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第二百三十話 帝都帰参、御前会議

-- ブナレス上空 飛行空母ユニコーン・ゼロ


 市庁舎での軍議に参集していたジカイラとヒナ、教導大隊の小隊長達は、揚陸艇で飛行空母ユニコーン・ゼロに戻り、自室で軍服に着替えると、ラウンジに集まって休憩していた。


 アレクはジカイラに尋ねる。


「帝都から『迎え』が来るようですが・・・?」


 ジカイラは、慣れたように答える。


「『迎え』か? すぐ来ると思うぞ」


 ジカイラがアレクに答えて間もなく、ラウンジに転移門(ゲート)が現れる。


 転移門(ゲート)を見たジカイラが苦笑いしながら、アレクのほうを見て口を開く。


「・・・ほら。来ただろう?」


 転移門(ゲート)から帝国軍の高級将校用の軍服を着た二人の美女が現れる。


 帝国不死兵団を率いる不死王(リッチー)のエリシス伯爵と、その副官の真祖(トゥルー・)吸血鬼(ヴァンパイア)のリリーであった。


 エリシスは、愛嬌良く片目を瞑ってジカイラに微笑みかける。


「久しぶりね。ジカイラ大佐。」


 リリーも口を開く。


「ジカイラ大佐。陛下の命により、お迎えに上がりました」


 ジカイラは、この不死者(アンデッド)の美女二人が苦手であったが、礼を欠くことが無いように答える。


「判りました。・・・ヒナ、行くぞ。・・・アレク。お前の小隊も一緒に来い」


 アレクは答える。


「了解です」


「行くわよ」


 エリシスとリリーが転移門(ゲート)に入って行く。


 二人に続いて、ジカイラ、ヒナ、そして、アレク達が転移門(ゲート)に入って行く。






-- バレンシュテット帝国 帝都 皇宮


 ジカイラ達に続いてアレク達が転移門(ゲート)を通ると、その先は皇宮の廊下であった。


 先導するエリシスとリリー、ジカイラとヒナの後ろにアレク達は付いていく。


 廊下を歩きながら両腕を伸ばしてエルザは口を開く。


「やっぱり、帝都は暖かくて良いわ~。・・・って、アレク。ここ、ドコ??」


 アレクは答える。


「・・・皇宮さ」


「皇宮!?」


 アレクとルイーゼ以外の小隊の仲間達は驚き、初めて立ち入った世界最大で壮麗な皇宮の、その装飾された内装や廊下、陳列されている調度品を見て感嘆する。


 エルザは尋ねる。


「皇宮って、皇帝陛下が居る所じゃない!?」


 アレクは素っ気なく答える。


「そうだよ」


 ナディアは、戦々恐々としながら尋ねる。


「アレクってば、『そうだよ』って簡単に言ってるけど・・・。私達なんかが立ち入って、大丈夫なの!? ・・・処刑されたり、しないわよね!?」


 再びアレクは素っ気なく答える。


「大丈夫だよ」


 アルは、贅を尽くした調度品が並ぶ豪華な廊下を見回して唖然として呟く。


「すげぇ・・・」


 アルの傍らでナタリーも驚きを隠せずに呟く。


「凄い・・・」


 ドミトリーは、歩きながら周囲を見回して口を開く。


「・・・ここは、今まで見たトラキアやゴズフレズの宮殿とは、全く規模が違う。ここには、一体、どれほどの富と権力がつぎ込まれたのだ?」


 感嘆したトゥルムは答える。


「うむ。帝国の富と力が桁違いだという事が良く判る」





 アレク達が歩いていると、皇宮の廊下ですれ違う執事やメイド達は、廊下の隅に身を寄せてアレク達が通り過ぎるまで一礼する。


 通常、メイド達は、一礼したまま目線を落として来賓が通り過ぎるのを待っているが、メイド達は一礼したまま、目線をアレクの傍らに居るルイーゼに向ける。


 ルイーゼも彼女達からの目線に気が付く。




 アレク達に一礼している皇宮のメイド達は、主に帝国の下級貴族の子女達である。


 メイド達は、皆、アレクとルイーゼの素性を知っている。


 帝国第二皇子であるアレクと、連れ立ってその傍らを歩くメイドのルイーゼ。


 貴族の子女達であるメイド達が、自分達より身分の低い準貴族でしかない騎士爵家の娘であるルイーゼに向ける目線。


 それは『羨望と嫉妬』であった。




 アレクは、久しぶりに戻って来た『実家』の廊下を感慨深く眺め、歩きながら考える。



 皇宮に居た頃の自分は、自堕落に日々を過ごしていた。


 身の回りの事は、全てアレク付きメイドのルイーゼがやってくれていた。


 事あるごとに自分が兄であるジークと比較される鬱憤を晴らすため、毎日のように抵抗出来ない皇宮のメイド達に悪戯をしていた。


 自分が『帝国第二皇子』という身分に甘えていただけであった。


 皇宮で暮らしていた頃の、情けない自分を思い出すと、恥ずかしくなる。


 だが、今は違う。


 目標にしている兄ジークと同じ上級騎士(パラディン)になることができた。


 小隊の仲間達と共にトラキアやゴズフレズに赴き、武勲を上げ、帝国騎士十字章とゴズフレズ戦士勲章を叙勲された。


 以前に比べ、自分は少しはマシになったのではないか。





 アレクが様々な事に考えを巡らせていると、一行は応接室に案内される。


 リリーは告げる。


「皇帝陛下が臨席される『御前会議』まで、こちらでお待ち下さい」


 そう告げるとリリーは、恭しく一礼して応接を後にする。






 ジカイラ達は、応接室のソファーに腰掛ける。


 ジカイラは傍らに座ったヒナに呟く。


「・・・どうも、オレは、あの二人が苦手でな」


 ヒナは苦笑いしながら答える。


「二人とも美人なのに?」


「・・・ああ」


 ジカイラは、七百年以上生きている不老不死の不死者(アンデッド)の美女二人に対して、本能的に『底知れぬ恐ろしさ』を感じていた。


 

 

 


--小一時間後。


 応接室で寛いでいたジカイラとヒナは、侍従によって貴賓室に呼び出される。


 ジカイラはアレク達に告げる。


「行ってくる。お前達は適当に寛いでいて構わない」


 アレクは答える。


「判りました」





 貴賓室では、既に帝国の主要メンバーが顔を揃えて居並び、ジカイラとヒナの到着を待っていた。


 皇帝ラインハルト、皇妃ナナイ、皇太子ジークフリード、帝国魔法科学省長官ハリッシュ、帝国四魔将アキックス伯爵、ヒマジン伯爵、エリシス伯爵、ナナシ伯爵が居並ぶ。


 ラインハルトは、会議室に入って来たジカイラとヒナを労う。


「すまないな。遠くから呼び寄せて」


「構わんさ」


 ジカイラは、苦笑いしながら席に着く。


 ラインハルトは、口を開く。


「さて、我が帝国の主要な者達が集まったな。帝国の同盟国であるゴズフレズ王国が、列強と呼ばれるカスパニアとスベリエの軍勢に侵略されている。・・・結論から言おう。帝国は、同盟国に対する如何なる侵略をも許すつもりは無い。実力をもって両軍をゴズフレズ王国から排除する」


「では、カスパニアとスベリエに宣戦布告されるのですか?」


 ジークからの問いにラインハルトは答える。


「いや。こちらから両国に宣戦布告はしないが、武力介入する。ただし、直前に帝国側から両軍に『退去勧告』を出す。『我がバレンシュテット帝国は、ゴズフレズ王国と姻戚による同盟関係にある。ゴズフレズ王国領内にいる第三国の軍勢は、直ちにゴズフレズ領内から退去せよ。さもなくば、帝国は実力をもって、これを排除する』とな」 


 ハリッシュは頷く。


「なるほど。こちら側から退去勧告する訳ですね」


 ラインハルトは答える。


「筋は通しておくさ」


 ジカイラは口を開く。


「お前らしいな。・・・直前というのが、少々、意地悪い気もするが」


 ハリッシュは口を開く。


「・・・カスパニアはともかく、スベリエとは戦争になるかもしれませんね」


 ラインハルトは答える。


「構わないさ。スベリエ王国の総兵力は十万程度。動員兵力百万を誇る我が帝国の軍事力は、スベリエ王国を圧倒している」


 ジカイラは苦笑いしながら尋ねる。


「スベリエと戦っても、帝国が勝つだろう。・・・スベリエとの戦争を避ける方法は、考慮しないのか?」


 ラインハルトは聞き返す。


「『スベリエとの戦争を避ける方法』というと?」 


 ジカイラは答える。


「スベリエ側は、ゴズフレズ海峡を自由に航行できれば、ゴズフレズ王国本土はどうでも良いんじゃないか?」


「・・・なるほどな。無駄な戦端を開くつもりは無い。スベリエ国王と話してみるか」


 ヒナは、右手を上げて発言の機会を求める。


「・・・よろしいですか?」


 ラインハルトは笑顔で答える。


「ああ」


 ヒナは続ける。


「カスパニアが『奴隷貿易』の原資として拉致したゴズフレズの人々の解放も要求するべきです」


 『奴隷貿易』と聞いてラインハルトの目付きが鋭く変わる。

 

「『奴隷貿易』。・・・私は、それ自体を容認するつもりは無い。カスパニアには、ゴズフレズの人々の解放も要求する」 


 ラインハルトは列席している者達に振る。


「・・・帝国四魔将の意見は?」


 アキックスは答える。


「陛下と同意見です。同盟国へのいかなる侵略も排除するべきです。帝国北部方面軍と帝国竜騎兵団は待機しています。必要ならば、何時でも」


 ヒマジンは答える。


「オレも同じです。スベリエはともかく、カスパニアは悪質です。帝国東部方面軍と帝国機甲兵団は待機しています。先鋒は是非、我が東部方面軍に」


 エリシスは答える。


「私も武力介入に賛成。カスパニアにゴズフレズの人々の解放も要求するところが陛下らしいわね。帝国南部方面軍と帝国不死兵団は待機しているわ。出る時は何時でも」


 ナナシは答える。


「私も賛成だ。カスパニアとスベリエの軍勢が食人鬼(オーガ)鶏蛇(コカトリス)を連れていたという報告もある。出所を調べねばなるまい。帝国西部方面軍と帝国魔界兵団は待機している。必要とあらば、何時でも」


 ラインハルトは最後にナナイに尋ねる。


「最後になったが、皇妃。君の意見を聞かせて欲しい」


 ナナイは微笑みながら答える。


「陛下の御意志のままに」


 ラインハルトは締め括る。


「御前会議は満場一致だな。・・・我がバレンシュテット帝国は、同盟国であるゴズフレズ王国からカスパニア軍とスベリエ軍を排除するため武力介入する」


 ラインハルトは勅命を告げる。


「皇太子ジークフリートに命ずる。帝国の四個方面軍を率いてゴズフレズ王国から第三国の軍勢を排除せよ」


 ジークは、深く一礼しながら答える。


「はっ!」


 ジークは顔を上げると、帝国四魔将に指示を出す。 


「各方面軍と兵団は、アキックス伯爵領の州都キズナに集結せよ。それから、私と共にゴズフレズ王国西部の都市リベに向かい、カスパニア軍とスベリエ軍を排除する」


「ははっ!」




 この日、皇帝ラインハルトの名前でバレンシュテット帝国の四個方面軍に勅命が発せられた。


 大陸北方の動乱に終止符を打つべく、百万の帝国軍がゴズフレズ王国を目指して動員される。


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