その場に崩れ落ちる。
食人鬼に止めを刺したアルがガッツポーズを決める。
「良し!」
ナタリーとエルザ、ナディアは、喝采を贈る。
「やったぁ!!」
アレク達は、二体の食人鬼を倒して盛り上がる。
「相変わらず、なかなか、やるじゃないか」
食人鬼の背後に居たカスパニア軍部隊の中央が左右に分かれると、ダークエルフ達がアレク達の前に現れる。
声の主は、ダークエルフの魔法騎士シグマ・アイゼナハトであった。
シグマと三人の従者、そしてフィリーナとガルティエの二人の女騎士が並ぶ。
「ダークエルフ!?」
シグマ達を見てアレク達は驚き、再び戦闘態勢を取る。
アレクは、シグマ達を睨み付けながらダークエルフ達を観察する。
(一人、二人、・・・六人も居る。・・・マズい。こいつらは手強い。今は、ジカイラ大佐もヒナ大尉もいない。兄上でも苦戦していた)
シグマもアレク達を観察する。
(・・・ハイエルフ!? ・・・『黒い剣士』!?)
シグマは、アレクの他にナディアとアルに目を止める。
シグマはナディアを見ながら口を開く。
「父祖の地を離れてアスカニア大陸に渡り、人間ごときと迎合した一族か」
ナディアは嫌味たっぷりにシグマに答える。
「人と交わり、共に暮らすのも悪くないわよ? 毎日、楽しいし。・・・もっとも、引きこもっている貴方達ダークエルフには、死んでも理解できないでしょうけど」
シグマは唾棄するようにナディアに告げる。
「ほざいてろ! ハイエルフ!!」
次にシグマは怪訝な顔をしながら、アルに話し掛ける。
「『黒い剣士』。・・・まるで瓜二つだが、本人か?」
シグマに父ジカイラと間違えられたアルは、仰々しく決めポーズを取ると名乗りを上げる。
「我こそは、『黒い剣士』こと帝国無宿人ジカイラが一子、アルフォンス・オブストラクト・ジカイラ・ジュニア! 覚えておけ!!」
シグマは、アルを睨みつけながら答える。
「貴様・・・、『黒い剣士』の息子か」
シグマは再びアレクを睨むと、右手の指先で顔の傷跡をなぞりながらアレクに告げる。
「小僧。この傷の借りは返させてもらう。・・・いくぞ!」
シグマの号令で、ダークエルフ達は一斉にアレク達に襲い掛かる。