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第二百二十四話 帝都にて、皇太子と王女の婚約

 帝国軍総旗艦ニーベルンゲンに乗艦する皇太子ジークの元に、ブナレスに居るジカイラからフクロウ便で報告書が届く。


 ジークは、自分の私室で執務机の椅子に座り報告書の封印を切ると、羊皮紙に綴られた内容を読む。


(・・・スベリエ軍がブナレスの北に上陸。カスパニア軍は撤退して兵力を南部の都市リベに集結させつつあり。ゴズフレズ軍はティティスに続きブナレスを奪還・・・)


 ジカイラからの報告書には、ゴズフレズ王国を巡る北方動乱の戦況と、アレクの活躍と実績を褒め、アレクを平民組四個小隊を率いる中隊長に推挙する旨が綴られていた。


 弟であるアレクの活躍と実績を、恩師であるジカイラが褒める内容に、報告書を読むジークの顔に笑みがこぼれる。


「・・・ふふふ」


 ソフィアはジークの傍らに歩み寄り、ジークに話し掛ける。


「何やら楽しそうですね」


 ジークは、ソフィアを自分の膝の上に座らせると、笑顔で報告書の内容を教える。


「まぁな。・・・弟の活躍と成長について恩師から褒められると、兄としては嬉しい限りだ」


 ソフィアは、膝の上でジークが読んでいる羊皮紙の報告書に視線を移す。


「まぁ、それはそれは・・・」


 私室のドアをノックする音の後、侍従の声が聞こえる。


「殿下。帝都に到着致しました」


「判った」


 ジークが窓の外の景色に目を向けると、見慣れた帝都ハーヴェルベルクの街並み、そして世界一広大で壮麗な宮殿である皇宮が見える。


 ジークは呟く。


「・・・帰って来たな」






--帝都ハーヴェルベルク 皇宮 謁見の間


 帝都に戻ったジークは、父である皇帝ラインハルトに謁見し、ゴズフレズでの出来事とハロルド王からのカリン王女との婚約と婚姻について報告する。


 ジークは、帝都帰参の経緯と理由を説明してラインハルトに謝罪する。


「・・・という事で、ゴズフレズ王国のハロルド王より、私とカリン王女の婚約と婚姻について申し入れがありました。事は国家間の取り決めであり、すみやかに父上の裁可を仰ぐ必要があると判断したため、帝都へ帰参した次第です。私の独断でハフニア駐留の勅命に背きましたこと、深くお詫び致します」

 

 ラインハルトは、ジークの謝罪に上機嫌で答える。


「ジーク、ご苦労だった。私は、お前が勅命に背いたとは考えていない。むしろ『良くやった』と褒めてやる。私は、お前とカリン王女との婚約も婚姻も認める」


「はい」


「お前のハフニア駐留は、『帝国はゴズフレズを見捨てない』という対外的なメッセージとゴズフレズへの担保でしかなく、表向きは『皇太子の新婚旅行』という事になっている。・・・お前は新婚旅行から戻っただけだ」


 ジークは、ラインハルトの真意を掴みかね、心許なく答える。


「はぁ・・・」


 ラインハルトは、上機嫌で不敵な笑みを浮かべながらジークに教える。


「ふふふ。お前はカリン王女を帝都に連れて来た。これは『バレンシュテット帝国はゴズフレズの王族を保護している』ということだ。・・・これにより、帝国はいつでもゴズフレズ王国に武力介入できる大義名分を得た」


「なるほど」


「お前とカリン王女の婚約と婚姻は、『ゴズフレズ王国が帝国に申し入れてきた縁談』だ。『帝国がゴズフレズ王国に申し込んだ縁談』ではない。・・・これは、スベリエ王国に従属しているゴズフレズ王国の離反であり、スベリエ王国は帝国には何も言えないということだ。・・・帝国がゴズフレズ王国に縁談を申し込んで調略した訳では無いからな」


 ラインハルトは続ける。


「そして、お前とカリン王女の婚約と婚姻によって『帝国とゴズフレズ王国は、帝室と王家の姻戚関係による同盟国』となる。・・・これは、事実上、ゴズフレズ王国は帝国の保護国になるということだ」


「父上は、そのように、そこまでお考えでしたか」


 ジークは、ラインハルトの真意を理解する。


 ラインハルトはジークに尋ねる。


「カリン王女はどこに?」


 ジークは答える。


「・・・控えの間に呼んであります」


「通せ」


「はい」






 ほどなくカリンが控えの間から侍従に連れられて謁見の間にやって来る。


 カリンは、ラインハルトにドレスの端を摘まんで上品に一礼すると、震える声で挨拶を口にする。


「カリン・ゴズフレズです。お呼びにより参内(さんだい)致しました」


 謁見の間に参内(さんだい)して目通りしたカリンは、皇帝であるラインハルトが怖いらしく、緊張で声だけでなく身体も小刻みに震えていた。


 その様子を見たラインハルトは、微笑みながらカリンに優しく話し掛ける。


「カリン王女。遠路はるばるゴズフレズから我が帝都に良くお越し下された。ジークと貴女の婚約と婚姻は、私も望むところであり、認めよう。・・・貴女を心から歓迎する。この皇宮を自分の家と思って滞在して欲しい」


 カリンは、震える声でお礼を口にする。


「・・・ありがとうございます。陛下」


 ラインハルトは、ジークに尋ねる。


「ジーク。王女に側用人は居るのか?」


「はい。老執事が一人。ゴズフレズから付いて来ています」


「判った。ジーク。王女とその老執事に部屋を。そして王女専属のメイド達を見繕って用意しろ」


「判りました」





 バレンシュテット帝国皇太子ジークフリートとゴズフレズ王国カリン王女の婚約が決まり、国内外に向けて大々的に発表される。同時にバレンシュテット帝国とゴズフレズ王国の同盟も発表された。


 帝国軍では、ジカイラとヒナ、アレクの昇進が決まる。


 ジカイラは大佐に。ヒナは少佐に。アレクは大尉になる事が決まり、皇帝ラインハルトの名前で辞令が交付された。


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