第百四十五話 野戦での一騎打ち
キャスパーは、盾にして隠れていた仲間の従騎士の影から出て、立ち上がる。
キャスパーが周囲を見回すと、自身を除いたバジリスク小隊の前衛の三人は、重傷を負って戦闘不能であり、後衛の四人の女の子は、アレク達に捕まって周囲を取り囲まれ、座り込んでいた。
キャスパーは、戦闘可能で残っているのが自分一人であることに気が付く。
キャスパーは、手にしている剣でアレクを指しながら口を開く。
「おい、貴様! 帝国貴族である、この私と、正々堂々、一騎討ちで勝負しろ!」
キャスパーの言葉を聞いたアルは、口を開く。
「は? 何言ってんだ?? このまま、お前をタコ殴りにするに決まってるだろ! こっちが有利なのに、ワザワザ一騎討ちなんて。こっちにどんな利益があるんだ?」
キャスパーは続ける。
「ふん! 賤民め! 怖じ気付いたか!・・・まぁ良い。私が勝ったら、ユニコーン小隊の敗北を認めろ!! ・・・もし、お前が勝ったら、そこの女四人をくれてやる! 全員、貴族子女だ。犯すなり、奴隷にするなり、好きにしろ!」
キャスパーの言葉を聞いたバジリスク小隊の女の子達四人は、一斉にキャスパーに抗議の声を上げる。
「ちょっと!」
「勝手に!?」
「何よ! それ!?」
「嫌ぁああああ!」
やり取りを見ていたアルは、呆れたようにアレクに話し掛ける。
「・・・格下である基本職の従騎士のアイツに、中堅職の騎士であるお前が負けるなんて、万に一つも無いだろうけど。・・・アレク、どうする?」
アレクは、キャスパーの物言いが気に入らなかった。
自分の小隊の女の子達を自分の妻でも妾でもないのに本人達の意思を無視して『賭け事の景品』として扱っている事に、どうしようもなく腹が立った。
アレクは、キャスパーに向けて剣を構える。
「良いぞ! その勝負、受けてやる!」
アレクとキャスパーは、試合会場の真ん中で互いに剣を構えて対峙する。
小隊長同士の一騎討ちが始まった事に、天覧試合の観客席は盛り上がり始める。
貴賓席からオペラグラスで試合を見ていたジークは呟く。
「アレクの奴、一騎討ちなんて。・・・乗せられたな」
ラインハルトは、ジークの方を向いて答える。
「自軍が圧倒的に有利な状況で、隊長同士の一騎討ちなど『一軍の将』としては下策だ。だが、『帝国騎士』としては、悪くない」
アレクを評価するラインハルトの言葉にジークは驚く。
「父上!?」
ラインハルトは微笑みながら続ける。
「ふふふ。直接、剣で叩きのめさないと気が済まない。余程、腹に据えかねたのだろう? アレク」
アレクとキャスパーは、試合会場の真ん中で互いに剣を構えて対峙し続けたが、キャスパーが先に攻撃を始める。
「行くぞ!!」
キャスパーは、連続でアレクに斬り掛かる。
アレクは、キャスパーを観察しながら斬撃をかわしていく。
(・・・遅い)
三回連続でキャスパーの斬撃をかわしたアレクは、剣でキャスパーの斬撃を受け止める。
乾いた金属音が試合会場に響き渡る。
(・・・それに軽い)
防御を続けるアレクにキャスパーは軽口を叩く。
「フハハハハ! 皇太子殿下の側近である私の剣に手も足も出ないようだな! 思い知ったか! 賎民め!」
アレクは、キャスパーを睨み付ける。
(兄上は、決してお前のような者など、相手にしない!)
アレクは反撃に転じる。
アレクはキャスパーの斬撃を避けると、思い切り剣の背でキャスパーの顔面を殴り付ける。
「ぶはっ!?」
鈍い音と共にアレクの剣の背がキャスパーの顔面に炸裂し、鼻が潰れて鼻血が噴き出る。
「ぐぁあああああ!」
キャスパーは、鼻を押さえながら地面を転がる。
アレクはキャスパーの頭を踏み付けると、キャスパーの目前の地面に剣を突き立てて尋ねる。
「・・・まだ、やるか?」
アレクからの問いに、キャスパーはあっさり降参する。
「・・・ま、参った」
キャスパーがアレクに降参する様子を見たアルは口を開く。
「アレクの勝ちだ!」
トゥルムは、三叉槍を持ったまま両手を広げ、勝利の雄叫びを上げる。
「うぉおおおお!」
ユニコーン小隊の女の子達も顔を見合わせると、歓声を上げて勝利を喜ぶ。
アレクは、キャスパーの目前の地面に刺した剣を引き抜いて鞘に納めると、座っているバジリスク小隊の四人の女の子達の元へ向かう。
近寄って来るアレクに、バジリスク小隊の四人の女の子達は、怯えたように座ったまま身を寄せ合い、後退る。
アレクは、怯えるバジリスク小隊の四人の女の子達の前で『古典的騎士典礼』に則って片膝を着くと、穏やかに告げる。
「私は、貴女達の誇りのために戦った。貴女達は、賭けの景品ではないし、私は犯したり、奴隷にしたりはしない。我が剣に掛けて、貴女達は自由だ」
アレクの『古典的騎士典礼』に則った帝国騎士としての毅然とした振る舞いと穏やかに女の子達に掛けた言葉は、貴族子女であるバジリスク小隊の女の子達を安堵させる。
アルは、アレクを冷やかす。
「カッコ良く、決めてくれるねぇ~」
アレクは、苦笑いしてアルに答える。
「まぁね」
ナディアは、地面に転がっているキャスパーを足で踏み付けて、声を上げる。
「エルザ! ルイーゼ! ナタリー! こっちよ!」
ナディアに呼ばれ、ユニコーン小隊の三人の女の子はナディアの元に駆け寄る。
ナディアは口を開く。
「自分の小隊の女の子を掛け事の景品にするような、このフザケた奴には相応の罰を受けて貰わないとね!」
ルイーゼはナディアに尋ねる。
「ナディア、何をする気?」
ナディアは答える。
「コイツを『割礼』してあげましょ!」
ナディアの言葉にエルザは賛同する。
「いいね! コイツだけは一度、徹底的に懲らしめないと!」
エルザは、キャスパーを仰向けに寝かせると、キャスパーの顔に背を向けるようにキャスパーの胸元にどっかりと腰を下ろして座り、抑え込む。
「ぐあっ!」
嗚咽を漏らすキャスパーに、エルザは笑顔で告げる。
「どう? エルザちゃんの大きなお尻を間近で見られるなんて、幸せでしょ?」
ナディアは指示を出す。
「ルイーゼとナタリーは、コイツの両足を押さえて!」
「判ったわ!」
ルイーゼとナタリーは、それぞれキャスパーの両足を広げて、足の上に座って抑え込む。
キャスパーは騒ぎ立てる。
「おい! よせ! やめろ! お前達!」
ナディアはレイピアを抜くと、キャスパーのズボンとパンツを切り裂く。
ナディアは微笑みを浮かべながら、キャスパーに告げる。
「大丈夫。ちゃんと割礼してあげるから。包茎も治ってちょうど良いでしょ?」
ナディアの言葉を聞いたキャスパーが叫ぶ。
「よせ! やめろ! やめろぉ~!」
ナディアは、勢い良くレイピアの剣先を突き立てる。
キャスパーは悲鳴を上げる。
「ヒィヤァアアアア!!」
ナディアは、クスリと笑みを浮かべながらキャスパーに告げる。
「・・・残念、外しちゃったわ。・・・私、外した事なんて無いのに」
エルザがふと見ると、キャスパーは割礼される恐怖のあまり失禁していた。
「・・・ナディア。彼、また漏らしちゃったみたいね」
ナディアとエルザの言葉を聞いたユニコーン小隊の女の子達は、失禁したキャスパーを見ながら笑い出す。
アレクは、アルと共にバジリスク小隊の本陣に向かい、旗を取ると高く掲げて旗を振る。
アレク達ユニコーン小隊の勝利であった。




