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第百六十八話 特使

--北方の動乱に対して、バレンシュテット帝国が中立を宣言した翌日。


 帝都に相次いで三隻の飛行船が訪れ、皇宮併設の飛行場に着陸する。


 カスパニア王国、スベリエ王国、ゴズフレズ王国の特使達であった。


 三ヶ国の特使達はそれぞれ、皇帝ラインハルトに謁見を求める。



 


--皇宮


 ラインハルトは、謁見の間でカスパニア王国の特使を謁見する。


 バレンシュテット帝国側は、皇帝ラインハルト、皇妃ナナイ、皇太子ジークフリート、帝国魔法科学省長官のハリッシュの四人。


カスパニア側は、特使とその従者が二人であった。


 衛兵は口上を述べる。


「カスパニア王国特使、トウチャン伯爵。謁見!」


 カスパニアの特使は、貴族然とした男で、羽根飾りのついた黒の幅広い帽子を被り、赤い絨毯の上を従者を伴ってラインハルトが座る玉座の前まで歩いてくる。


 特使は、玉座の前まで来ると、羽根飾りのついた帽子を取って胸に当て、片膝をついて恭しく挨拶する。


「お初に御目に掛かります、ラインハルト皇帝陛下。私は、カスパニア王国特使、トウチャン伯爵と申します。御多忙のところ、この度は拝謁の機会を賜りまして恐悦至極・・・」


 特使がそこまで口にしたところでラインハルトは、玉座に座ったまま右手をかざして特使の言葉を遮る。


「特使、形式的な口上や世辞は必要無い。用件を伺おう」


 ラインハルトの言葉に特使は、不敵な笑みを浮かべる。


「恐れ入ります。では、早速、本題に。・・・我がカスパニア王国とゴズフレズ王国との戦争について、我が方に貴国の加勢をお願い致します。貴国と我が国で、ゴズフレズを南北に分割し、占領統治致しましょう」


 特使の言葉にラインハルトは無表情で告げる。


「特使。帝国が『中立宣言』をした事を知ったうえで、本気で言ってるのか?」


  特使は、ニヤけたまま答える。


「はい」


 ラインハルトのアイスブルーの瞳が冷酷に特使を睨む。


「我がバレンシュテット帝国は、カスパニアに加勢はしない。帝国は、ゴズフレズ王国と長年、友好関係にある。目先の利益のために信義に背き、長年の友誼(ゆうぎ)を違えるつもりは無い」


 ラインハルトの言葉に一瞬、特使の顔が引きつるが、作り笑顔で取り繕う。


「左様ですか。両国に利益となる話なので、陛下のお気が変わりましたら、我が国の大使に仰有(おっしゃ)って頂けたら幸いです」


 そこまで述べると、特使は恭しく一礼して謁見の間から立ち去って行った。


 ハリッシュは口を開く。


「帝国の辺境をしばしば侵犯してきた侵略国家が、よくも、まぁ、ぬけぬけと。『厚顔無恥、ここに極まる』と言いましょうか」


 ラインハルトは鼻で笑う。


「フッ。ダークエルフや港湾自治都市群と組んで麻薬貿易や奴隷貿易に手を染めていた外道どもが。それがカスパニアだ」





--半時後


 ラインハルトは、謁見の間でスベリエ王国の特使を謁見する。


 バレンシュテット帝国側は、先程と同じ皇帝ラインハルト、皇妃ナナイ、皇太子ジークフリート、帝国魔法科学省長官のハリッシュの四人。


 スベリエ側は、特使とその従者が二人であった。


 衛兵が口上を述べる。


「スベリエ王国特使、オクセンシェルナ伯爵。謁見!」


 スベリエの特使は軍人風の男で、スクウェアカットされた黒地のジャケットのフロントラインは、赤の縁取りが施され、左右に二列に並列に施された金ボタンで飾っていた。縁が飾られたトリコーン(三角帽子)被り、赤い絨毯の上を従者を伴ってラインハルトが座る玉座の前まで歩いてくる。


 特使は玉座の前まで来ると、帽子を取って胸に当て、片膝をついて恭しく挨拶する。

 

 「お初に御目に掛かります、ラインハルト皇帝陛下。私は、スベリエ王国特使、オクセンシェルナ伯爵と申します。この度は拝謁の機会を賜りまして恐悦至極・・・」


 特使がそこまで口にしたところで、再びラインハルトは、玉座に座ったまま右手をかざして特使の言葉を遮る。


「特使、形式的な口上や世辞は必要無い。用件を伺おう」


 ラインハルトの言葉に、特使はラインハルトを威圧しようと睨むように目線を向けて告げる。


「恐れ入ります。本題ですが、カスパニア王国によるゴズフレズ王国への侵略について、貴国は手出し無用に願います。ゴズフレズ王国は、長年に渡り、我がスベリエ王国に従属しており、我が国が核心的権益を持つ地であります。ゴズフレズに侵攻しているカスパニア軍など、我が軍が蹴散らして御覧に入れましょう」


 特使の言葉に再びラインハルトは無表情で告げる。


「特使。帝国が『中立宣言』をした事を知ったうえで、言ってるのか?」


  特使は、ラインハルトを睨んだまま答える。


「はい」


 ラインハルトのアイスブルーの瞳が冷酷に特使を睨む。


「我がバレンシュテット帝国は、ゴズフレズ王国に派兵はしない。帝国は『中立宣言』をしたが、ゴズフレズ王国とは長年、友好関係にあり、観戦武官と軍事顧問団をゴズフレズ王国に派遣して隣国の戦乱の監視に当たる」


 特使は、ラインハルトを睨んだまま告げる。


「左様ですか。『中立宣言』のとおり、貴国がゴズフレズ王国に派兵しないのであれば、何も問題ありません。では、失礼致します」


 そこまで述べると、特使は恭しく一礼して、謁見の間から立ち去って行った。


 ハリッシュは、大きなため息をつく。


「はぁ・・・。兵力十万のスベリエが、兵力百万を擁する帝国を、アレで威圧しているつもりですかね?」

 

 ラインハルトは、苦笑いしながら答える。


「こちらの真意を探り、念を押しに来たのだろう」






--半時後


 ラインハルトは、謁見の間でゴズフレズ王国の特使を謁見する。


 バレンシュテット帝国側は、変わらず皇帝ラインハルト、皇妃ナナイ、皇太子ジークフリート、帝国魔法科学省長官のハリッシュの四人。


 ゴズフレズ側は、特使と老執事一人であった。


 衛兵は口上を述べる。


「ゴズフレズ王国特使、カリン・ゴズフレズ王女。謁見!」


 ゴズフレズの特使は、淡い紫色と白のドレスを着たジークより年下の女の子であり、栗色の髪をした茶色の瞳の美人であった。


 赤い絨毯の上を従者の老執事を伴って玉座の前まで歩いてくると、ドレスの裾を摘まみ一礼して挨拶する。


「お初に御目に掛かります。ラインハルト皇帝陛下」


 極度の緊張のため、彼女の声とドレスの裾を摘まむ両手は震え、顔色は蒼白であった。


 ラインハルトは口を開く。


「特使。形式的な口上や世辞は必要無い。用件を伺おう」


 カリンは俯いたまま、口を開く。


「この度は、貴国との長年の友好の情にすがるべく拝謁させて頂きました。・・・我がゴズフレズ王国は、カスパニア軍の侵略を受け、滅亡の危機にあります。何卒、貴国の援軍をお願い致します」


 ラインハルトは口を開く。


「それはできない」


 ラインハルトの言葉を聞いたカリンが顔を上げ、茶色の瞳で列席する者を見る。


 玉座に座る皇帝ラインハルト、皇妃ナナイ、傍らに立つ皇太子ジークフリート、帝国魔法科学省長官ハリッシュ。


 ラインハルトは続ける。


「しかし、・・・」


 ラインハルトがそう言い掛けた瞬間、カリンはその場に崩れ落ちる。


「姫様!」


 カリンの傍らに居た老執事が、慌てて崩れ落ちるカリンの身体を抱き止める。


 ラインハルトは叫ぶ。


「衛兵! 特使を医務室へ運べ! 典医も呼べ!」

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