第百五十三話 意地と誇りの決着
アレクとルドルフの戦いを見ていたアルは、傍らに居るナタリーに話し掛ける。
「ナタリー。オレ、前から思っていたんだけど・・・、あの二人、似てないか?」
「ええっ!?」
アルの言葉にナタリーは驚き、改めてアレクとルドルフを見比べる。
アレクは、金髪にエメラルドの瞳であったが、ルドルフは、金髪に茶色の瞳であった。
ルドルフの茶色の瞳や鼻の形、身長や体型など細かい部分こそアレクと違うが、顔の輪郭や作り、耳の形までアレクに似ていた。
皇宮産まれで育ちが良く上品なアレクに比べ、田舎の工房育ちのルドルフは、アレクより粗野で背が高く、筋肉が付いていた。
ナタリーは答える。
「そう言えば、似てるかも・・・」
「だろ?」
アルとナタリーの評論を他所に、アレクとルドルフは剣を交えて斬り結ぶ。
腕力は、アレクよりルドルフの方が強く、アレクはルドルフに押される。
アレクは嗚咽を漏らす。
「くっ・・・」
「おらぁ!」
ルドルフは、剣で斬り結んだまま叫ぶと、アレクに蹴りを食らわせる。
「ぐはっ!」
アレクは後ろに後退るが、再びルドルフに向けて剣を構える。
ルドルフはアレクに斬り掛かり、二人は再び斬り結ぶ。
「負けるかよ! テメェみたいな『お坊ちゃん』に!」
ルドルフは叫ぶと、剣を交えながらアレクに頭突きを食らわせる。
「がはっ!」
再びアレクは後ろに後退るが、再びルドルフに向けて剣を構えて斬り掛かる。
二人の戦いを見ていたアルは呟く。
「ルドルフの奴。クールに見えて、結構、エグい戦い方するんだな」
ユニコーン小隊の女の子達は、アレクを応援する。
「アレク! 頑張って!」
女の子達の声援に、アレクはチラッと声のした方を見る。
ルイーゼは祈るようにアレクを見詰めていた。
アレクはルドルフの気迫に押されていたが、ルイーゼの顔を見て冷静さを取り戻した。
(・・・落ち着け! 相手はルドルフだ。同じ中堅職の騎士同士、勝てない相手じゃない)
アレクは、目標としている兄ジークの姿を思い出す。
ジークが抜刀して構えている姿と、目の前のルドルフの姿を重ねる。
すると、アレクには、兄ジークに比べ、ルドルフは一回り小さく見えた。
(上級騎士である兄上の攻撃は、こんなものじゃなかった!)
ルドルフは、大上段に構えてアレクに斬り掛かる。
アレクは剣を構えると、ルドルフの斬撃から体の中心軸を避けるように身体を動かし、剣でルドルフの斬撃を受け流す。
(こうやって・・・、こうだ!)
ルドルフは、アレクが上級騎士の剣技である『受け流し』で自分の斬撃を躱したことに驚き、口を開く。
「なん・・・だと・・・!?」
次の瞬間、アレクが上級騎士の剣技『斬り返し』でルドルフに反撃する。
高速で斬り返してくるアレクの剣先がルドルフの首筋に迫る。
「うぁ!」
ルドルフは、そう口にすると、上体を反らしてアレクの剣を避けようとするが、アレクの剣先がルドルフの面頬と兜を弾き飛ばし頬を切り裂いた。
地面に落ちた兜が乾いた金属音を立てる。
ルドルフは身体のバランスを崩し、その場に尻もちを着く。
「おおっ!」
二人の勝負の決着が着いた事に、周囲に居るユニコーン小隊のメンバー達は感嘆の声を上げる。
アレクは、地面に両手を着いて座るルドルフに剣先を向けて、呟く。
「オレの勝ちだ」
ルドルフは、自分がアレクに敗れた事に呆然として尻もちを着いたままアレクの顔を見上げる。
アレクは剣を鞘に仕舞うと、呆然と座るルドルフをそのままにして、ユニコーン小隊の仲間達と共にグリフォン小隊の本陣へと歩いて行った。
ルドルフは呆然としながら、自分の右手の掌を開いて眺めながら呟く。
「このオレが・・・負けたというのか? あんな・・・お坊ちゃんに?」
ほどなく、グリフォン小隊の本陣から歓声が上がる。
アレク達がグリフォン小隊の旗を奪取して振っているためであった。
こうして、天覧試合である小隊対抗模擬戦トーナメントの優勝は、アレク達ユニコーン小隊に決まり、ルドルフ達グリフォン小隊は、準優勝となった。