第二百五十二話 中立宣言、空襲警報
アレク達が新聞の号外で世界大戦の勃発を知り、年越しパーティーを楽しんだ翌日。
バレンシュテット帝国は、皇帝ラインハルトの名前で、西方協商と北部同盟のどちらの陣営にも組しない中立を宣言する。
超大国であるバレンシュテット帝国が組した陣営が世界大戦に勝利する事が明らかであったため、各国はこぞってラインハルトに使者を送り、様々な条件を提示してバレンシュテット帝国を自分達の陣営に誘い、引き込もうとした。
しかし、ラインハルトは『併合したトラキアと新大陸植民地、獣人荒野の開拓』を理由に各国の陣営への誘いを全て断り、帝国の中立を宣言したのであった。
西方協商諸国も、北部同盟諸国も、兵力百万を擁する超大国バレンシュテット帝国には直接手は出せず、二つの陣営は、帝国の領土、領海、領空を避けて戦争を進めて行った。
バレンシュテット帝国の外では、二つの陣営の国々による戦争が拡大し、人々は戦火に追われ、貧困や疫病が蔓延する一方で、バレンシュテット帝国内は、平和と平穏な暮らしが続き、帝国の臣民は繁栄と豊かさを享受していた。
--中立宣言から三か月後。
バレンシュテット帝国には春の足音が聞こえ、冬休みを終えたアレク達は士官学校の二学年に進級する。
アレク達がトラキア戦役や北方動乱に従軍した期間は、軍事教練の実習の単位に置き換えられ、帝国騎士十字章とゴズフレズ戦士勲章を叙勲されたアレク達は、士官学校の成績優秀者に名を連ねた。
アレク達は、士官学校の教室で昼休みを過ごしていた。
椅子にもたれ掛かったアルが、アレクに向かって話し掛ける。
「・・・オレ達が二年生になるとはな。・・・時が経つのは早いなぁ~。アレク」
アレクは、椅子に座って苦笑いしながら答える。
「ウチの小隊は、みんな、無事に進級出来て良かったさ。・・・留年だけは、カッコ悪いから勘弁して欲しいな・・・」
アルもアレクの意見に同意する。
「それは同感だな・・・。もう少ししたら新入生も来るし、留年なんて馬鹿にされるだけだろ」
アレクとアルが教室でしみじみと語り合っていると、突然、けたたましい空襲警報が士官学校内に鳴り響く。
空襲警報を聞いた二人は、驚いて席を立つ。
アルは、口を開く。
「はぁ!? 空襲警報?」
アレクも口を開く。
「おいおい! ここは帝国本土だぞ?」
二人が驚いて立ち上がると小隊の女の子達四人が教室にやって来る。
ルイーゼは、二人に向けて叫ぶ。
「アレク! アル! 非常呼集よ! 戦闘装備で格納庫に集合!」
アレクは答える。
「判った! 直ぐ行く!!」
アレク達は、急いで装備を整えると格納庫へ走る。
格納庫では、ジカイラとヒナがアレク達学生が集まるのを待っていた。
学生達が集まったのを見計らってヒナが掲示板に地図を広げると、ジカイラは地図を指し示しながら口を開く。
「傾注! 本日未明、公海上を飛行中であった国籍不明の飛行船団八隻が突如、針路を変更して帝国領空を侵犯し始めた。・・・我々の任務は、この飛行船団の拿捕だ。飛行船団がこちらの警告に従わない場合は、撃沈して構わない。飛空艇で出撃する各小隊は、飛行船団と戦闘することも想定するように! 以上だ」
アレクは、自分達の飛空艇に向かいながら呟く。
「国籍不明の飛行船団って・・・!? 北部同盟か? それとも西方協商?」
アルは、アレクの隣を歩きながら軽口を叩く。
「全く! 飛行船で帝国の領空を侵犯するとか、どこの馬鹿だ!? 撃沈されたいのか!? 帝国は中立なんだぞ!!」
エルザは、後ろから二人に話し掛ける。
「撃沈覚悟で帝国の領空を侵犯とか。・・・それだけ必死なんでしょ?」
エルザにナディアも続く。
「なんで、そんなに必死なのかしら? 何か理由があるのかも?」
トゥルムは、周囲の話を聞いて呟く。
「必死で領空侵犯する理由か・・・」
トゥルムにドミトリーが続く。
「まさか! 政治亡命!? 祖国を追われ、帝国に逃げて来たのか?」
ルイーゼは、飛行船団が領空侵犯する理由をあれこれと想像して盛り上がる小隊の仲間達を諫める。
「今の時点で判っているのは、『国籍不明の飛行船が八隻、帝国の領空を侵犯している』ということだけよ。他に何も情報が無い以上、いろいろ憶測を並べてもしょうがないわ」
ナタリーもルイーゼに同意する。
「ルイーゼの言う通りね」
アレク達は、飛空艇に乗り込む。
<飛空艇>
ガンシップ「エインヘリアルⅡ」
カロネード砲 二門搭載
魔導発動機 二機搭載
複座式 戦闘爆撃機
小隊全員が飛空艇に乗り込んだ事を確認したアレクは、整備員に告げる。
「ユニコーン小隊、出撃します!!」
「了解!」
整備員は、同僚と共にアレク達が乗る四機の飛空艇を格納庫から滑走路のエプロンに押し出すと、同僚の整備員に向かって叫ぶ。
「ユニコーンが出る! 滑走路を開けろ!!」
程なく、アレク達が搭乗する四機の飛空艇は、エプロンから滑走路に出る。
アレクは、伝声管でルイーゼに告げる。
「行くよ。ルイーゼ」
「うん」
「発動機始動!」
アレクは、掛け声と共に魔導発動機の起動ボタンを押す。
魔導発動機の音が響く。
ルイーゼが続く。
「飛行前点検、開始!」
ルイーゼは掛け声の後、スイッチを操作して機能を確認する。
「発動機、航法計器、浮遊水晶、降着装置、昇降舵、全て異常無し!」
ルイーゼからの報告を受け、アレクは浮遊水晶に魔力を加えるバルブを開く。
「ユニコーン・リーダー、離陸!」
アレクの声の後、大きな団扇を扇いだような音と共に機体が浮かび上がる。
「発進!」
アレクは、クラッチをゆっくりと繋ぎ、スロットルを開ける。
プロペラの回転数が上がり、風切り音が大きくなると、アレクとルイーゼの乗る機体ユニコーン・リーダーは、加速しながら滑走路の上を進む。
やがて滑走路の終わりまでくると、二人の乗るユニコーン・リーダーは大空へと舞い上がった。
二人の乗るユニコーン・リーダーは士官学校の上を旋回して、小隊の仲間が離陸してくるのを待つ。
直ぐにアルとナタリーが乗るユニコーン二号機が滑走路を離陸し、上昇してくる。
続いて、ドミトリーとナディアが乗るユニコーン三号機とエルザとトゥルムが乗るユニコーン四号機が滑走路から離陸して上昇してくる。
アレク達に続き、グリフォン小隊、フェンリル小隊、セイレーン小隊も離陸してくる。
四機全てが揃ったユニコーン小隊は、領空侵犯している飛行船団との遭遇予定空域を目指して、編隊を組んで向かった。