第二百二十一話 教導大隊vs魔獣大隊(四)
--ゴズフレズ中部の都市 ブナレス 近郊 中部戦線
アレク達ユニコーン小隊とルドルフ達グリフォン小隊は、それぞれ食人鬼を倒し、カスパニア魔獣大隊の部隊を撃破。
敵部隊を撃破したアレク達ユニコーン小隊とルドルフ達グリフォン小隊は、フェンリル小隊が戦闘しているカスパニア軍魔獣大隊のの部隊側面に回り込み、半時ほどで敵部隊を撃破する。
次に、ユニコーン、グリフォン、フェンリルの三個小隊がセイレーン小隊が戦闘しているカスパニア軍魔獣大隊のの部隊側面に回り込んでいき、こちらも半時ほどで敵部隊を撃破。
やがて、ユニコーン、グリフォン、フェンリル、セイレーンの平民組の四個小隊が、貴族組が戦闘中のカスパニア軍魔獣大隊の側面に回り込んでいく。
練度や技量の低い貴族組は、カスパニア軍魔獣大隊に苦戦していた。
キャスパーは、二体の食人鬼に苦戦している自分のバジリスク小隊を見て叫ぶ。
「お前ら! 食人鬼ごときに、なんてザマだ!」
バジリスク小隊の魔導師の女の子は、キャスパーに悪態を突く。
「戦っている私達の後ろにいて文句言うなら、前に出て、自分で戦いなさいよ!」
キャスパーは、女の子に口答えされ激昂する。
「なんだと!? 婦女子の分際で! 隊長である、この私に口答えするか!?」
僧侶の女の子は、魔導師の女の子をたしなめる。
「やめなさいよ! コイツが前に出たところで、食人鬼にビビッて、また漏らしちゃうじゃない」
魔導師の女の子は鼻で笑うと、蔑んだ目でキャスパーを見下して呟く。
「フッ・・・それもそうね。そうやって、女の後ろに隠れて、キャンキャン吠えていなさいな!」
自分の小隊の女の子達から、見下され、小馬鹿にされて、キャスパーは俯いて歯ぎしりする。
「くっ、くっ、くっ・・・貴様らぁ~。・・・婦女子が、この私を小馬鹿にしおって! 見てろ!」
そう言うと、キャスパーはバジリスク小隊の先頭に出る。
「お前ら! 突撃だ! 私に続け!」
キャスパーは一人でオカッパ頭の髪を振り乱しながら、一体の食人鬼に向けて突撃していく。
一人で突っ込んでくるキャスパーに食人鬼が気が付き、キャスパーの方を向く。
「ゴァアアアア!!」
食人鬼は咆哮を上げながら右手に持つ棍棒を振り上げ、キャスパー目掛けて勢い良く振り下ろす。
「ヒィイイイ!」
咆哮を上げる食人鬼の迫力にキャスパーは立ち竦む。
轟音と共に食人鬼が振り下ろした棍棒がキャスパーの目の前の地面を直撃し、棍棒が地面にめり込む。
「ヒィヤァアアア!」
キャスパーは、その場で腰を抜かしてヘタり込むと、恐怖のあまり失禁する。
次の瞬間、食人鬼の影から鶏蛇が現れ、腰を抜かして失禁しているキャスパーに石化息を浴びせた。
石化息に包まれたキャスパーは、瞬く間に身体が石化する。
バジリスク小隊の四人の女の子達は、その様子を見て文句を言い始める。
魔導師の女の子は、文句を言う。
「ちょっと!? なに一人で勝手に突っ込んで、石になってるのよ!?」
僧侶の女の子も文句を言う。
「小隊の隊長がお漏らししてる姿で石になるなんて! 信じられない!」
斥候の女の子も文句を言う。
「私達、また他の小隊の笑い者じゃない!」
もう一人の魔導師の女の子も文句を言う。
「もう嫌ぁ~! 恥ずかしい!」
バジリスク小隊の四人の女の子達が石になったキャスパーに文句を言っていると、バジリスク小隊が戦っている鶏蛇の左腹にショートスピアが突き刺さり、鶏蛇は悲鳴を上げる。
魔獣大隊の側面に回り込んだユニコーン小隊のトゥルムが投擲したショートスピアであった。
トゥルムは、大楯の裏側からもう一本のショートスピアを取り出すと、鶏蛇に向けて投擲する。
「ふんっ!!」
トゥルムが投擲したショートスピアが鶏蛇の首に突き刺さる。
魔獣大隊の魔獣使いが鶏蛇の身体に刺さった二本のショートスピアを引き抜くと、懐から治療薬を取り出して鶏蛇に掛ける。
「くそっ! 敵の援軍が来たか!」
魔獣使いが口笛を吹いて合図すると、魔獣大隊の部隊は撤退していった。
魔獣大隊の側面に回り込んだ平民組の四個小隊は、魔獣大隊の追撃を止め、貴族組のバジリスク小隊と合流する。
アレクは、バジリスク小隊の女の子達に尋ねる。
「みんな、無事?」
魔導師の女の子は答える。
「私達は無事よ」
僧侶の女の子は、呆れたように答える。
「ただ一人を除いてね」
アルは怪訝な顔で聞き返す。
「ただ一人を除いてって??」
斥候の女の子は、呆れたように指し示しながら答える。
「アレよ! アレ!!」
斥候の女の子が指し示す先には、鶏蛇の石化息で石になったキャスパーの姿があった。
アレク達は石化したキャスパーを検分する。
アルは呆れたように、ため息交じりで口を開く。
「はぁ・・・あり得ないだろ。恐怖のあまり失禁した姿で石になるとか・・・」
アレクとルイーゼは、ため息を吐く。
トゥルムは、恐怖に顔を歪めながら後ろ手に両手を地面に着き、両足を開いて失禁した姿で石化したキャスパーを覗き込むように見て口を開く。
「いったい、どうやったら、こんな恥ずかしい姿で石になるんだ?」
ドミトリーも呆れる。
「・・・何という情けない姿だ」
もう一人の魔導師の女の子は、アレク達にキャスパーが石化した経緯を説明する。
「・・・という訳で、こいつは食人鬼の攻撃にビビって失禁した瞬間、鶏蛇の石化息を浴びて石になっちゃったのよ」
石になったキャスパーを取り囲みながら、女の子の説明を聞いた平民組一同から『やれやれ』といったため息や、失笑が漏れ聞こえる。
ナディアは、バジリスク小隊のメンバーに同情する。
「こんな奴が隊長をやっているとか、バジリスク小隊の人達に同情するわ」
エルザも呆れる。
「ビビッて腰を抜かして漏らしたところを石にされちゃうとか、流石に悲惨ね。・・・惨めすぎる」
アレクは、周囲に尋ねる。
「・・・誰か、状態異常回復薬を持っていないか? 状態異常回復魔法でも良い」
石になったキャスパーを取り囲む周囲から返事は無かった。
また、石になったキャスパー自身は、周囲がそんな話をしているとは知るよしも無かった。