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アスカニア大陸戦記 英雄の息子たち【R-15】  作者: StarFox
第九章 北方動乱

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第二百三十八話 退去勧告、カスパニア王太子捕縛

 スベリエ軍陣地の上空を超低空で威嚇飛行した帝国軍は、続いて、そのままカスパニア軍陣地と、ゴズフレズ南西部の都市リベの上空を超低空で威嚇飛行する。


 帝国軍の威嚇飛行により、スベリエ軍だけでなくカスパニア軍も同様に恐慌状態に陥り、混乱して右往左往する。


 威嚇飛行を終えた帝国軍は、スベリエ軍とカスパニア軍の陣地から二十キロ程の場所に大型輸送飛空艇を着陸させて地上軍を展開させていく。


 最初に地上に展開したのは、エリシス伯爵が率いる帝国不死兵団であった。


 動死体(ゾンビ)骸骨(スケルトン)(ドラゴン)動死体(ゾンビ)死の(デス・)騎士(ナイト)などの不死者(アンデッド)が帝国軍の警戒線を構築する。


 エリシスとリリーの二人は、大型輸送飛空艇から地上に降り立つ。


 エリシスは、お気に入りの真紅のイブニングドレスにヒョウ柄のコートを羽織り、肩には純白のショールを羽織っていた。


 リリーも同様に紫のイブニングドレスに黒革のコートを羽織り、エリシスと同じく肩には純白のショールを羽織っていた。


 エリシスは傍らにいる副官のリリーに話し掛ける。


「着いたわ。大陸北部は寒いわね。・・・この美しい雪景色を眺めていたいけれど、私達の出番よ」


 リリーは、エリシスに尋ねる。


「エリシス。どのようにされるつもりですか?」


「陛下からの勅命に従い、勧告を出すのよ」 


「『勧告』?」


「そう。両軍へ国外退去の勧告よ。・・・骸骨(スカル・)使者(メッセンジャー)を使うわ」





 カスパニア軍とスベリエ軍の兵士達は、突然、陣地の上空に重苦しい雲が現れて、薄暗くなったことに気が付く。


 やがて、陣地上空の暗雲は、巨大な髑髏の形になる。


 大勢のカスパニア軍とスベリエ軍の兵士達が、陣地上空に浮かぶ巨大な髑髏の形の暗雲を見上げる。


 巨大な髑髏は、その口を動かして語り始める。・・・正しくは、髑髏が発しているように見える重苦しい声が、両軍の兵士達の頭の中に響く。


「・・・カスパニアとスベリエの者共に告げる。・・・栄えあるバレンシュテット帝国は、ゴズフレズ王国と同盟を締結した。偉大なる皇帝陛下は、帝国の同盟国を侵犯しているお前達に、寛大なる慈悲を示された。・・・今より七十二時間以内にゴズフレズ王国から退去せよ。退去した者は、その命を助けるだけでなく、罪に問われる事は無い。・・・すみやかに行動し、国へ帰るが良い。・・・心せよ。・・・七十二時間後に、リベに残る賊徒どもに、逃れられない死が訪れる。・・・決して逃れられない死が」


 陣地の上空に浮かぶ巨大な髑髏の形の暗雲は、語り終えると虚空に消えて行った。




--夜。 ゴズフレズ南西部の都市 リベ市庁舎 市長室 カスパニア軍司令部


 昼間、突然現れて低空飛行で威嚇してきた帝国軍と、その後に現れた骸骨(スカル・)使者(メッセンジャー)による退去勧告への対応を巡って、カスパニア軍の軍議は紛糾していた。


 軍議には、王太子カロカロ、A軍集団を率いるレイドリック、B軍集団を率いるイナ・トモ、C軍集団を率いるアルシエ・ベルサードが列席していた。


 アルシエ・ベルサードは、戦況を冷静に分析してゴズフレズからの即時撤退を主張するが、レイドリックとイナ・トモは徹底抗戦を主張する。


 決定権のある王太子カロカロは、将軍達の議論の内容に興味を示さず、三人の将軍達の議論を気怠そうに聞いていた。


 軍議の最中に市長室のドアがノックされ、二人の美女が中に入って来る。


 エリシスとリリーの二人であった。


 エリシスは、にこやかに挨拶する。


「王太子殿下が、こちらにいらっしゃると伺いましたので・・・」


 エリシスとリリーは、上流階級の貴婦人らしく振舞い、羽織っていたコートやショールを脱ぐと、ドアの外で歩哨に立つ兵士に預ける。


 二人の豊かな身体の線がはっきりと浮き出て肌の多くが露出しているイブニングドレス姿のエリシスとリリーの美女二人を見て、軍議中の三将軍と王太子カロカロはニヤける。


 エリシスは、挨拶の言葉を口にする。


「お初にお目に掛かります。王太子殿下。私はエリシスと申します。こちらは、リリー」


 リリーは、エリシスの紹介に合わせて優雅に挨拶する。


「リリーです。お見知り置き下さい」


 エリシスとリリーを舐め回す様に見たカロカロは、三将軍達に向かって告げる。


「・・・ほほぅ? ・・・お前達、なかなか気が利くではないか。冬のゴズフレズの寒い夜に、このような美女二人を寄越すとは・・・。褒めて遣わす。誰の差し金だ?」


 カロカロからの問いに、三将軍達は互いに顔を見合わせると小首を傾げる。


 エリシスとリリーの二人は、カロカロに向かってゆっくりと歩きながら近寄っていく。


 エリシスは、カロカロに答える。


「私達を呼んだのは、こちらの方々ではありません」


 ニヤけ顔でカロカロは聞き返す。


「では、誰だというのだ?」


 エリシスとリリーの二人を怪しんだレイドリックは席を立つ。


「ちょっと待て! お前達!!」


 レイドリックは、右手でリリーの二の腕を掴もうとしたが、リリーの方が素早くレイドリックの右腕を掴む。


 次の瞬間、鈍い音と共にレイドリックの右腕は、リリーに掴まれた箇所で、()()()()()()()で折れて、ほぼ直角に曲がる。


 レイドリックは、右腕が折れた激痛で目を見開いて叫ぶ。


「ウッ!? キャァアアア!!」


 リリーは、レイドリックの折れた腕から手を離すと、自分の口元に手を当ててクスクスと笑いながら告げる。


「ごめんなさい。骨が折れちゃったかしら? ちょっと、力を入れ過ぎたわ」


 カロカロとイナ・トモ、アルシエ・ベルサードは席を立ち、剣を抜いてエリシスとリリーに向けて構える。


「女!?」


「何者だ!? お前ら!!」


 エリシスは、悪びれた素振りもせず、口を開く。


「では、改めて自己紹介を。王太子殿下。・・・バレンシュテット帝国 南部方面軍総司令兼帝国不死兵団司令 エリシス・クロフォード伯爵」


 リリーもエリシスの自己紹介に続く。


「その副官、リリー・マルレー」


 イナ・トモとアルシエ・ベルサードは、それぞれエリシスとリリーを剣で斬り付けたり、突き刺したりするが、エリシスもリリーも、剣で斬られ突き刺された部分は、すぐに傷が塞がって元に戻り、一滴の血も流れなかった。


 エリシスとリリーのドレスが破れていくだけであった。


 エリシスとリリーは、それぞれ人差し指の指先でチョン、チョンとカロカロ、イナ・トモ、アルシエ・ベルサードや歩哨の兵士達を突付くと、突付かれた者達は、白目を剥き、口から泡を吹いて気絶する。


 不死王(リッチー)のエリシスと真祖(トゥルー・)吸血鬼(ヴァンパイア)のリリーのスキル、気絶(スタン)接触(・タッチ)であった。


 レイドリックは、リリーにへし折られた右腕を押さえて(うずくま)りながら、尋ねる。


「・・・お前達、・・・王太子殿下を、・・・カロカロ殿下をどうするつもりだ?」


 リリーは、レイドリックも気絶させようとして触れようとするが、エリシスに止められる。


「リリー。ダメよ。全員、気絶させて捕縛したんじゃ、この軍勢を率いて撤退させる者が居なくなるわ。・・・そいつは放置で」


「判りました」


 エリシスは、三体の骸骨(スケルトン)を召喚すると、白目を剥いたまま口から泡を吹いて気絶しているカロカロ、イナ・トモ、アルシエ・ベルサードの三人をそれぞれ骸骨(スケルトン)に担がせる。


 エリシスは、激痛のため(うずくま)ったまま動けないレイドリックに悪戯っぽい笑顔で告げる。


「カスパニアの王太子殿下と将軍達の身柄は、私達が預かったわ。・・・返して欲しければ、カスパニアが拉致したゴズフレズの人々と交換よ。・・・判った?」


 レイドリックは、(うずくま)ったままエリシスを睨み上げる。


「・・・なんだと!?」


 エリシスはレイドリックに片目を瞑って見せると、リリーと一緒に気絶した歩哨から預けていたコートとショールを取って羽織り、三人の捕虜を担ぐ骸骨(スケルトン)達と共に転移門(ゲート)に入って消えて行った。


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