第百八十二話 空襲、野戦陣地
アレク達教導大隊の各小隊の編隊は、ゴズフレズの大空をカスパニア軍の野戦陣地に向かって飛んでいた。
程なく、平野の広い範囲で土煙が立ち昇っているのがアレク達に見えてくる。
アレクは呟く。
「・・・土煙!?」
ルイーゼは叫ぶ。
「アレク! 戦闘よ! ゴズフレズ軍とカスパニア軍が戦闘中!」
アレクは呟く。
「ゴズフレズ軍の陽動作戦だな」
戦闘の様子を見たルイーゼは口を開く。
「・・・凄い」
ネルトン将軍率いるゴズフレズ軍の斧戦士達は、個体戦力としてはカスパニア軍の戦士や傭兵よりも強力であり、カスパニア軍はゴズフレズ軍の三倍以上の軍勢であったが、ネルトン将軍率いるゴズフレズ軍は一歩も引かず奮戦していた。
教導大隊の編隊は、ゴズフレズ軍とカスパニア軍が戦闘している上空を通過していく。
程無くアレク達の前にカスパニア軍の野戦陣地が見えてくる。
教導大隊の編隊は、野戦陣地の上空を大きく旋回する。
広大な野戦陣地の敷地内には、無数の黒い荷台の奴隷輸送車が所狭しと並べられており、カスパニア軍の人狩りに捕らえられた人々の多さを物語っていた。
野戦陣地は、周囲を木の柵で囲んでおり、所々に物見櫓が設けられ、野戦陣地の内外を監視しているようであった。
地上の野戦陣地を見たナタリーは呟く。
「奴隷輸送車が、こんなにたくさん・・・」
アルも口を開く。
「いったい、何台あるんだ・・・? 凄いな! まるで鉄道車両基地だぜ!」
アレクは口を開く。
「ルイーゼ、各機へ伝達。『ユニコーン小隊、対地攻撃用意。第一撃は、物見櫓を狙う』」
「了解!」
ルイーゼは、手旗信号で僚機にアレクからの指示を伝える。
ルイーゼの手旗信号を見たアルは口を開く。
「『物見櫓を狙う』か・・・。了解! 主砲発射タイミング、隊長機ユニコーン・リーダーに同調!」
野戦陣地上空を大きく旋回したユニコーン小隊の各機は、地上攻撃に向けて低空飛行に入る。
アレクは口を開く。
「距離、二千! ・・・主砲、発射用意!!」
アレクは、飛空艇の主砲の照準を野戦陣地の物見櫓に定める。
ルイーゼは、右手に持つ手旗を高く掲げる。
アレクはトリガーを引き、攻撃命令を下す。
「今だ! 撃て!」
ルイーゼが掲げる手旗が、勢いよく振り下ろされる。
編隊を組むユニコーン小隊の四機の飛空艇から一斉に主砲が発射され、八発の砲弾が野戦陣地の物見櫓を目指して真っ直ぐに飛んで行く。
発射された砲弾は物見櫓に二発づつ命中し、轟音と共に四基の物見櫓が次々に爆発する。
野戦陣地の指揮所の半鐘が激しく鳴らされ、金属音と共に叫び声が野戦陣地に響く。
「空襲!」
しかし、半鐘の金属音も叫び声も、すぐに指揮所の爆発音によって消える。
ルドルフ達、グリフォン小隊が放った飛空艇の主砲による第二撃であった。
ユニコーン小隊、グリフォン小隊に続いて、フェンリル小隊が飛空艇の主砲による第三撃を放ち、野戦陣地に設置されている大砲や投石器や固定大弓を破壊していく。
続いてセイレーン小隊が第四撃を放ち、木造の倉庫群を破壊していく。
アレク達が野戦陣地の上空を大きく旋回していると、木造の倉庫群の大爆発と共に大きな黒いきのこ雲が立ち昇り、衝撃波が飛空艇に届く。
アレクは機体の姿勢を立て直すと、ルイーゼに尋ねる。
「うおっ!? どうしたんだ?」
ルイーゼは答える。
「火薬庫が爆発したみたい! 凄い黒煙・・・」
カスパニア軍の野戦陣地は、教導大隊の空襲による波状攻撃で大混乱に陥っていた。
兵士達は次々に叫ぶ。
「何なんだ一体!?」
「敵襲!」
「敵だと!? どこから!?」
「空だ!」
「空!?」
兵士達が空を見上げると、教導大隊の飛空艇が小隊毎に綺麗に編隊を組み、野戦陣地の上空を旋回している様子が見えた。
アレク達ユニコーン小隊は旋回を終え、低空飛行に入る。
ルイーゼは叫ぶ。
「アレク! どうするの!?」
アレクは答える。
「奴隷輸送車の車列とカスパニア軍陣屋の間に強行着陸して奴隷輸送車を確保する! 手旗信号を頼む! 『車列と陣屋の間に強行着陸! 奴隷輸送車を確保せよ!』」
「任せて!」
ルイーゼは手旗信号で僚機に伝える。
アレク達ユニコーン小隊は、野戦陣地の上空を奴隷輸送車の車列に向かって、超低空飛行に入る。
ユニコーン小隊は、奴隷輸送車の車列とカスパニア軍陣屋の間に飛空艇を強行着陸させると、飛空艇から飛び降りる。
アレクは他の小隊メンバーに向かって叫ぶ。
「みんな、行くぞ!」
ルイーゼは答える。
「了解!」
アルは、軽口を叩く。
「いよいよだぜ!」
ナタリーも口を開く。
「うん!」
ユニコーン小隊の八人は、カスパニア軍の陣屋に向かって陣形を整え、戦闘態勢を取る。
カスパニア軍の陣屋のテントから、わらわらとカスパニア軍兵士や傭兵達、人狩り達が現れてくる。
アレクは叫ぶ。
「ナタリー! やれ!」
「了解!!」
アレクの指示を受けたナタリーは、現れたカスパニア軍兵士や傭兵達、人狩り達に向けて手をかざし、魔法を唱える。
「火炎爆裂!!」
ナタリーの掌の先に魔法陣が三つ現れると、魔法陣から現れた爆炎がカスパニア軍に向かって一直線に進んで行き、爆炎で包む。
「うぁああああ!」
「ぎゃあああ!」
ナタリーの魔法で火達磨になった者達が、地面を転がり回る。
ドミトリーは強化魔法をアレク達に掛ける。
「筋力強化! 装甲強化!」
アレクは、ゾーリンゲン・ツヴァイハンダーを鞘から抜き、迫り来るカスパニア軍に向けて構える。
飛空艇で空からアレク達が地上での戦闘開始した様子を見ていたルドルフが叫ぶ。
「ユニコーンが地上戦に入った! 我々も地上戦に突入する!」
ブルクハルトは口を開く。
「了解!」
ルドルフは続ける。
「手旗信号だ! 『グリフォン小隊全機、強行着陸! グリフォンは、ユニコーンの左翼に展開! フェンリルは、右翼を頼む!』」
ブルクハルトが手旗信号で僚機に伝えると、グリフォン小隊もユニコーン小隊の隣に強行着陸する。
程なくフェンリル小隊もアレク達の隣に強行着陸してくる。
フェンリル小隊の隊長フレデリクは軽口を叩く。
「どうやら、間に合ったな」
フレデリクの言葉にエマが頷く。
「はい!」
ユニコーン、グリフォン、フェンリルの三つの小隊が陣形を整えると、カスパニア軍の陣屋のテントから続々と現れるカスパニア軍の兵士や傭兵達、人狩り達が三つの小隊に向かって迫り来る。
カスパニア軍と教導大隊の死闘が始まろうとしていた。