第二百十一話 裸エプロン、愛されている実感
アレクは、全裸にエプロンを付けて料理するルイーゼの後姿から目を離すことが出来なかった。
アレクが眺めていると、台所の奥の物を取ろうとルイーゼが手を伸ばして前のめりになる。
「んしょ・・・っと」
アレクは立ち上がって台所に行くと、ルイーゼの後ろから耳元で囁く。
「ルイーゼ。そんな恰好して・・・」
ルイーゼは振り向きながら言い訳する。
「だって、油が跳ねると火傷しちゃうから・・・」
アレクは、後ろからルイーゼを抱き締める。
「もぅ・・・。できるまで待てないの?」
「・・・無理だ」
アレクは、ルイーゼが温めていたスープ鍋を魔導石のコンロから外すと、ルイーゼを抱き上げて台所から暖炉の前に連れて行き、ソファーに寝かせて抱く。
交わりを終えた二人は、毛布にくるまって暖炉の火に当たりながら愛し合った余韻に浸る。
唐突にルイーゼのお腹が空腹に鳴る。
二人とも顔を見合わせるが、恥ずかしさでルイーゼは赤面して俯く。
「そう言えば、食事作ってた最中だったな。・・・オレが作るよ。ルイーゼは、そこで休んでいて」
アレクはそう言うと、ルイーゼを抱いて横になっていたソファーから起き上がって台所に向かい、ルイーゼが途中までしていた料理を続ける。
ルイーゼは、ソファーから動けなかった。
半時ほどでアレクは出来上がった料理を手にルイーゼの待つ暖炉の前にやって来る。
「野営訓練の時に作ったスープと黒パンだけど」
「ありがとう」
ルイーゼはアレクと一緒に毛布にくるまり、煮込んで柔らかくなった干し肉の入りのスープに黒パンを浸して食事しながら、甲斐甲斐しく動けない自分の世話をしてくれる傍らのアレクの姿を見詰めて考えていた。
(アスカニア大陸に冠たるバレンシュテット帝国)
(その帝国第二皇子のアレクが、騎士爵家の娘のメイドでしかない私のために料理して食事を用意してくれた)
(こんなこと、世界の誰にも想像できないだろう)
(帝国第二皇子がメイドに食事を用意するなんて)
(・・・私、愛されてる)
(アレクから、愛されているんだ)
ルイーゼは、アレクが甲斐甲斐しく作ってくれた料理を食べ、身分の差を越えてアレクから愛されている事を実感すると、目に涙が浮かんでくる。
アレクは、涙ぐむルイーゼを見て心配する。
「ルイーゼ? 大丈夫?」
ルイーゼの頬に大粒の涙が数滴零れたが、笑顔で答える。
「ううん。嬉しいの」