第百五十九話 野営訓練(四)
--少し時間を戻した夕食後
トゥルムの勧めでアレクが浴場に向かい、少ししてからルイーゼがアレクの後を追うように席を立つ。
「アレクの背中、流してくる」
そう言うとルイーゼは、小走りで浴場に向かって行った。
二人が浴場に入ってから、程なくエルザが席を立つ。
「ちょっと、失礼」
アルがエルザに尋ねる。
「エルザ、どこに行くんだ?」
エルザは、少しムキになってアルに答える。
「デリカシーが無いわね! トイレよ! トイレ!」
呆れたようにアルが告げる。
「なんだ。・・・迷子になるから、あんまり遠くに行くなよ」
「迷子になんて、ならないわよ!」
一度、アルに呼び止められたエルザは、ぶつぶつ文句を呟きながら幌馬車へと向かう。
そして、一旦、幌馬車の陰に隠れると、エルザは忍び足でアレクとルイーゼが入浴中の浴場へと向かう。
「エルザ!」
突然、声を掛けられたエルザは、ビクンと全身を硬直させ獣耳と尻尾の毛を逆立たせて驚く。
声の主は、ナディアであった。
ナディアは、トイレに行くというエルザの後を追ってきたのであった。
エルザは、胸を撫で下ろしてナディアに告げる。
「なぁ~んだ。ナディアか」
「エルザ、どこに行くの?」
エルザは、口元に手を当てると怪しげな笑みを見せて答える。
「アレクとルイーゼが一緒にお風呂に入っているのよ? あの二人が一緒に入浴して、何もしない訳が無いじゃない?」
ナディアは呆れたように答える。
「つまり・・・、二人の入浴をのぞきに行くのね?」
「そうよ! だって、気になるじゃない! ナディアは気にならないの?」
ナディアは、気まずそうに横目でエルザから目を反らしながら答える。
「私も・・・、興味が無いと言えば、嘘になるかも・・・」
エルザは得意満面で告げる。
「でしょ! 気になるでしょ!? ちょっとだけよ!」
そう言って、エルザとナディアは忍び足で、アレクとルイーゼが入浴中の浴場に忍び寄ると、浴場に張られた天幕の隙間から、浴場の中をのぞく。
二人が中を覗くと、アレクは椅子に座り、ルイーゼは木の樽の浴槽に入っていた。
アレクとルイーゼが何かを話しているようだが、二人の声までエルザとナディアには聞こえなかった。
ルイーゼは浴槽から上がると、アレクの背中を洗い流し始める。
エルザは小声で話す。
「・・・至って、普通ね」
ナディアは答える。
「きっと、これからよ」
ほどなくルイーゼは石鹸を泡立てるとアレクの背中を擦り始める。
アルザは口を開く。
「ああっ!」
ナディアも呟く。
「始まったわね。・・・エロい! エロいわ!」
エルザは驚く。
「凄い! 凄いわ! まるで娼婦のような技じゃない!」
ナディアも口を開く。
「アレク。凄く気持ち良さそうね」
ルイーゼは、アレクと自分の身体をお湯で洗い流すと、アレクの前に回って跪いてキスする。
アレクは立ち上がってルイーゼの腕を取り、浴槽に使っている木の樽の縁にルイーゼの両手を着かせる。
そして、アレクは後ろからルイーゼを抱き始める。
覗き見するエルザとナディアのところまで、ルイーゼの声が聞こえてくる。
エルザは羨ましそうに呟く。
「良いなぁ~。ルイーゼ、凄く気持ち良さそう」
ナディアは、アレクとルイーゼを見ながら、何かを考えているようであった。
半時ほどで交わりを終えたルイーゼは、その場にへたり込む。
アレクは、腰が抜けて動けなくなったルイーゼを、甲斐甲斐しく世話していた。
その様子を見てエルザは呟く。
「アレク、優しいなぁ~」
考え込んでいたナディアは口を開く。
「ルイーゼ、上手いわね」
エルザはナディアに聞き返す。
「上手いって、何が? えっち?」
ナディアは笑いながら答える。
「えっちもそうだけど、・・・男女間のやり取りというか、駆け引きについてよ」
エルザは驚く。
「え? そうなの?」
ナディアは解説し始める。
「そうよ。 ・・・一つ目のポイントとして、ルイーゼは、アレクの背中を洗ったりして、アレクが、その気になるまでは、ルイーゼが主導しているじゃない?」
「うん」
「けど、アレクが、その気になってルイーゼを抱こうとしたら、ルイーゼはアレクに主導させているのよ」
「うん」
「ルイーゼは、アレクに抱かれているというスタイルなの。ルイーゼがアレクを抱いているんじゃなくて。・・・あくまで、アレクを主人として男として立てて、『女である私は、貴方に征服され、支配され、従います』って感じね。・・・ルイーゼに限らず、人間の男尊女卑社会だと、女はそう振る舞った方が男の人からの寵愛を受けられるのね」
「な、なるほど・・・」
「つまり、私やエルザみたいに強引にアレクの上に跨ったりしたらダメって事ね」
(※第九十二話 襲撃、肉食女子 参照)
エルザは、眉間にしわを寄せて、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「む~」
ナディアは解説を続ける。
「二つ目のポイントは、抱かれて『達している』、または『一緒に達している』っていう点ね」
「それなら私もナディアも大丈夫ね。アレクに抱かれたら、不感症でない限り、普通の女なら満足しちゃうわよ」
「ルイーゼは、アレクに抱かれて『達している』、または『一緒に達している』っていう事で、男の人が本能的に持っている『性欲』だけでなく、アレクに『女を満足させられる男』として、『攻撃欲』『征服欲』『支配欲』『承認欲』といった理性的な欲求も満足させているの」
「な、なるほど・・・」
「幼馴染という絆や、二人の互いの愛情が更にお互いの気持ちを昂らせているから、あの二人の交わりは、きっと、麻薬のような快楽でしょうね」
「ルイーゼがアレクの『第一夫人』になっているのは、伊達じゃないって事ね!」
「私達じゃ、あの二人の間には入れないわ。・・・って、そろそろ、二人が浴場から出てきそうよ」
「ヤバ! 戻らないと!」
エルザとナディアは、浴場の覗き見を終え、他のメンバーのところへ戻る。
アレクは、ルイーゼを背負いながら、浴場から他のメンバーのところへ戻って来る。
トゥルムはアレクに話し掛ける。
「隊長、風呂に入って、スッキリしたようだな」
アレクは苦笑いしながら答える。
「まぁね」
アレクに背負われているルイーゼを見て、ナタリーが驚く。
「どうしたの、ルイーゼ!? 真っ赤な顔して・・・、長湯で上せたの?」
ルイーゼは、上せたような真っ赤な顔で恍惚として汗ばんでおり、ぼんやりした表情でナタリーの方を向いて答える。
「・・・そうみたい。ごめんなさい。先に休むわ」
アレクはルイーゼを背負ったまま、二人が寝るテントへと向かって行った。