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第二百三話 戦争税と強硬手段

--数日後。


 ティティス港に寄港したスベリエ王国艦隊の旗艦を務めるスベリエ・ガレオンから軍人風の一団が埠頭に下船していくと、あらかじめ手配されていた馬車に分乗してティティスの市庁舎へ向かって行く。


 先頭の馬車に乗っているのは、赤の縁取りが施されているスクウェアカットされた黒地のジャケット、縁が飾られたトリコーン(三角帽子)被る軍人風の男。


 スベリエ王国軍六万人と、その艦隊を率いる司令官オクセンシェルナ伯爵とその従者達であった。


 スベリエ王国の国王は、この軍人然とした伯爵を重用していた。






 市庁舎の市長室には、ハロルド王とネルトン将軍、ジカイラとヒナがおり、次の作戦計画について打ち合わせしていた。


 ゴズフレズ兵はスベリエ王国の一行の来訪をハロルドに報告する。


「失礼します。陛下。スベリエ王国艦隊より、オクセンシェルナ伯爵がお見えです」


「ほう? 通せ」


 ゴズフレズ兵がスベリエ王国の一行を市長室に案内する。


 市長室に入ったオクセンシェルナ伯爵は、恭しく一礼すると、ハロルドに話し掛ける。


「お久し振りですな。ハロルド王陛下。壮健そうで何よりです」


 ハロルドは警戒した眼差しでオクセンシェルナ伯爵を睨む。


「・・・オクセンシェルナ伯爵。要件を伺おう」


 オクセンシェルナ伯爵は、威圧するように高圧的に話す。


「我等がスベリエ王国は、(いにしえ)の盟約に従い、ゴズフレズを救援するため軍を動かした。先ほどもティティス沖でカスパニア艦隊を撃破してきたばかりだ。ゴズフレズ王国においては、(いにしえ)の盟約に従い、早急に『戦争税』の支払いをお願いしたい」


 ハロルドは怪訝な顔をする。


「戦争税だと!?」


 オクセンシェルナ伯爵は、怪訝な顔をしているハロルド王に羊皮紙の書簡を手渡す。


 羊皮紙の書簡の封印を切り、文書を読んだハロルド激怒する。


「馬鹿な! 我が国は、列強と呼ばれるカスパニアを相手に戦争中なのだぞ!? その我が国に、こんな莫大な金額の戦争税など、払える訳が無いだろう!」


 オクセンシェルナ伯爵は、激怒するハロルドの気迫に負けじと顔を近づけて睨み返して告げる。


「戦争税が払えないなら、カリン王女をこちらでお預かりする。寛大な国王陛下は『戦争税が払えないなら、代わりにカリン王女を王太子殿下の妃に』とお考えだ」


 スベリエ王国の王太子アルムフェルトは、好色な遊び人として悪名高い人物であった。


 ハロルドは、『戦争税の担保に一人娘のカリンを差し出せ』と告げられ激昂する。


「なんだと!?」


「ほほう? ゴズフレズ王国は、スベリエ王国との(いにしえ)の盟約を違えるつもりか? 」


 そう告げると、オクセンシェルナ伯爵は、鼻先でジカイラとヒナの方を指し示す。


「・・・それに、国王陛下は、随分と帝国の方々と親しいようですな」


 オクセンシェルナ伯爵と目が合ったジカイラとヒナは、伯爵を睨み返す。


 




 緊迫した空気がひと呼吸ほど続くと、沈黙を破ったのは、オクセンシェルナ伯爵であった。


「ゴズフレズ王国が戦争税を支払うまで、カリン王女に我らが王都ガムラ・スタンに滞在して頂く。今頃、ハフニアにスベリエの飛行艦隊が迎えに出向いている事だろう」


 オクセンシェルナ伯爵の言葉を聞いたハロルドは、『しまった!』という焦りの色が顔に出る。


 ハロルド王自身が王都ハフニアの軍勢を率いて前線に出向いていたため、カリン王女の居る王都ハフニアには、僅かな兵しか残っていなかった。


 ハロルドの顔に焦りの色を見て取ったオクセンシェルナ伯爵は、更に高圧的に話を続ける。


「喜べ。カリン王女は、王太子殿下の妃になる。それと、戦争税の支払いは、一括でも、分割でも良い。金貨でなくても、穀物や家畜といった物納でも良い。・・・払う気になったら、大使のヒッター子爵に知らせたまえ。それでは、失礼する」


 話を終えたオクセンシェルナ伯爵は、従者を引き連れて市長室を後にする。






 オクセンシェルナ伯爵が居る時は、平静を装っていたハロルドは焦り出す。


「くそっ! ハフニアには、ほとんど兵が残っていない。味方だと思っていたスベリエに、ハフニアを! カリンを狙われるとは! 迂闊(うかつ)だった! ・・・今から兵を率いてハフニアに戻っても、間に合わない! くそっ! くそっ!」


 ヒナが血相を変えて焦るハロルド王を心配そうに見詰めていると、ジカイラは不敵な笑みを浮かべながら話し出す。


「陛下。何も心配ありませんよ」


「・・・黒い剣士殿!?」


「・・・ジカさん!?」


 驚く二人に、ジカイラはおもむろに口を開く。


「帝国には、オレと違って『頭のキレる奴』ってのがいまして。いつも二手も三手も先を読んで、先手を打っているんですよ」


 ジカイラの言葉を聞いた二人は驚く。


「なんと!?」


「えっ!?」


 ジカイラは苦笑いしながら続ける。


「・・・もっとも、『頭のキレる奴』って言っても、一人は『メガネのおしゃべり』で、もう一人は『女を孕ませて十六人も子供を産ませた色男』ですが。・・・カリン王女の事は心配しなくて大丈夫でしょう」


 ジカイラは、ラインハルトからの知らせで知っていた。


(ハフニアには、あいつがいる。ジークがな)






--バレンシュテット帝国 皇宮


 皇宮にも『ゴズフレズ王国軍勝利、ハフニア奪回』の報は届いていた。


 皇帝の私室でラインハルトとナナイ、ハリッシュの三人が打ち合わせをしていると、ラインハルトとハリッシュが二人揃って、くしゃみをする。


「ハークション!」


 メガネをかけ直して、鼻水をすすりながらハリッシュが口を開く。


「・・・誰かが私の噂をしているようですね」


 ラインハルトもハリッシュと同じように鼻水をすすりながら答える。


「・・・私もだな」


 ナナイは二人を心配する。


「二人とも、大丈夫? 冬が近づいて冷えてきているから、風邪を引かないようにしてね」


 

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