第二百四話 スベリエ飛行艦隊、王城襲撃
--ゴズフレズ王国 王都ハフニア 帝国軍総旗艦ニーベルンゲン
ソフィアと一緒に自室で寛いでいたジークの元に伝令の兵士がやって来る。
兵士はドアをノックすると、ドア越しに用件を告げる。
「恐れ入ります。殿下。アルケット艦長が『至急、艦橋にお越し願いたい』との事です」
「判った。すぐ行く」
傍らのソフィアはジークに告げる。
「私も行きます」
二人は、兵士の後を付いて艦橋へと向かう。
二人が艦橋へ赴くと、艦長のアルケットはジーク達を出迎える。
「殿下。お休みのところ申し訳ありません」
「どうした?」
「あれをご覧下さい」
アルケットが艦橋の窓から指し示す先には、海上の青空に浮かんでいるひつじ雲の合間に、スベリエ王国の飛行艦隊がいた。
望遠鏡で飛行艦隊を眺めながら、ジークは口を開く。
「『白い獅子』の紋章? スベリエの飛行艦隊か。・・・こちらへ向かっているな」
アルケットはジークに尋ねる。
「いかが致しますか?」
ジークは指示を出す。
「総員、警戒態勢! 戦闘に備えろ! ・・・ただし、こちらからは手を出すなよ? 帝国は、中立を宣言している」
アルケットは一礼して答える。
「了解しました」
艦長のアルケットに指示を出したジークが、引き続き望遠鏡でスベリエ王国の飛行艦隊を見ていると、旗艦らしき先頭の飛行船の大砲がチカチカとオレンジ色に光る。
ジークは、思わず口を開く。
「撃った!? まさか?」
傍らのソフィアとアルケットは驚く。
「えっ!?」
次の瞬間、ゴズフレズの王城の四隅にある見張り塔の一つが爆発する。
見張り塔が爆発する様子を望遠鏡で見ながら、ジークが口を開く。
「馬鹿な! スベリエは、ゴズフレズの宗主国だろう? 従属する同盟国の王城を砲撃するとは! どういうつもりだ!?」
スベリエ王国の飛行艦隊は、ジークの乗るニーベルンゲンには砲撃せず、単縦陣を組んでゴズフレズの王城を砲撃しながら迫っていた。
スベリエ飛行艦隊を見ながらジークが呟く。
「・・・大型戦闘飛行船が三十隻。・・・こちらには攻撃してこない。・・・奴らの狙いはゴズフレズの王城か! ソフィア、戦闘準備をしろ! アストリッドとフェリシアにも伝えろ!」
ソフィアは、嬉しそうに答える。
「はっ!」
ジークと三人の妃達が戦闘準備を終えて艦橋に戻ると、ちょうどスベリエ王国の飛行艦隊がニーベルンゲンの脇を通過するところであった。
アルケット艦長は口を開く。
「殿下! スベリエ王国の飛行艦隊より手旗信号です。『本空域は戦闘空域となった。中立国の艦艇は、すみやかに退避されたし』とのことです」
ジークは指示を出す。
「艦長。できるだけ回答を引き延ばせ」
アルケット艦長は答える。
「判りました」
ジークは呟く。
「ゴズフレズ指導層の世論が帝国寄りになったので、武力行使に踏み切ったか!」
再びジークが望遠鏡でスベリエ王国の飛行艦隊を見ていると、先頭の旗艦がゴズフレズの王城の四隅にある見張り塔に接舷し、旗艦から兵士達が王城の見張り塔に乗り込んで行く様子が見える。
(スベリエの兵士達が王城に乗り込んで行くだと? ・・・スベリエの目的は、王族の拉致か!」
ジークは口を開く。
「ソフィア! 私と一緒に出るぞ! アストリッドとフェリシアは、飛空艇でついてこい!」
「はい!」
ジーク達四人は、ニーベルンゲンの後部甲板に向かうと、ジークとソフィアはソフィアの飛竜に、アストリッドとフェリシアは飛空艇に乗る。
「行くぞ!」
ジークの号令でソフィアは飛竜の手綱を握って指示すると、後部甲板から飛竜を舞い上がらせ、アストリッドは飛空艇を離陸させる。
ソフィアの機嫌が良い事を見て取ったジークはソフィアに話し掛ける。
「ソフィア。随分と機嫌が良いな」
ソフィアは笑顔で答える。
「私は、ヒラヒラしたドレスよりも、この竜騎士の鎧の方が好きですから」
そう言うと、軽く握った右手で真紅の竜騎士の鎧の胸を叩いて見せる。
ミスリルで作られ強い魔力が宿るソフィアの竜騎士の鎧に、ソフィアは重さを感じる事も無かった。
ジーク達の乗る飛竜と飛空艇は、飛行戦艦ニーベルンゲンの後部甲板を飛び立ち、ゴズフレズの王城へと降下していった。
--ゴズフレズ王国 王城
ゴズフレズの王城では、飛行船から見張り塔へ侵入してきたスベリエ兵と王城を守備するゴズフレズ兵が死闘を繰り広げていた。
ゴズフレズの斧戦士達は屈強であったが、ハロルド王が軍勢を率いて前線に向かったため、王城には僅かな兵しか残っておらず、次第にゴズフレズ軍はスベリエ軍に押されていく。
事情が判らないカリンは、王城に時折響き渡る砲声と爆発音に怯えながら、自室のベッドに腰掛けていた。
カリンの部屋のドアが、けたたましくノックされ、聞き慣れた声で呼び掛けられる。
「姫様! 姫様!」
「爺! 何事です!?」
カリンが部屋のドアを開けると、老執事が二人の兵士と共に立っていた。
老執事はカリンに告げる。
「姫様、一大事です! スベリエ王国軍の襲撃です!」
老執事の言葉にカリンは驚く。
「スベリエが!? なぜ?」
老執事は答える。
「判りません。ですが、スベリエ軍が迫っています。安全な場所へ参りましょう。どうぞこちらへ」
廊下で待っていた兵士の一人は老執事に告げる。
「奴ら、食人鬼を連れているようです。まもなくここにも来ると思われます」
四人が廊下に出揃うと、廊下に食人鬼の咆哮が轟き、四人に聞こえてくる。
「ゴァアアアアア!」
食人鬼の咆哮を聞いた老執事の顔が引きつり、上ずった声でカリンに告げる。
「姫様! 急ぎましょう!」
カリンは自室を出て老執事と二人の兵士と共に、早足で王城三階の離れにある礼拝堂に向かう。
礼拝堂は、王城の三階の庭園区画の一角にあり、ステンドグラスの天井と天井の傍に窓があるだけで出入口は一か所だけの石造りの堅牢な建物であった。