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アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第十章 ホラント独立戦争

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第二百五十六話 御前会議

 ジカイラがフクロウ便で帝都の皇宮へ報告書を飛ばした一時間後、応接室のドアがノックされ、開かれる。


 聞き覚えのある声と共に現れたのは、ラインハルトであった。


「ここに居たのか」


 応接室にラインハルト以下、バレンシュテット帝国の首脳陣がゾロゾロと入ってくる。


 ジカイラは、突然、現れたラインハルトたちに驚いて、飲んでいたお茶を盛大に噴き出す。


「ブーッ! ラインハルト!? ・・・それにナナイ、ハリッシュ、クリシュナ、ジーク。・・・帝国四魔将の方々まで!?」


 ヒナやアレク達も現れた帝国首脳陣に驚く。


 ジカイラは戸惑いながらラインハルトに話し掛ける。


「フクロウ便を出して、僅か一時間で帝国の首脳陣を引き連れてここにやって来るって、対応が速過ぎないか?」


 ラインハルトは苦笑いしながら答える。


「たまたま皇宮で慶事があってな・・・。皆で集まって祝っていたんだ」


 ジカイラは怪訝な顔で聞き返す。


「慶事・・・?」


 ラインハルトは嬉しそうに答える。


「ソフィアが懐妊した。ジークの子だ。・・・私の孫だな」


 普段、殆んど表情の無いラインハルトが口元を綻ばせながら語る様子に、ジカイラも思わずニヤける。


「そりゃ、めでたい。お前も遂に『お爺ちゃん』って、事だな」


 ジカイラから『お爺ちゃん』と冷やかされても、ラインハルトはニヤけたまま答える。


「まぁな」


 ハリッシュは、ラインハルトとジカイラの会話を聞いて口を挟む。


「やれやれ。私達ユニコーン小隊の仲間も遂に『お爺ちゃん』と呼ばれるような歳になりましたか」


 ハリッシュの呟きにクリシュナは答える。


「アスカニアは、一世代が十五年なの。 ・・・私達も、そろそろナタリーが結婚して子供を産む事も考えなきゃね」


 ハリッシュは、眼鏡越しに遠い目をして答える。 


「私達も、もう、そんな歳なんですね。・・・早いものです」


 ナナイは、最敬礼を取るアレクとルイーゼを見てラインハルトの傍らで微笑む。


 終始ニヤけたままのラインハルトを見て、ジカイラは考える。


(寵愛している長男の子か。生まれてくるのは、直系の孫。『皇太孫』。帝室の世継ぎだ)


(ラインハルトの奴、『ツンデレ』というより、ニヤけて『デレデレ』じゃねぇか・・・)


(よっぽど嬉しいんだろうな・・・)


 親しく話すジカイラとラインハルトの二人を他所に、アレク達とホラント王国の使節団は、突然現れた皇帝ラインハルトに最敬礼を取る。




 最敬礼を取りながらアレクは考えていた。


(兄上に子供が出来た・・・)


 アレクは、無意識に傍らのルイーゼを見る。


(自分も父上からの懲罰が解けたら、ルイーゼと・・・)




 子供が出来て父親になるというのは、どういう心境なのだろうか。


 自分に子供が出来たら、両親は喜んでくれるだろうか。




 アレクがあれこれと考えていると、ラインハルトは口を開く。


「諸君。畏まらなくて良い、掛けてくれ」


 ラインハルトの言葉で一同は応接室の席に着く。




 士官学校の応接室に集まった帝国首脳陣にホラント王国の使節団リシー議長は、ホラント独立の重要性について熱弁を振るう。


 ひと通り演説を聞いてラインハルトはリシーに尋ねる。


「・・・なるほどな。今が『ホラント独立の好機』という事は、理解した。・・・それで、ホラント独立を支援した帝国にどのような利益があるのだ? 何か見返りがあるのか?」


 リシーは答える。


「ホラント独立の暁には、帝国と友好関係を保つことを約束致します。ホラントの独立によって、帝国は野心的な侵略国家である列強カスパニアと接する国境が無くなります。カスパニアの領土は、遥か南西の首都がある半島まで後退するため、帝国は安全保障上の脅威を排除できることでしょう」


 ラインハルトは続ける。


「ホラント独立後は、どうするつもりだ? 国民会議やリシー議長が国政を取り仕切るなら、共和制ではないのか? 合議制で物事への対応が遅く、政権が安定しない共和制国家が帝国の隣に出来るのは、好ましくないのだが」


 リシーは答える。


「ホラント王家の生き残りが居られます。今は、カスパニアに捕らわれておりますが、救出してホラント王位に就いて戴き、ホラントは立憲君主制の国に致します」


 ラインハルトは、リシーの説明をひと呼吸の間、考える。


(列強とはいっても、たかが兵力十万のカスパニアなど、取るに足らない。総兵力百万を誇る帝国の軍事力があれば、いつでも排除できる。だが、しかし・・・)


 そこまで考えたラインハルトは、応接室で末席に座っているアレクとルイーゼの二人をチラッと見る。


(アレク。・・・この一年で見違えるほど大人になった)


 ラインハルトは口を開く。


「判った。リシー議長。バレンシュテット帝国がホラント王国の独立を支援しよう」


 リシーは感激しながら答える。


「陛下! ありがとうございます!!」


 ラインハルトの目配せでナナイがホラント王国の使節団に退席を促す。


 ナナイは立ち上がると、ドアの方へ歩き口を開く。


「ホラント王国の皆さん。どうぞ、こちらへ」


 ナナイは、使節団の三人を別の部屋へと案内していく。




 応接室に残ったのは、帝国首脳陣とジカイラとヒナ、アレクとルイーゼであった。


 ラインハルトは口を開く。


「引き続き、御前会議とする。・・・皆、聞いての通りだ。帝国は、ホラント王国の独立を支援する。カスパニアから属州ホラントを切り取る事で、港湾自治都市群やゴズフレズ王国に対するカスパニアの脅威を排除する事が目的だ」


 使節団を別室に案内してきたナナイは応接室に戻って来る。


 ジークは、ラインハルトに尋ねる。


「父上。具体的にはどのように事を進めるおつもりで?」


 ラインハルトは、答える。

 

「帝国は対外的に中立宣言をしている以上、表立ってカスパニアの属州ホラントへの帝国軍による直接武力介入はしない。少数の精鋭部隊をホラントに潜入させてリシー議長の独立派を支援する。属州の内側からカスパニアの支配を覆すしかあるまい」


 ハリッシュは、ラインハルトに尋ねる。


「その任を誰に? ・・・殿下は、既に『トラキア開拓』の任務に就いておられますが」


 皇太子であるジークには、皇帝ラインハルトの右腕として、先のトラキア戦役で帝国が征服して併合した旧トラキア連邦領の開拓という任務が課せられていた。


 ラインハルトは、ジカイラの方を見て口を開く。


「ジカイラ大佐。教導大隊にホラント王国の独立支援の任に当たって貰いたい」


 ジカイラは、笑顔を見せると短く答える。


「判った。任せろ」


 ジカイラの快諾を聞いたラインハルトは、一瞬、アキックス伯爵を見るが、直ぐに目線を変え、ナナシ伯爵に目線を移して告げる。


「ナナシ伯爵。帝国西部方面軍にホラント独立の任に当たる教導大隊への支援と補給をお願いする」


 ナナシ伯爵は、一礼して答える。


「・・・承知した」


 ラインハルトは列席している者達に意見を求める。


「・・・帝国四魔将の意見は?」


 アキックスは答える。


「帝国の安全保障上の脅威は、取り除かねばならない。帝国北部方面軍と帝国竜騎兵団は待機しています。必要ならば、何時でも。ただ・・・」


 ラインハルトは繰り返す。


「ただ・・・?」


 アキックスは続ける。 


「ホラントに潜入する教導大隊への支援と補給は、西部方面軍よりも北部方面軍の方が距離的に近いのでは?」


 ラインハルトは答える。


「その心配は無用だ。アキックス伯爵には、別の任に就いて貰おうと考えている」


 アキックスは答える。


「承知致しました」


 ヒマジン伯爵は答える。


「オレもアキックスと同じ意見です。帝国東部方面軍と帝国機甲兵団は待機しています。必要ならば、何時でも。」


 エリシスは答える。


「私もホラントの独立に賛成。帝国南部方面軍と帝国不死兵団は待機しているわ。出る時は何時でも」


 ナナシは答える。


「私も異論は無い。ホラントに潜入する教導大隊への支援と補給は、私に任せて貰おう。帝国西部方面軍と帝国魔界兵団は待機している。必要とあらば、何時でも」


 ラインハルトは続ける。


「教導大隊の意見は?」


 ジカイラは答える。


「問題無い。学生達にとっても、実戦経験は重要だ」


 ヒナは答える。


「私も異論ありません」


 ラインハルトは続ける。


「最後になったが、皇妃。君の意見を聞かせて欲しい」


 ナナイは微笑みながら答える。


「陛下の御意志のままに」


 ラインハルトは締め括る。


「御前会議は満場一致だな。・・・教導大隊に命ずる。カスパニアの属州ホラントに潜入し、ホラント王国の独立を支援せよ」


 ジカイラは一礼して返事をする。


「了解致しました。陛下」


 ラインハルトは口を開く。


「では、我々は皇宮に帰るとしよう。エリシス、転移門(ゲート)を」


「承知しました」


 ラインハルト達、帝国首脳陣は、エリシスが作った転移門(ゲート)を通って、皇宮へ帰って行った。



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