第二百九話 戦況の推移
-- ゴズフレズ王国 北部 城塞都市ティティス 市庁舎
ジカイラとヒナは、ジークに呼び出され市庁舎の市長室に向かっていた。
二人が市長室を訪れると、ハロルドとネルトン、ジークの三人が市長室で二人が来るのを待っていた。
二人が市長室の席に着くと、ネルトンは地図を広げて市長室の壁に貼り出して軍議を始める。
ネルトンは地図を指し示しながら戦況を説明し始める。
「揃いましたな。では、軍議を始めさせて頂きます。・・・カスパニアは、我が国の三つの都市、北部のティティス、中部のブナレス、南部のリベを占領して拠点にしていましたが、北部にある、このティティスは我々が奪回することが出来ました。特筆するべき点として、ティティスにスベリエ王国の艦隊が六万の軍勢と共に居ります。次は如何致しますか?」
ジカイラは口を開く。
「何事も無ければ、当初の予定通り、中部のブナレスに軍を進めるべきだ。だが、スベリエの飛行艦隊がハフニアの王城を襲撃したと聞いた。スベリエの動きが不透明だ。奴らは、どう動くと思う? 何か情報はあるか?」
ジークは口を開く。
「スベリエの飛行艦隊による王城襲撃の目的は、ハフニアの王城に居たカリン王女の拉致だ。幸い、カリン王女は、スベリエに拉致される事無く、私が保護して、現在、飛行戦艦ニーベルンゲンにいる。カリン王女の拉致に失敗したスベリエの飛行艦隊は、奴らの王都ガムラ・スタンに引き揚げたようだ」
ハロルドは口を開く。
「皇太子殿下。申し訳無いが、カリンを引き続き殿下の飛行戦艦で預かって貰えないだろうか? 再びスベリエがカリンを狙ってくるかもしれん」
ジカイラはハロルドの意見に賛同する。
「ジーク。出来るなら、ハロルド王がおっしゃられた通りに、そうした方が良い。・・・ニーベルンゲンの中は、ある意味、世界一安全だ。この世界で、ニーベルンゲンを墜とせるとしたら、『金鱗の竜王』か、『禁呪・隕石落とし』くらいだろう」
ジークは苦笑いしながら、ハロルドとジカイラの提案を承諾する。
「・・・判った。ハロルド王とジカイラ中佐の言うとおり、カリン王女の身柄は、私がニーベルンゲンで預かるとしよう。・・・ただ、私は、一度、帝都に戻らねばならない。カリン王女との婚約と婚姻について、父上に裁可を仰ぐ必要があるので」
事情を知らないジカイラとヒナはジークの答えに驚き、ジカイラはジークに尋ねる。
「ジーク。また結婚するのか? これで何人目の女だ?」
「四人目の妃です」
ジークは苦笑いして答えた後、疑問を口にする。
「・・・ところで、王城を襲撃したスベリエの飛行艦隊の地上部隊は、食人鬼を連れていた。・・・竜王山脈の北側、このゴズフレズやスベリエといった北部地域には、食人鬼が生息しているのか? アスカニア大陸には、食人鬼は生息していないと聞いているが」
ジークの話を聞いた一同は驚く。
「「食人鬼!?」」
「「食人鬼だと!?」」
ハロルドは答える。
「いや。ゴズフレズを含む北部地域に食人鬼がいるなど、ついぞ聞いた事が無い。初耳だ」
ネルトンも同様であった。
「私も初めて聞きました。それに、スベリエ軍が食人鬼を連れていたという話も初めてです」
ハロルドは続ける。
「食人鬼は、アスカニア大陸には生息していないと思う。奴らは、新大陸には生息していると聞き及んでいるが」
ジカイラの表情は険しいものになる。
(・・・『食人鬼』!?、『新大陸』??。・・・まさか、またダークエルフが絡んでいるのか?)
ジカイラの脳裏に、港湾自治都市群とトラキアでダークエルフと戦った記憶が甦る。
(・・・まぁ、確証が無い事を悩んでも、しょうがない)
ジカイラは口を開く。
「この際だ。海上戦はスベリエにやってもらおう。もっとも、奴らは奴らで、勝手に動くだろうが。・・・教導大隊は、飛行空母ユニコーン・ゼロで先行して中部のブナレスの前線に向かう。ハロルド王とネルトン将軍は軍勢を率いて陸路で中部のブナレスの前線に向かって欲しい」
ジカイラの案にネルトンは賛成する。
「判りました。我が軍は陸路でブナレスの前線に向かいます。前線で合流しましょう」
軍議により、対カスパニア戦争の第二段階となるブナレス奪回の作戦方針が決まった事によって、一同は直ぐに行動に移していく。
ジカイラとヒナは、市庁舎から揚陸艇で飛行空母ユニコーン・ゼロに戻る。
ジカイラとヒナは、飛行空母ユニコーン・ゼロに戻ると、アレク達を含む教導大隊の小隊長達を集めて、軍議でのブナレス奪回のおおまかな作戦方針について説明する。
ジカイラは口を開く。
「本艦の前線到着は、七時間後の予定だ。前線に到着したら、強行偵察を行う。・・・本格的な戦闘は、ゴズフレズ軍が前線に到着する二~三日後になりそうだ。各小隊、準備して、それまで休んでおけ」
「了解しました」
アレク達の乗る飛行空母ユニコーン・ゼロは、進路をゴズフレズ王国中部の都市ブナレスに向け、航行を始める。




