第二百二十話 教導大隊vs魔獣大隊(三)
トゥルムが猛獣使いを倒し、アレク達ユニコーン小隊は正面の敵部隊を撃破。
教導大隊とゴズフレズ軍は、戦域全体として優勢であったが、ユニコーン小隊が正面の敵の撃破に成功した以外、教導大隊の他の小隊は魔獣大隊の食人鬼と鶏蛇に苦戦していた。
ユニコーン小隊は、上級騎士のアレクと忍者のルイーゼが上級職であり、他のメンバーも中堅職となっていたため、教導大隊では突出した戦力であった。
しかし、他の小隊は、グリフォン小隊のルドルフだけが中堅職の騎士であり、他は全て基本職であった。
アレクは小隊に号令を掛ける。
「みんな! ユニコーン小隊は、これより他の小隊の支援に向かう! 敵の側面に回るぞ!」
「おおっ!」
アレク達は陣形を整えると、カスパニア軍魔獣大隊の側面に回り込むべく歩みを進める。
--少し時間を戻した グリフォン小隊
グリフォン小隊は、既に兵士や猛獣使いといった雑魚は既に倒していたが、一体の食人鬼に苦戦する。
ルドルフは、冷静に指示を出していた。
「前衛は、食人鬼を牽制! 敵の攻撃は避けろ! 後衛は、遠距離攻撃と支援だ!」
(・・・敵の動きは鈍い! 当たらなければ、どうという事は無い!)
ルドルフは、食人鬼の棍棒の一撃を素早く避け、大きく踏み込んで食人鬼を斬り付ける。
ルドルフの剣は、ダメージこそ与えているものの、食人鬼はタフであった。
すぐさまグリフォン小隊の魔導師達が魔法で遠距離攻撃を行う。
「雷撃!!」
「氷結水晶槍!!」
どちらの魔法も食人鬼に命中するが、それでも食人鬼は倒れなかった。
戦斧の戦士ブルクハルトは食人鬼に斬り付ける。
「オラァアア!」
戦斧の刃が食人鬼の左の二の腕に食い込むが、食人鬼は吠えながら左腕でブルクハルトを払い、弾き飛ばす。
「ゴァアアアアア!!」
食人鬼の左腕の一撃を受けたブルクハルトは、三メートルほど弾き飛ばされ地面を転がる。
「ぐはぁ!」
ブルクハルトは起き上がると、ルドルフの元に駆け寄る。
「くそっ! なんて怪力だ!・・・隊長! こいつら、とんでもなくタフですぜ?」
ルドルフは、戦況を分析する。
(斬り付ければ、浅いがダメージは与えられる。刺せば貫けるが、恐らく掴まれる。・・・時間は掛かるが、このままいくしかない!)
ルドルフは、ブルクハルトに答える。
「このままいく! 奴らの体力も無限という訳じゃない!」
ルドルフは、父である皇帝ラインハルトと立ち合って以来、自分を抑える事を少しずつ学んでいた。
マスタークラスの上級騎士である父ラインハルトの力は圧倒的であり、立ち合ったルドルフはまるで歯が立たず、手も足も出なかった。
以前のルドルフは、誰彼構わず感情的に突っ掛かっていたが、ラインハルトに出会ってからは、感情を抑えるようになった。
感情を抑え、戦況を見て冷静に判断し、指示を出す事が小隊の指揮官としても重要であった。
ルドルフは考える。
(オレは、皇帝になろうとは思わない。・・・ただ、母さんを守れる強さが欲しい。心無い者達から母さんを守れる強さが。・・・父さんのような上級騎士になりたい)
ブルクハルトは、ルドルフに話し掛ける。
「隊長、どうしたんです? 戦闘中にボーッとして?」
ブルクハルトの言葉でルドルフは、ハッとして我に返る。
「何でもない。ちょっと考え事をしていただけだ」
黒髪のツインテールの女魔導師アンナが叫ぶ。
「ルドルフ! 食人鬼がもう一体現れたわ!」
ルドルフとブルクハルトが、アンナが指し示す先を見ると、二体目の食人鬼がグリフォン小隊に迫って来ていた。
迫って来る二体目の食人鬼を睨みながら、ブルクハルトは呟く。
「・・・マズいな。一体でも、厄介なのに」
ブルクハルトの呟きを聞きながら、ルドルフは短く舌打ちする。
「チッ!!」
(食人鬼を二体同時に相手にするのは厳しい。・・・どうする?)
ルドルフとブルクハルト、アンナの三人は、迫って来る二体目の食人鬼を睨む。
すると、突然、二体目の食人鬼の頭に数本の矢が刺さり、一直線に伸びてきた爆炎が襲う。
「ゴァアアアア!!」
爆炎に包まれた食人鬼が叫ぶ。
食人鬼が爆炎に襲われる様子を見ていたアンナが口を開く。
「食人鬼が、・・・燃えた?」
突然、炎に包まれた食人鬼を見て、ルドルフ達三人は驚く。
爆炎で食人鬼は火傷を負ったものの、まだ生きており、爆炎が伸びてきた方向へ向きを変えて歩いて行く。
ルドルフ達三人が二体目の食人鬼が向かって行く先を見ると、アレク達ユニコーン小隊が現れる。
ルドルフは叫ぶ。
「援軍だ! ユニコーンが来たぞ!」
「おおっ!」
ルドルフの言葉にグリフォン小隊のメンバーは勢い付く。
--少し時間を戻した アレク達ユニコーン小隊
アレク達の前に食人鬼と戦うルドルフ達グリフォン小隊の姿が見える。
ルドルフ達は、兵士や猛獣使いといった雑魚は既に倒していたものの、一体の食人鬼に苦戦していた。
少し離れた位置から二体目の食人鬼が近づいていく。
アルは口を開く。
「マズいな。二体目の食人鬼がグリフォン小隊に近づいている」
アルの傍らにいたアレクは、ナタリーに指示を出す。
「ルイーゼ、ナタリー。グリフォン小隊に向かっている二体目の食人鬼を攻撃しろ」
二人は答える。
「判ったわ!」
ルイーゼは弓を取り出すと数本の矢を番え、食人鬼の頭部を狙って矢を放つ。
ルイーゼの放った矢は、食人鬼の頭部に突き刺さる。
ナタリーは、食人鬼に向かって手をかざすと魔法を唱える。
「火炎爆裂!!」
ナタリーの掌の先に魔法陣が三つ現れると、魔法陣の先に爆炎が現れ一直線に伸びていき、掌の先に居る食人鬼を爆炎が包む。
「ゴァアアアア!!」
爆炎に包まれた食人鬼は叫ぶと、攻撃してきたアレク達の方へ向きを変えて歩いて来る。
アレクは口を開く。
「よし! こっちに引き付けたぞ! ユニコーン小隊、戦闘用意!」
「おおっ!」
半時ほどの戦闘でアレク達ユニコーン小隊とルドルフ達グリフォン小隊は、それぞれ食人鬼を倒すことが出来た。