第二百話 ティティス夜襲、スベリエ王国軍到着
アレク達が飛空艇で飛行空母ユニコーン・ゼロから出撃して半時ほどで城塞都市ティティスに到着する。
飛空艇からティティスが肉眼で見える距離に差し掛かったアレク達は、闇に浮かび上がって来たティティスの姿に目を見張る。
夜の帳の中、ティティスの街の至る所から立ち昇る黒い煙は、街が炎上する光を反射して妖しく光っていた。
街の中では、未だにナディアが召喚したストーンゴーレムとカスパニア軍と戦闘していた。
城壁と城門、見張り塔には煌々と篝火が焚かれており、通常、外敵に備えて街の外側を向いている大砲が、全て街の内側の方に向けられており、カスパニア軍と戦闘を続けるストーンゴーレムにその砲火を浴びせていた。
カスパニア軍の大砲は、溶けた鉄を鋳型に流し込んで球体に造られた砲丸を撃ち込むものであった。
大砲で撃ち込まれた砲丸がストーンゴーレムに当たっても、岩でできた身体にめり込むだけで大きなダメージにはならなかった。
カスパニア軍は、縄をストーンゴーレムの足に絡めて動きを封じようとしたものの、簡単に引き千切られていた。
次に船舶係留用のもやいでストーンゴーレムの足を縛ろうとしたが、これも簡単に引き千切られていた。
最後に鉄鎖でストーンゴーレムの足を縛ろうとするが、ストーンゴーレムは、これも簡単に引き千切っていた。
ストーンゴーレムは極めて頑丈であり、腕力も強力であるため、帝国では攻城や運河建設などの大規模土木工事にも用いられていた。
カスパニア軍は、ストーンゴーレムの動きを封じる事を諦め、城壁に備え付けてある大砲の向きを変え、大砲で攻撃を始めたのであった。
アルは、カスパニア軍とストーンゴーレムとの戦闘を見て口を開く。
「スゲェな! まだ、戦闘が続いていたのか!」
ナタリーも呟く。
「街が・・・燃えてる!」
ルイーゼは街の東側の城壁を指差して叫ぶ。
「アレク! 見て!」
アレクは口を開く。
「ゴズフレズ軍だ!」
ティティスの東側の城壁には、ハロルド王に率いられたゴズフレズ軍が攻城戦を始めていた。
城壁に無数の縄梯子が架けられ、ゴズフレズ軍の屈強な戦士達は城塞都市に攻め込んでいく。
ティティスの壁外に陣取っていた人狩り達とカスパニア軍は、ルイーゼによる将軍暗殺によって指揮官不在となっていた事もあり、ゴズフレズ軍による夜襲に対して為す術も無く、敗走していた。
アレク達は、飛空艇で編隊を組んだまま、ティティス市街の上空を旋回する。
ティティスの街の見張り塔がアレク達の存在に気付き、固定弓で攻撃してくる。
大きな鉄の矢が飛空艇目掛けて飛んでくる。
アレク達は、編隊を散開させて固定弓からの攻撃を回避する。
アレクは口を開く。
「ルイーゼ! 見張り塔を叩くぞ!」
「了解!」
アレクは、飛空艇の正面に見張り台が来るように機体を操縦する。
「距離、千二百! ・・・主砲、発射用意!」
アレクは、飛空艇の主砲の照準を見張り台に定め、主砲のトリガーに指を掛ける。
「発射!」
アレクはトリガーを引き、攻撃命令を下す。
アレクとルイーゼの乗る飛空艇の主砲から発射された二発の砲弾は、二つの光の弾となって真っ直ぐに飛んで行き、見張り台に命中する。
見張り台は大音響と共に爆発を起こし、二基の固定弓もカスパニア兵ごと木っ端微塵に吹き飛ぶ。
見張り台を破壊したアレクは機体を引き起こすと、小隊の僚機が集まって編隊を組み直し、ティティス上空を旋回する。
ルイーゼはアレクに告げる。
「アレク! 教導大隊が来たわ!」
アレクがルイーゼが指し示す上空を見ると、アレク達の上空にジカイラが率いる複数の飛空艇の編隊が現れる。
それらの飛空艇は編隊ごとに高度を下げていくと、城壁の上に設置されている大砲を攻撃し始める。
飛空艇からの砲撃によって、一門、また一門とカスパニア軍の大砲が破壊されていく。
ほどなく東側の城壁にゴズフレズ軍旗が掲げられる。
トゥルムは、掲げられた軍旗を見て口を開く。
「どうやら、ゴズフレズ軍が東側の城壁を制圧したようだな」
エルザは答える。
「そうみたいね」
やがて東の城壁の城門が開かれると、壁外のゴズフレズ軍が怒涛のようにティティス市街へ殺到していく。
ティティス市街地でカスパニア軍とゴズフレズ軍の死闘が始まる。
カスパニア軍は、市庁舎前の大通りにバリケードを構築していた。
ネルトンは傍らのハロルドに告げる。
「陛下! カスパニア軍のバリケードです!」
ハロルドは鼻で笑う。
「フッ! あのようなもので我わの突撃を阻めるものか! ネルトン! 陣形を整えろ! 突撃するぞ!」
ネルトンは、空を見上げて告げる。
「陛下! お待ち下さい! 教導大隊の飛空艇です!」
ハロルド王は、ネルトンが指し示す空を見上げると、アレク達の飛空艇が編隊を組み、対地攻撃のため大通りの上空を低空飛行に入っていた。
アレクは指示を出す。
「距離八百! 目標、カスパニア軍陣地! 個別照準! 各個射撃!」
ルイーゼは、手旗信号でアレクの指示を僚機に伝える。
アレクは、号令と共にトリガーを引く。
「撃て!」
アレク達の飛空艇の主砲から次々と発射された砲弾は、真っ直ぐに飛んで行って命中し、爆発と共にカスパニア軍のバリケードを破壊する。
「ウォオオオオ!!」
ゴズフレズ軍の戦士達は、自分達が居る大通りの上空を低空飛行して通り過ぎていくアレク達の飛空艇の編隊に向けて戦斧を掲げ、歓声を上げる。
その様子を見たハロルドは号令を掛ける。
「今だ! 行くぞ! 皆の者、余に続け! 全軍、突撃!」
ハロルドが陣頭で指揮を取るゴズフレズ軍は奮戦し、対して指揮官不在のカスパニア軍は、随所で敗退していった。
空から教導大隊の飛空艇がカスパニア軍に砲撃を加え、ゴズフレズ軍の前進を助けていく。
--明け方。
ゴズフレズ軍は市庁舎を制圧し、市庁舎にゴズフレズ国旗が掲げられる。
指揮官不在のカスパニア軍は総崩れとなり、港から船で沖に退却していく。
カスパニア軍の帆船であるキャラックやキャラベルは、カスパニア兵を甲板の上まで満載して、ティティス港から沖へと逃げ出していく。
アレク達は、朝靄が立ち込めるティティス港から、沖に向かって敗走するカスパニア軍船舶を空から見送っていた。
アレクは呟く。
「ゴズフレズ軍の勝ちだな」
ルイーゼは答える。
「カスパニアの船、甲板まで逃げる兵隊で一杯ね」
アレクは、ティティス港沖を飛行する飛空艇から、カスパニア軍が船で敗走していく沖の朝靄を眺めていた。
突然、朝靄の中が雷のように連続して光り出すと、轟音と共にカスパニア船舶が爆発して轟沈する。
アレクは驚く。
「まさか! 砲撃!?」
アレクの言葉を聞いたルイーゼも驚く。
「どこ!? あの靄の中から?」
やがて朝靄の中から大艦隊が現れる。
アレクは、大艦隊の旗艦が掲げる旗を見て目を見張る。
「白い獅子の紋章!? スベリエ王国軍の艦隊だ!」
ルイーゼはアレクの言葉を重ねて口にする。
「・・・スベリエ王国」
スベリエ王国の王都ガムラ・スタンから出撃したスベリエ・ガレオン二十隻を主力とするスベリエ艦隊百三十隻、兵力六万人を擁するスベリエ王国軍がティティス沖に到着したのであった。