第二百三十三話 帝国造兵廠(一)
アレク達は駅で列車を降り、帝都郊外にある帝国造兵廠へと向かう。
帝都ハーヴェルベルクの南方、郊外にその施設はあった。
広大な敷地に、その敷地の四隅に『人ならざる者』の侵入を拒絶する、そびえ立つ四柱の巨大な結界塔。
施設の建物は、箱型の巨大な黒い四角形をしており、外から見ただけでは窓がどこにあるのか、何階建てかは判らなかった。
アレク達は、敷地の正門で衛兵に身分を告げて、中へと進み、建物正面の入り口に着く。
エルザは、入り口で造兵廠の建屋を見上げながら呟く。
「真っ黒の四角い箱なんて建物、初めて見たわ」
エルザの呟きにナディアも続く。
「・・・窓も無さそうね」
アレクは、二人に告げる。
「中に入ってみよう」
「そうね」
アレク達は、帝国造兵廠の入り口から建物の中へと入る。
アレク達は、入り口から建物の中に入る。
建物の中は、天井に一定の間隔で魔法の青白い光を放つ照明が取り付けられており、窓の無い通路や部屋の中を明るく照らしていた。
白衣を着た技官らしき人物はアレク達を出迎える。
「ユニコーン小隊のアレク大尉ですか?」
尋ねられたアレクは、所属と官姓名を名乗る。
「はい。帝国中央軍教導大隊所属 ユニコーン小隊アレキサンダー・ヘーゲル大尉です」
「初めまして。こちらで技官を務めているフレイ少尉です。よろしくお見知り置きを。ジカイラ大佐から連絡は受けております。どうぞ、こちらへ」
フレイの案内でアレク達は造兵廠の中を進んで行く。
造兵廠の中はいくつもの部屋があり、通路からガラス窓を通して中の様子が伺えた。
アレク達は、歩きながらガラス越しに中の様子を見学する。
アルは何かを見つけたらしく感嘆の声を上げる。
「アレク! 見ろよ! スゲぇ!!」
アレクがアルが指し示す部屋の中を見ると、開発中の新型飛空艇があった。
驚くアレク達にフレイは説明し始める。
「ああ。あれは開発中のガンシップです。エインヘリアルⅡの後継機ですね」
開発中の新型機は、機首の主砲が二門から四門に増え、搭載される魔導発動機も一回り大きなものが組付けられようとしていた。
アレク達は、一斉にアルが指し示す、開発中の新型飛空艇を見て口々に感嘆する。
「へぇ~」
「凄い・・・」
フレイはアレク達に告げる。
「武器や防具、道具などを扱っているのは、こちらです」
アレク達は、フレイの案内についていく。
アレク達が案内された先は、錬金術の研究室と鍛冶屋の工房を合わせたような部屋であった。
開発中の剣や槍といった武器や、鎧や籠手、兜などの防具が作業台の上に置かれており、そのすぐ隣では、緑色の液体の入ったフラスコをアルコールランプで温めていた。
剣を高温の炉の中に入れて加熱し、真っ赤に焼けた剣を金敷の上に置いて金槌で叩く白衣の研究者。
アレク達は、それらを珍しそうに眺めながら、フレイの後に付いていく。
保管庫らしき区画の前でフレイはアレク達に告げる。
「完成した武器や防具、道具はここにあります。どれでもお好きな物を持っていって下さい」
フレイが保管庫の扉を開けると、中には無数の武器や防具が並んでいた。
エルザは目を輝かせながら尋ねる。
「両手剣はどこにあるの!? 強力なやつ!!」
フレイは微笑みながら告げる。
「両手剣はこちらです」
フレイが指し示す先には、様々な形状の両手剣が置かれていた。
並べられている両手剣はミスリル製で、剣身は淡い青白い光を帯びており、魔力が付加されている事が判る。
エルザは、嬉しそうに早速品定めを始める。
「どれにしようかな・・・。これだ!」
エルザが選んだ両手剣は、両刃の剣身の、刃の部分以外は黒く美しい文字のような文様が刻まれており、剣身の付け根の部分には魔力水晶が埋め込まれて青白く輝いていた。
エルザは気に入った両手剣を手に取って、フレイに尋ねる。
「ねね。この剣、名前は何ていうの?」
フレイが答える。
「ここにある剣には、まだ銘はありません。貴女が好きにつけてやってください」
「私が好きにつけていいの!?」
「はい」
「うーん・・・」
エルザは両手剣を手に、剣の名前を考え始める。
アレクは、ルイーゼに尋ねる。
「ルイーゼは? 何か、気に入った武器はあったかい??」
ルイーゼは、アレクに遠慮がちに答える。
「私は、皇妃様から頂いた鉤爪があるから・・・」
「でも、ルイーゼのショートソードは、街の店て買った市販品なんだろ?」
「うん」
アレクは、並べられているショートソードの中から選び始める。
「これなんか、どう?」
アレクがルイーゼに見繕ったショートソードは、細身の両刃の直剣でシンプルな造りであったが、剣身の背の部分に文字のような文様が掘り込まれており、剣に付与された魔力によって剣身は淡く青白く輝いていた。
ルイーゼは、満面の笑みでアレクが選んだ剣を手に取る。
「うん! アレクが選んでくれた、これにする!」
「そう? 気に入ってくれて良かった」
一方、アルとトゥルムは、気に入った武器が見つからないようであった。
アルはフレイに話し掛ける。
「今、使っている斧槍を強化したいんだけど」
フレイは答える。
「できますよ。お預かりしても、よろしいですか?」
「おぉ! じゃあ、頼みます!」
アルは、愛用の斧槍をフレイに渡す。
トゥルムも口を開く。
「私の三叉槍も強化をお願いしたいのだが」
フレイは笑顔で答える。
「承ります。お時間を頂いてもよろしいですか?」
「構わない。待たせてもらおう」
トゥルムもアルと同じように愛用の三叉槍をフレイに渡す。
フレイは、近くの職員に二人の武器を渡すと、強化するように申し付ける。
ナディアは尋ねる。
「レイピアや魔力が付加されたアクセサリーは無いの?」
フレイは答える。
「ありますよ。レイピアはこちら、アクセサリーは奥の棚です」
ナディアは、フレイが案内する先に歩いて行くと、並べられているレイピアから選び始める。
「・・・たくさんあるわね。どれにしようかな・・・?」
ナディアが手に取ったレイピアは、柄に草花の装飾を施した優美なものであり、細長い剣身は魔力が付加されているため淡く青白く輝いていた。
アレクは口を開く。
「みんな、防具も強化して貰った方が良いんじゃないか?」
そういうと、アレクは持ってきた鎧を取り出す。
アルも同意する。
「そうだな・・・。オレは、新しい物より慣れている物の方が良いや」
トゥルムも同意する。
「同感だな。着慣れた鎧の方が良い。強化をお願いしよう」
「私も!」
「私もお願い」
「私もお願いするわ」
四人の女の子達も、持ってきた防具を取り出す。
「良いですよ。お預かり致します」
フレイは、アレク達の防具を台車に乗せていく。
ナディアは尋ねる。
「ドミトリーは、どうするの?」
ドミトリーは、悩みながら答える。
「ううむ・・・。武僧たるもの、鍛え上げた自らの肉体こそが武器であり、防具であるが・・・」
アレクは助け舟を出す。
「ドミトリー。はるばる列車に乗って帝国造兵廠まで来たんだから、法衣と手甲だけでも強化して貰った方が良いんじゃないか?」
ドミトリーは、アレクの言葉に素直に従う。
「まぁ、隊長がそう、おっしゃられるなら・・・」
ドミトリーも手甲と法衣をフレイに預ける。
フレイは尋ねる。
「皆さん、強化する武器や防具は、これで良いですか?」
アレクは一言で答える。
「はい」
「では、強化致しますので、それまでしばらくお待ちください」
そう言うと、フレイはアレク達から預かった防具を台車に乗せて職員に渡す。
職員は、台車を押して、別の部屋へと向かって行った。
女の子達は、奥の棚の方へ歩いて行き、アクセサリー類を選び始める。