第十八話 救出
--南岸 アレクとルイーゼの遭難地点・
アレクの腕に抱かれながら眠っていたルイーゼが目を覚ます。
「……アレク?」
「ルイーゼ。起きたのかい?」
「ええ」
「眠れた?」
「うん。ぐっすり寝てた」
笑顔で答えるルイーゼの言葉を聞いたアレクも笑顔を見せる。
「はは」
「あは」
ルイーゼは、アレクの腕の中から周囲の景色を見回す。
雲ひとつ無い澄み切った紺碧の青空。
白い砂浜。
寄せては退く小波の音。
ルイーゼが呟く。
「……綺麗なところ」
「そうだね」
ルイーゼは、頬を赤らめモジモジしながら口を開く。
「あの……アレク……その……当たっているんだけど」
「ごめん」
ルイーゼは、恥ずかしそうにアレクに告げる。
「でも……ちょっと……嬉しいかな」
「えっ?」
「アレクは皇宮で、他のメイドの子たちに色々と悪戯していたでしょ?」
「うん」
「けど、私には全然、そういうこと無かったから、『私は、女の子として見られていないのかな』『私は魅力無いのかな』って、ずっと思ってた」
「そうなんだ」
「けど、アレクがこうなっているってことは……ね」
そこまで言うと、ルイーゼは眠っていた時のように、再びアレクに体を預け、微笑み掛ける。
甲高いプロペラの風切り音が空に響く。
アレクとルイーゼが空を見上げると、四機の飛空艇が編隊を組んで上空を飛んでいた。
アレクが口を開く。
「ジカイラ教官達だ!」
ルイーゼも口を開く。
「小隊の皆も!」
四機の飛空艇は、砂浜に係留してあるアレクとルイーゼの飛空艇を見つけたようで、二人の上空を大きく旋回して降下してくる。
やがて、四機の飛空艇は、海上に着水して二人のいる砂浜に止まる。
飛空艇からジカイラとヒナ、小隊の仲間たちが飛空艇から降りて二人の元へやって来る。
ジカイラが口を開く。
「お前達! 無事か!?」
アレクは、二人が包まっていた毛布をルイーゼに掛けてやると、立ち上がってジカイラ達の元へ足早に歩いて行く。
「無事です! 教官!」
ジカイラは報告にやって来たアレクを見た後、簡易テントの下に座って、毛布に包まっているルイーゼに目を向ける。
ジカイラはアレクの肩に手を置くと、静かに告げる。
「良くやったぞ。アレク。女を守ってこそ、男だ」
ジカイラの言葉に驚いたアレクは、ジカイラの顔を見上げる。
アレクは遭難してジカイラに怒られると思っていたが、教官のジカイラは微笑んでいた。
小隊の仲間たちがアレクの元にやってくる。
アルが口を開く。
「アレク! 大丈夫か!?」
「ああ、大丈夫だよ」
教官のヒナと小隊の女の子たちがルイーゼのところへ行く。
ナタリーがルイーゼに話し掛ける。
「ルイーゼ、無事?」
「ええ」
エルザが大声でアレクたちの方に向かって叫ぶ。
「ホラ! 男はコッチ見ないの! さぁ、ルイーゼ。これに着替えて」
ルイーゼとナディアが天幕のように毛布を広げて、ナタリーがルイーゼに着替えを渡し、裸のルイーゼを着替えさせる。
ところが、毛布を持ったままのエルザとナディア、着替えを渡したナタリーの三人は、驚いた表情で赤面しながらアレクを見詰めていた。
正確には、アレクの下半身を。
女の子たちの異常に気が付いたアルが、その視線の先を追い、状況を理解する。
アルがアレクにそっと目配せして教える。
「……アレク」
「え!?」
アレクはパンツ一枚の姿であり、少し離れた場所からでも、それははっきりと視認できた。
アレクは慌てて赤面しながら、簡易テントの端に掛けてあった自分の制服のズボンを履く。
制服のズボンは少し湿っていたが、それどころではなかった。
ヒナが六分儀で正確に現在位置を測量してジカイラに報告する。
「現在位置は掴めたわ。二人の機体は、後で回収して貰いましょう」
「そうだな。じゃ、帰るとするか」
こうして、ジカイラとヒナの教官二人と、アレクとルイーゼの二人を加えたユニコーン小隊は、士官学校への帰途に着いた。
士官学校へ帰投したユニコーン小隊は、自分達の寮に戻った。
既に昼を過ぎていたため、八人は簡単な食事を済ませる。
遭難したアレクとルイーゼは、早い時間であったが入浴すると、それぞれ自分の部屋に戻って休む。
ルイーゼの部屋に小隊の女の子三人がやってくる。
エルザが口を開く。
「ルイーゼ! お見舞いよ! お見舞い!」
そう言うと、エルザは補給処で買ってきた果物が入った袋をルイーゼに差し出す。
「ありがとう」
「ルイーゼ。私が」
そう言うとナタリーは、エルザが持ってきた果物の袋からリンゴを取り出すと、ナイフで皮を剥いて切り、小皿に盛り付ける。
四人は、ナタリーが剥いたリンゴを摘みながら、遭難した時の事を話し始める。
アレクとルイーゼが遭難した時の状況や、二人で過ごした夜のことであった。
ナディアがうっとりと話す。
「恋人と二人で遭難して、一晩中、一緒に過ごすなんてロマンチックね~」
エルザがルイーゼに尋ねる。
「で。夜はどうしていたの?」
「簡易テントの下で、二人で毛布に包まっていたわ」
ナタリーが尋ねる。
「雨降っていたでしょ? 寒くなかった?」
ルイーゼが照れながら答える。
「……ずっと彼に抱かれていたから」
エルザがツッコミを入れる。
「二人とも裸で?」
「うん。制服は雨と海水で濡れちゃったし」
「『彼に抱かれていた』って言ってたけど……彼と……したの?」
「ううん。ただ、抱っこされていただけ」
「ふぅ~ん。でも、キスくらいは、したんでしょ?」
「何も……」
「そうなんだ」
ナタリーがルイーゼをフォローする。
「純愛ね~」
エルザがルイーゼを冷やかす。
「私は、ルイーゼがアレクと一晩中、エッチしていたんじゃないかと心配したのよ」
ルイーゼは苦笑いする。
「一晩中って……」
ナディアもルイーゼを冷やかす。
「私も。ルイーゼがアレクと一晩中、エッチしてたら、絶対、アレクの子供を妊娠しているだろうなと思った」
「ええっ!? そんな、キスもしていないのに、妊娠だなんて……」
ルイーゼは、まだアレクと子供を作る事なんて、考えたことも無かった。