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第百六十話 野営訓練(五)

 アレクとルイーゼは風呂から上がり、アレクはルイーゼを背負ったまま、自分達のテントへ歩いて行った。


「よし、次行ってくるわ!」


 アルはそう言うと、鼻歌を歌いながら浴場へと向かう。


 裸になって浴場に入ったアルは、お湯で身体を流し木の樽の浴槽に浸かる。


「イテテ・・・。()みるなぁ~」

 

 日焼けと海水により、アルの肌にピリピリとした痛みが走る。


 浴槽に浸かりながら、アルは中堅職である剣闘士(グラディエーター)への転職を考えていた。


(父さんは、戦士から剣闘士(グラディエーター)転職(クラスチェンジ)した。・・・オレにもできるはず!!)


 アルは、浴槽から上がり椅子に腰掛ける。


転職(クラスチェンジ)できるかどうか、試してみるか・・・)


 アルが椅子に座って考え事をしていると、ナタリーが全裸で浴場に入って来る。


 アルは驚く。


「ナタリー!?」


 ナタリーは、タオルを手に恥じらいながら答える。


「アルの背中、流しに来たの」


 そう言うと、ナタリーはお湯で身体を流し、木の樽の浴槽に浸かる。


 ナタリーを見て、アルは焦ってしどろもどろになる。


「いや、ホラ・・・。結婚もしてないのに・・・、その・・・一緒に・・・風呂とか・・・」


 焦るアルの姿を見て、ナタリーは口元に手を当てて悪戯っぽく笑う。


「アルって、真面目なのね」


「そ、そうかな?」


 アルは、後頭部を手で掻いて誤魔化す。 


 ナタリーは、浴槽の木の樽の縁に両手を置くと、その上に顎を乗せ、アルに話し掛ける。


「ねぇ、アル。聞いても良い?」


「良いよ」


「私の事、好き?」


「・・・好きだよ」


「私もアルが好き」


「愛してる?」


「愛してる」


「・・・でも、毎晩、一緒に寝ているのに、アルは、私の事を抱こうとしないのね」


「それは・・・」


 アルは夜空を見上げると、ゆっくりと自分の考えを話し始める。


「オレが帝国軍人になって、自分で稼げるようになって、父さんや母さんに頼らないで、自分の力でナタリーと子供を養えるようになってから、って考えているからさ」


「そうなんだ」


 ナタリーは、自分の哲学を語るアルの背中をうっとりと眺め、聞き入る。


「オレの父さんと母さんは帝国軍人(※注1)で、家も貧乏って訳じゃないけど、アレクみたいに小遣いで帝国プラチナ貨(※注2)をジャラジャラ持てるほど、大金持ちって訳でもない」

 

(※注1 帝国軍 佐官 年俸700万円~1000万円相当)


(※注2 帝国プラチナ貨:一枚百万円相当)


「父さんや母さんを頼るんじゃなくて、ナタリーと子供は自分の力で幸せにしなきゃ・・・って思うんだ。一人の男としてね」


 アルは、普段は冗談を言ったり、ふざけたりしているものの、仲間やナタリーの事は、真剣に考えていた。


 アルの哲学を聞いて、ナタリーは微笑みながら答える。


「アル・・・、立派よ」





 ナタリーは浴槽から上がると、アルの後ろに跪く。


「じっとしててね」


 ナタリーは、石鹸を泡立てたタオルを手にアルの背中を擦り、流し始める。


 ナタリーがアルの背中をタオルで擦って洗っていると、ナタリーの胸がアルの背中に当たる。


 アルは気不味そうに告げる。


「あの・・・、ナタリー。当たっているんだけど」


「何が?」


 ナタリーは、微笑みながら答える。


「もぅ・・・、こうしちゃうから!」


 ナタリーは、アルの背中に後ろから抱き付く。


「いや・・・、ぷにゅって・・・」


「アルの背中って、広いわね」


「そう?」


 アルは、父ジカイラに似て筋骨隆々とした体格であり、肩幅も広かった。


 ナタリーがアルの前に回って跪くと、アルは焦りながら告げる。


「いや、前は、自分で洗うからいいよ!」


 ナタリーは、恥じらいながらアルに告げる。

 

「いいの。・・・恥ずかしがらないで」


 ナタリーは、アルの体を洗って石鹸をお湯で洗い流す。


 ナタリーは立ち上がると、アルの頭を自分の胸に抱き締める。


「アル・・・。私は、他の女の子にアルを取られたくない。ルイーゼは平気みたいだけど、私は嫌。・・・ずっと私だけを見ていて。・・・ずっと私の傍に居てね」


「ナタリー・・・」 




 満天の星空の下で、愛を語らう二人だけの世界には、さざ波の音だけが繰り返し響いていた。


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